後悔しないために知っておきたい
開業マニュアル

Phase7 病院開業の人材採用

受付スタッフや看護師を採用するには、まず採用計画を立てる。募集人数、賃金、雇用形態、勤務時間などを考え、必要な人件費をあらかじめ想定しておくのだ。日本医業総研の植村智之氏によると、開業当初の募集人数は診療科や医院の規模によって異なるものの、受付スタッフは2人、看護師は1〜2人が無難なようだ。加えて、なるべくパート採用にすることを勧める。

「パート採用は、社会保険料などの間接人件費を抑えられます。また、忙しさに合わせてシフトを増減しやすいため、経営が安定するまでの期間もフレキシブルに対応できます。医院が黒字化したら、常勤化を考えましょう」

人件費は売上の20%台前半が適正だと言う。その範囲に収まることを意識しつつ、時給を設定しよう。

「受付スタッフの時給は都心で1000円〜が相場。郊外にいくほど安くなります。近くにある他院の求人広告を参考にして、地域相場と同等で募集するのが基本です。一方、看護師の時給は都心で1900円〜が相場ですが、売り手市場で人員確保が難しい。相場より少し上で募集したいところです」

“理想のスタッフ像”を考えておくことも、院長として大切な仕事だ。

「細かなことに気付く医師にとって、大雑把なスタッフは苦痛の原因になります。逆に、大らかな医師に神経質なスタッフは合わないことがあります。『自分にないものを補完するのはどんな人材か』の観点で、一度、自己分析をしておく必要があります」

元勤務先の同僚や、妻をスタッフにする際の注意点

以上の採用計画は、医院の事業計画を立てる段階で考えておくべきことだ。実際に募集をかけるのは、開業3ヵ月前。求人媒体にはネット、フリーペーパー、新聞折り込み、さらに紹介会社がある。立地などによって、各媒体をうまく使い分けよう。

「都心のターミナル駅にある医院は、広域に募集をかけられるネットが向いています。看護師は、看護師募集の専用サイトを使うといい。短期間で募集する時や、専門性を重視したい時は紹介会社を利用します。紹介会社は採用に至りやすい方法ですが、手数料を勘案し、慎重に検討しましょう」

地域密着型の医院は、フリーペーパーと新聞折り込みが適している。 「配布範囲が限られる紙媒体は、特に受付スタッフの募集に使います。比較的、近所に住む主婦層がターゲットになるためです。自院の最寄り駅周辺と、その駅から何駅か郊外にある駅にも広告をまくといいでしょう。フリーペーパーは20〜30代の若手、新聞折り込みは40代以上の年代がよく見ています」

なお、元勤務先の同僚や、妻を採用しようと考えるなら、注意が必要だ。

「同僚として接する時と、雇用関係になった時とでは印象が違うものです。院長がコントロールできる人か、よく考えましょう。病院で当直をしている看護師は、月給が30万円以上のこともあります。待遇面が見合うかどうかも重要です。妻に関しては、中途半端な関わり方はせず、院長とスタッフの橋渡し役となるか、経理・総務などの裏方に専念するか決めましょう。妻が看護師の場合は、他の看護師がいない日を勤務日にするなどの配慮も必要です」

求人媒体の使い分け

  • ネット
    広域に募集する時に最適。看護師専用サイトもある。
  • フリーペーパー
    駅などにあり、20~30代の募集に向いている。
  • 新聞折り込み
    読者の年齢層が比較的高く、40代以上の募集に適する。
  • 紹介会社
    主に看護師の募集に使用。登録者が多く、採用に至りやすい。

植村 智之氏

植村 智之
(株)日本医業総研 東京本社 シニアマネージャー
これまで約400件のクリニック開業を成功に導いた東京本社の責任者。自身も60件超の開業案件を手掛けている。無理なく事業が軌道に乗る資金計画に定評がある。