【第3回】医療の現場から考える 在宅医療の「今」と「これから」

  • 記事公開日:
    2023年08月10日

現在、日本で整備が進められている地域包括ケアシステム。これは1947年~1949年に生まれた「団塊の世代」がすべて75歳以上の後期高齢者となる2025年が構築の目処となっている。シリーズ3回目の今回は、地域包括ケアシステム整備の中にあって重要な役割を果たす「訪問診療」に取り組む「ふたば在宅クリニック」の理事長で医師の石井成伸氏に、地域におけるネットワーク構築について聞く。

地域のネットワークを構築しながら、
顔の見える連携を重視し
持続可能な医療体制を目指す

同じ方向を向いて切磋琢磨しながら
地域全体で見ていくことが重要

地域医療が、よりスムーズに回っていくためには、まず、在宅医療施設と地域の中核病院との連携が重要になると石井氏は語る。連携を深めることで、困っている患者やその家族が適切な医療環境に置かれ、そして病院など医療従事者側の負担軽減にもつながるという。

「最初に埼玉県久喜市で在宅クリニックを開設した際は、意識的に埼玉県済生会栗橋病院(現・埼玉県済生会加須病院)や埼玉県立がんセンターといった病院と密接に連携を取るようにしました。在宅医療がどこまでできるのか、知っている病院の先生はそう多くはありません。ましてや、私が始めた『ふたば在宅クリニック』がどんな在宅医療を行うかなどは全くご存じないわけです。そこでまず、実際に先生方にお会いするところから始めて、私たちを知ってもらうことが第一歩となりました。」

在宅医療施設に従事する医師と、病院にて在宅医療以外の診療にあたる医師が、お互い顔の見える関係であること、そこから生まれる信頼関係が非常に重要だと語る石井氏。

「多くの場合、病院を退院した患者さんが在宅医療へと移行していきます。その際、病院の主治医としては、自分の患者さんを、どんな在宅医療施設に任せるのかは気になるでしょう。その時に、日頃から連携を密にし、私たちがしっかりとした在宅医療の提供を行っていることを知っていれば、『ふたば在宅クリニックなら安心して任せられる』と思ってもらえますし、また、在宅において、いざ急性増悪などで入院が必要になった場合、スムーズに受け入れ態勢を取っていただくこともできます。」

顔の見える信頼関係を築いていったこともあり、現在、ふたば在宅クリニックの担当する患者のほとんどが、病院からの紹介だという。

「今後、地域医療が機能していくためには、患者さん一人ひとりを中心にして、在宅クリニック、基幹病院、療養型の病院、さらには訪問看護ステーションやケアマネジャーさんが所属する居宅介護支援事業所など、介護・福祉の分野も含めた各機関の関係者が、より良い体制とはどんなものなのか。同じ方向を向いて考え、交流し、切磋琢磨していくことが大切なのではないでしょうか。

理事長 石井 成伸 氏
理事長 石井 成伸 氏 ◎2008年/聖マリアンナ医科大学 卒業、東京女子医科大学病院 初期臨床研修医 ◎2010年/東京女子医科大学病院 第一内科 ◎2012年/社会福祉法人恩賜財団済生会支部 埼玉県済生会栗橋病院 呼吸器内科 ◎2017年/ふたば在宅クリニック 開設 ◎2018年/医療法人社団 爽緑会 ふたば在宅クリニックと法人化
■認定医・専門医/○日本内科学会認定 内科認定医 ○日本呼吸器学会認定 呼吸器専門医 ○がん緩和ケア研修会修了医 ○認知症サポート医 ○難病指定医 ○臨床研修医指導医

地域医療の“核”と捉え
地域連携室を強化

在宅医療施設が病院と連携していく際に、“核”となる重要な存在が、「地域連携室」だと語る石井氏。ふたば在宅クリニックでは、病院の地域連携室と同クリニックの地域連携室との連携を深めていくとともに、同クリニックの地域連携室の強化に取り組んでいるという。

