【第6回】医療の現場から考える 在宅医療の「今」と「これから」

  • 記事公開日:
    2023年11月10日

近年、医療の分野においては「チーム医療」の重要性が唱えられている。チーム医療については、2010年に厚生労働省より出された「チーム医療の推進に関する検討会」の報告書で触れられて以来、広く知られるようになった。そこではチーム医療に対する一般的理解として、「医療に従事する多種多様な医療スタッフが、各々の高い専門性を前提に、目的と情報を共有し、業務を分担しつつも互いに連携・補完し合い、患者の状況に的確に対応した医療を提供すること」と記している。特に在宅医療にあっては、このチーム医療が機能しているかどうかが非常に大きなポイントとなる。シリーズ最終回の今回は、ふたば在宅クリニックの理事長で医師の石井成伸氏に、チーム医療の実際と課題について聞く。

在宅医療と切り離せない、
「チーム」という視点から見る
医師の使命と役割

多職種連携により
地域そのものを病院と捉える

現在の急激に進む高齢化の中にあって、「地域包括ケアシステム」の構築が急がれている。これは高齢者、あるいは病気を持つ人が、住み慣れた地域で安心して暮らしていける仕組みであり、医療に留まらず、福祉・介護の分野も“包括”して、地域全体で取り組まなければならないものだ。そこでは各分野のスペシャリストによる多職種連携が欠かせない。

「まず在宅医療の分野で言えば、地域全体がひとつの病棟の役割を果たすことが求められています。当クリニックのような在宅医療支援診療所が医局に、訪問看護ステーションがナースステーションに、道路が病棟の廊下に、調剤薬局が薬局に当たります。さらにデイサービスやデイケアサービスが病棟のデイルームに、通所のリハビリ施設がリハビリ室になります。そして患者さんの居宅を病室として、病院と変わらない質の医療提供を目指していきます」と石井氏は語る。

ここでは医師を始め、訪問看護師、薬剤師、栄養士、理学療法士、歯科医師、さらに在宅の場合には医療以外の分野として、介護福祉士、ヘルパー、ケアマネジャー、ソーシャルワーカーといった多数の専門職が関わり、地域そのものを病棟として機能させていくことになる。そこで重要になるのが、これらの多職種がいかに連携し、“チーム医療”を形にしていくかだ。

チーム医療に期待できる効果としては、やはり厚労省の「チーム医療の推進に関する検討会」の報告書の中で、①疾病の早期発見・回復促進・重症化予防など医療・生活の質の向上、②医療の効率性の向上による医療従事者の負担の軽減、③医療の標準化・組織化を通じた医療安全の向上などと記されており、これらチーム医療の“メリット”を、どう在宅医療にもたらしていくかが重要になる。

理事長 石井 成伸 氏
理事長 石井 成伸 氏 ◎2008年/聖マリアンナ医科大学 卒業、東京女子医科大学病院 初期臨床研修医 ◎2010年/東京女子医科大学病院 第一内科 ◎2012年/社会福祉法人恩賜財団済生会支部 埼玉県済生会栗橋病院 呼吸器内科 ◎2017年/ふたば在宅クリニック 開設 ◎2018年/医療法人社団 爽緑会 ふたば在宅クリニックと法人化
■認定医・専門医/○日本内科学会認定 内科認定医 ○日本呼吸器学会認定 呼吸器専門医 ○がん緩和ケア研修会修了医 ○認知症サポート医 ○難病指定医 ○臨床研修医指導医

患者・家族も含め、同じ目的に向かう
ドーナツ型の体制を目指す

「これまでも医療現場では、医師の判断により調剤やリハビリを行うなど、多職種がそれぞれの役割を果たしてきました。これは、いわば医師を頂点とした“ピラミッド型”と例えられるものです。病院などで多くの患者さんを診ていく場合、ピラミッド型は効率的ではありますが、患者さんの声が届きにくかったり、他の職種の意見などが反映しにくかったりといった面もありました。そこで現在、在宅医療で目指されているのは、“ドーナツ型”の連携によるチーム医療です。」と語る石井氏。

ドーナツ型のチーム医療とは、一般的に患者や家族を中心に置いて、その求める医療を提供するために各職種が輪となって情報を共有し、自由に意見を交換しながら、それぞれの専門性を発揮していくものとされている。

