開業後、しばらくすると1日の患者数や、売り上げに限界が見える。さらに上を目指すには、客観的な経営分析が必要だ。日本医業総研の植村智之氏によると、まず着目するのが「診療単価」と「レセプト単価」である。
診療単価とは患者1人あたりの平均単価で、1ヵ月の売り上げ÷同月の延べ患者数で割り出す。レセプト単価は、1人の患者が医院で使った1ヵ月あたりの医療費のことだ。
「この二つが、医院の規模や診療内容にふさわしい数値に達していない場合、原因を考えます。必要な検査を行っているか、請求漏れはないか。あるいは、診療単価が高い時はどんな検査をしていたか。レセプト単価が高い患者は、月に何回来院しているかなどを分析するのです。時系列に並べ、前年と比較することも大切です」
来院エリアの分析も、医院の課題を指し示す。日本医業総研では、患者のリストから住所のみを抽出し、専用ソフトに入れてマッピングしている。
「開業前の想定より来院患者数の伸びにくいエリアは、競合が強い、良くない口コミが広がっているなどと仮説を立て対応策を練ります。野立て看板を立てる、チラシをポスティングするなど、さらなる宣伝をします」
患者が増えない原因を患者アンケートから探る
他に、新患数と再診数の推移も、要チェックである。
「経営が軌道に乗った頃には、新患が減って再診が増えます。もし、新患の割合が高いままだとすると、患者が初診で離れている可能性があります」
思うように患者が増えない原因は、患者アンケートから見えてくる。
「時々、アンケート回収ボックスを設置している医院がありますが、患者としては書きにくいものです。私たちは、すでに来院しなくなった患者も含めてアンケート用紙を郵送しています。だいたい3割ほどは返信してもらえます」
ある医院では、開業5年目で患者数が横ばいになった。もっと上を目指すために患者アンケートを実施。その結果、待ち時間が長いことと、駐車場が足りないことに、患者が不満を感じていると分かった。
「この医院は、前日から順番待ちシステムの登録を受け付けていましたが、急患も受け入れていたために待ち時間が長くなっていました。そこで、順番待ちは診療開始から30分後に受け付けることにしました。駐車場は、100メートルほど離れた月極駐車場と契約し、『○○医院第二駐車場』と看板を立てました。宣伝効果も見込めます」
さらに、患者の不満に対応したことを院内に掲示。患者の話を聞く医院だと印象づけて、経営が改善した。
なお、待ち時間の長さは、もっとも多く寄せられる患者の不満だ。「診察が長いとしたら、医師以外でも可能な業務を医師がしていないか確認します。カルテ入力は医療クラークに、患者の誘導は看護師に任せるなどの対応法があります。会計が遅いとしたら、電子カルテの導入を検討します」
他にも、医師、スタッフの接遇、待合室の狭さ、診察室の声が漏れているなど、アンケートから分かる問題点がある。それらを一つずつ解決することが、医院の経営改善に欠かせない。
患者アンケートによく寄せられる不満
- 診察、会計の待ち時間が長い
- 駐車場が足りない
- 医師やスタッフの接遇に問題がある
- 待合室が狭い
- 診察室の声が漏れている
- 診療時間が短い
- 植村 智之氏
- (株)日本医業総研 東京本社 シニアマネージャー
- これまで約400件のクリニック開業を成功に導いた東京本社の責任者。自身も60件超の開業案件を手掛けている。無理なく事業が軌道に乗る資金計画に定評がある。
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