後悔しないために知っておきたい
開業マニュアル

Phase1 方針検討

自分の「強み」「弱み」を整理するところからスタート

医師のキャリアにおいて、「いつかは開業」は普遍的なテーマだ。しかし、医院同士の競争が激しくなっている今、十分な準備をしない開業は経営難に陥りかねない。そこで、医院開業コンサルタントとして数多くの実績がある日本医業総研の植村智之氏のアドバイスのもと、後悔しないための「開業マニュアル」を12回シリーズでお伝えする。

一般的に、開業をイメージしたときは「どの辺の場所にするか」と立地や物件から考えがちだ。だが、植村氏によると、十分な方針検討が何より先決だと言う。「どのような医院にしたいか、『選択と集中』が大切です。まずは、これまでの経験を振り返り、自分の強みと弱みをよく分析しましょう。強みを生かした診療コンセプトを立て、ターゲットとする患者層を定めるのです」

ここで失敗しがちなのは、自分が実施できるすべての領域を提供しようとするパターンだ。循環器内科で下肢静脈瘤の手術もできるようにしたり、一般内科の診療の合間に少しだけ在宅診療も行ったり、といったケースである。一見、幅広い診療は、患者に喜ばれそうにも思える。しかし、それはかつての話のようだ。「今は各種専門医院も増えており、専門性の高い診療を求める患者はそちらに行きます。片手間のように実施していても、患者に選ばれないことが多いのです。むしろ、呼吸器内科医なら、内科だけでなく『呼吸器内科』に絞るなど、自身の専門性をコンセプトとする方法があります。専門的治療が必要な呼吸器疾患の患者をターゲットにするのです」

医師の強みは、診療内容だけとは限らない。「勤務医時代にコミュニケーションが得意で高齢者に人気があった、などというのも大きな強みです。地域の高齢者をターゲットとし、『気軽に相談できる医院』をコンセプトにできます」

逆に、自分の弱みに手を出さないことも重要なポイントだ。患者層の拡大を狙って「内科・小児科」と標榜しようと思っても、「実は小児はあまり診たことがない」などという場合は、無理をしないことが懸命だ。

自分の強み、弱みを整理する際は、自問自答して紙に書き出してみるほか、誰かとディスカッションするとより明確になる。「医師同士だと診療に関することしかわからないかもしれません。家族に聞くなどして、自身の人柄も含めた客観的な意見をもらいましょう」

開業までにかかる期間を、あらかじめ理解しておくことも重要だ。「思い立ったら数ヵ月で開業できると考えている医師が多いのですが、実際にはテナントなら1年、戸建ては1年半ほどかかります。そのうち、半年は立地選定のマーケティングの期間です。立地は、その後の集患に大きく影響しますから、十分に調査、検討して決めることが大切です」

今月のチェックポイント

  • これまでの経験を振り返り、自分の強み・弱みを分析する。
  • 強みを生かした診療コンセプトを立てる。
  • ターゲットとする患者層を定める。
  • 開業準備期間は、テナントなら1年、戸建ては1年半と理解する。

植村 智之氏

植村 智之
(株)日本医業総研 東京本社 シニアマネージャー
これまで約400件のクリニック開業を成功に導いた東京本社の責任者。自身も60件超の開業案件を手掛けている。無理なく事業が軌道に乗る資金計画に定評がある。