「例えば褥瘡や排泄などの問題に関しては、訪問看護師さんが患者さんの状況をよくわかっている場合が多く、医師への報告とともに、体位交換や導尿など必要と考えられる対処を自身の判断で行うことも少なくありません。薬剤師さんや栄養士さんにおいても同様で、患者さんの問題に対して、薬剤師であれば、どういった薬品を使っていけばいいか、栄養士であれば、改善するための栄養の摂り方など、それぞれの専門分野からの提案を行い、医師もそれを受け入れて実行することにより、効果を現す場合もあります。」

またドーナツ型のチーム医療でも、さらに理想的なのが、患者や家族もチームの一員となり、医師をはじめとした各職種とともに同じ目的に向かっていくことだという石井氏。

「具体的に、日常にあっては軟膏の処置やたんの吸引、浣腸、自己注射のサポートなど、ご家族が果たす役割も数多くあります。また常に身近で患者さんと接しているからこそわかる、ちょっとした変化や、患者さんの要望などがあります。こうした情報をチームで共有させていくこともご家族の大切な役割となります。同様に患者さんご自身も医療の受け手であることにとどまらず、可能な範囲で医師や看護師、その他の職種との話し合いに参加していただくことで、ご自身としても受けたい医療がより明確となり、生活の質の向上につなげていくことも可能になります。」

チームの力を最大限に引き出すのは
医師のコミュニケーション力

こうしたチーム医療を推進していく上で、最も重要なのが医師のコミュニケーション力であると語る石井氏。ドーナツ型のチーム医療であっても、リーダーシップをとるのは、あくまで医師であり、各職種が十分にそれぞれの専門分野の力を発揮できるよう、環境を作っていくのも医師の大切な役割だという。

「医師は患者さんに対してだけではなく、各職種ともコミュニケーションを密にし、それぞれが自由に意見や考えを表せるような場を作っていくことが求められます。医療に関しては医師が責任を持ちますが、全ての領域を医師がカバーすることは難しいと考えられます。ですから、それぞれの専門性を理解し、尊重し、最大限に力を発揮してもらいながら、チームとしての方針や提案を決定していくことが必要となります。さらに言葉の上だけではなく、行動面でも表現していくことはとても重要で、『あの先生が意見を取り入れて実行してくれた』、『あの先生が頑張っているから、もう少しこちらでも自分たちでできることはやろう』というような意識をチーム内に醸成することにつながります。」

福祉・介護を含め、
周囲を巻き込んでいく力が重要

またチーム医療を推進していく上では、介護や福祉を含めた地域との連携も重要になるが、そこでもリーダーシップを発揮していくためには、社会の動きや保険制度、地域における医療資源などについても情報を収集する力、周囲を巻き込んでいく行動力が求められるのではないかと石井氏は言う。

「こうしたことを医師が一人で担っていくのは大変でしょう。そこで当クリニックのように、まずクリニック内がチームとして機能していくのも、ひとつの在宅医療の在り方かもしれません。当クリニックは現在、医師としては呼吸器・循環器・消化器の学会認定専門医中心に脳神経科・泌尿器科・皮膚科・精神科に至る総勢20名という体制を取り、専門外の症例に関しては他科の医師の意見を求められるようになっています。また様々な法令や保険制度に詳しい事務スタッフや、地域連携看護師による体制も整備されており、様々なシチュエーションに対して、適切な情報共有やアクションを起こすことが可能になっています。」

チーム医療においては、その基本に医師のコミュニケーション力及びリーダーシップなど、いわばソフトスキルが必要であることがわかったが、そのスキルを育てる、あるいはサポートする体制を構築することも、今後の在宅医療にとっては重要な課題と言えるかもしれない。

ふたば在宅クリニックの複数の医師および多職種がチームを組み、コミュニケーションを取っている様子
ふたば在宅クリニックでは、複数の医師および多職種がチームを組み、コミュニケーションを密に取ってサボートし合いながら、質の高い在宅医療を実現している。
この記事を読んだ方におすすめ
幅広く求人を検討したい方
非公開求人を紹介してもらう
転職全般 お悩みの方
ご相談は無料転職のプロに相談してみる

あわせて読みたい記事

第1~4回に続き、看取りの実際について、ふたば在宅クリニックの理事長で医師の石井成伸氏に話を聞く。

第1~3回に続き、ふたば在宅クリニックの理事長で医師の石井成伸氏に話を聞きつつ、「在宅医療でできること」について考えていく。