「通常、地域連携室は資格を持っていない一般の方が担当している場合も少なくないのですが、当クリニックの地域連携室のスタッフは、基本的に経験が豊富な看護師、もしくはソーシャルワーカーと有資格者が担当しています。常に医師同士が連携を取り、主導していくことができれば良いのですが、それはなかなか難しいものがあります。地域連携室同士が、うまく連携が取れ、患者さんの情報を共有し、体制が整えられていくのが理想ですね。分院によっては、各病院との連携が、すでに“あうんの呼吸”と言えるレベルまで醸成できています。」

同クリニックの地域連携室の役割としては、病院以外にも訪問看護ステーションや、介護・福祉関連施設との連携も含まれる。その際にも、有資格者がスタッフとして担当していることは大きなメリットとなる。

「看護師であれば、患者さんの状況をしっかりと把握できます。例えば口からものが食べられるのか、常時点滴が必要なのか、など、訪問看護や介護の際に何が必要になってくるのかが想像できます。それに従って、情報のやり取りや、よりその患者さんに相応しい環境やサービスの手配などが可能になります。相手方の視点もわかっていますので、連携は取りやすいと思います。もちろん資格のない相談員も活躍しています。」

ふたば在宅クリニックの地域連携室
ふたば在宅クリニックの地域連携室。地域のネットワークにおいて重要な役割を担っている。

地域全体の底上げを考え、
訪問診療への取り組み一本に絞る

訪問診療を手がける法人の中には、訪問診療だけでなく、訪問看護ステーション、ケアマネジャーの事務所などを運営している場合もある。また病院が訪問診療や訪問看護を手がけている場合も少なくない。石井氏に、法人として、そういった多角化を考えているかどうか聞くと、あくまで訪問診療一本で行く、との返事が返ってきた。

「私としては、訪問診療以外は行わないと決めています。在宅医療に関わる施設をトータルで運営しているところもあります。もしかすると経営的にはその方がメリットもあって、また患者さんにとっても同じところで、ワンストップで全部見てもらえるというのは安心なのかもしれません。しかしそれでは地域医療全体の底上げにはつながらないと思うのです。」

あくまで地域の医療体制のことを考えるなら、一つの法人が全部を手がけてしまうのではなく、それぞれの役割を“分担”することで、持続的な地域医療体制が育つのではないか、という石井氏。その理由を次のように語った。

「一つの法人がトータルに手がけ、地域のニーズの多くを獲得していた場合、もしその法人が経営的な問題などで事業から撤退してしまえば、その地域においてはすべてが失われ、患者さんやご家族が路頭に迷うことになってしまいます。分業体制を取っていれば、それぞれの分野に複数の施設が存在することで、そうしたリスクを回避できます。さらに、例えば『ふたば在宅クリニックが良質な訪問診療をしているから、私たちも頑張ろう』と訪問看護や病院、ケアマネジャーなどの各施設のスタッフに思ってもらうことで、お互いに刺激し合い、切磋琢磨して、地域医療の質がアップしていくと思います。この場合も、お互いの顔が見えていることが大切で、“地域全体が頑張る”ことにつながるのではないでしょうか。」

顔の見えるつながりが地域医療の底上げになると語る石井氏。次回は在宅医療が実際に行える医療について、引き続き石井氏の話とともに紹介していく。

この記事を読んだ方におすすめ
幅広く求人を検討したい方
非公開求人を紹介してもらう
転職全般 お悩みの方
ご相談は無料転職のプロに相談してみる

あわせて読みたい記事

「首都圏の在宅医療の現在」と題して、首都圏で訪問診療を展開する医師に話を聞いた。

第1回に続き「在宅医療に取り組む医師の肖像」をテーマに、ふたば在宅クリニックの理事長で医師の石井成伸氏に話を聞く。