医師のタスク・シフト/シェア成功のコツ

  • 記事公開日:
    2023年06月27日

「医師の働き方改革」の一環として、2024年4月から医師の時間外労働の上限規制が適用される。その実現に向けた施策の中でも、タスク・シフト/シェアは医師の業務負担を減らす効果が期待できる点で重要だ。すでに2020年12月には、厚生労働省の「タスク・シフト/シェアの推進に関する検討会」で、実施可能な範囲や課題なども示されている。ここでは特定看護師へのタスク・シフト、医師同士のタスク・シェアなどで負担軽減を進めてきた2つの医療現場の事例から、成功の要因を探った。

医師の時間外労働の削減に向け、タスク・シフト/シェアが進む

シフト/シェア先に新たな人材の配置も必要

医師の業務を他の職種に移管するタスク・シフトや、タスク・シェアの一つである医師同士の業務の共同化は、多くの医療機関で実施または実施の準備が進んでいる。文書作成や電子カルテへの入力を補助する医師事務作業補助者、21区分38の特定行為を行える特定看護師(特定行為に係る看護師の研修制度を修了した看護師)など、タスク・シフト先となる職種の人数も増加している。

全国保険医団体連合会による「2024年4月1日開始の『医師の働き方改革』に関する病院会員アンケート調査のまとめ」(2022年10月)でも、働き方改革で実施・予定の取り組みに対する回答(複数回答)として
・「事務職員へのタスク・シフト」(47.15%)
・「看護職員へのタスク・シフト」(29.35%)
・「薬剤師へのタスク・シフト」(23.91%)
・「複数主治医制の導入など、医師間での業務の共同化」(18.34%)
などが挙げられ、医師の働き方改革においてタスク・シフト/シェアの重要性が窺える。

一方、厚生労働省の「タスク・シフト/シェアの推進に関する検討会」が2020年に公表した議論の整理では、タスク・シフト/シェアを進めていく上での課題として、「意識」「技術」「余力」を挙げている。「意識」とは個々のモチベーションや危機感等を指し、「技術」は知識や経験、ノウハウのことを指す。

さらに「余力」は、人員、労働時間、資金等の余力のことだ。今いる人材で仕事をやりくりして業務を委譲し、特定の人材・職種に業務が集中してしまわないよう、新たな人材を配置することもタスク・シフト/シェアでは重要といえる。

6人の特定看護師が医師の負担軽減にも貢献/横須賀市立うわまち病院

独立した職種として医療チームで活動する特定看護師

同センター長の岩澤孝昌氏は、「医師の到着前に治療の準備が整い、患者さんの容体が急変しても決められた範囲なら対応してくれるので、医師側の負担軽減効果は非常に大きいと感じています」と話す。

「一般的な看護師の業務に特定看護師の業務をプラスするのではなく、当院では独立した職種として捉えています。現在は外来・病棟・救急を担当するチームが3つ、ICUを専門とするチームが1つありますが、特定看護師はいずれかの専属となって診療に加わり、チーム運営に付随する業務や研修医のサポートも行うほど深く関わっています」(岩澤氏)

横須賀市立うわまち病院 総合診療センター長 岩澤孝昌氏
横須賀市立うわまち病院 総合診療センター長 岩澤孝昌氏/1992年自治医科大学医学部卒業後、へき地医療に9年間従事。2001年から国立横須賀病院(現 横須賀市立うわまち病院)循環器内科に勤務し、現在は総合診療センター長、副病院長、循環器内科部長、集中治療部部長を兼任する。
同院提供資料
特定ケア看護師(同院を管理運営する地域医療振興協会での呼称)は基本的に指導医とペアになって活動する。総合診療センターが受け持つ患者に対して、病歴や薬歴、家族歴や生活歴などの患者背景の聴取、身体所見、状態の確認なども担当。それらの情報からアセスメントし、指導を受けながら整理、検査や治療を計画・実施する。(上図は同院提供資料より)

研修医の業務の一部も特定看護師に委譲

同院の特定看護師は総合診療センターに常駐し、毎日朝と夕方の最低2回は指導医やチームとともにカンファレンスを行い、当日のスケジュールと入院した患者の状態を把握。診療に加わり、入院から退院までの管理もチームで協力して行っている。
また、RRS(Rapid Response System)やRST(呼吸ケアサポートチーム)も兼務し、例えば病棟でRRSへの要請があった場合、これまでは研修医が担っていたバイタルサインのチェック、身体所見の確認、採血、橈骨動脈ラインの確保などを特定看護師が行い、医師の診療をサポートする。

「最近ではラインサポートチームを作り、院内の各部署からの依頼で点滴ラインや中心静脈カテーテルの確保・抜去に関する業務も担当しています。当院では一般の看護師とは別に、特定看護師は医療チームの一員として必要不可欠な存在になりました。できれば各病棟に1人ずつ特定看護師がほしいくらいですが、院内で特定看護師を目指す人が増えると看護部の人員が減ることになるため、看護部との合意が非常に重要になってきます」(岩澤氏)

また、こうした特定看護師が活動する医療現場では、医師は特定行為を把握し、適切な依頼をすることも大切だと言う岩澤氏。
「医師も医療チームの一員だと認識して、自分で仕事を抱え込まず、シフトすべき業務は特定看護師などに委譲することが必要です」(岩澤氏)

複数医師によるチーム制で業務を平準化・均てん化/九州がんセンター

医師の働き方改革には病院全体の改革が必要

九州唯一のがん専門診療医療施設である九州がんセンター(福岡県)は、藤 也寸志氏が院長に就任した2015年から「患者にも家族にもスタッフにも優しい日本をリードするがん専門病院」を目標に掲げ、今で言う働き方改革も含む業務改善プロジェクトを進めてきた。医療の質、患者満足度、医療安全、地域連携などさまざまなテーマで多職種混合チームを編成し、現在も32チームがプロジェクト活動を行っている。さらに2017年から加わった「働き方改革の推進チーム」が各部署へのアンケートや業務の洗い出しを行い、タスク・シフト/シェアを促してきた。

「最初にタスク・シェアを実現したのは放射線技術部です。以前はCT担当など業務ごとに担当を決めていたのですが、誰が休んでも業務が滞らないよう業務を共同化し、その動きが臨床検査技術部などに広がりました」(藤氏)

加えて、看護部や薬剤部、DA(医療事務作業補助者)部門でも働き方改革を進めながら、同院では医師の働き方改革に着手。夜間や休日など時間外の看取りは原則として主治医を呼ばず、そのときの当直医が担当するよう変更し、時間外の診療と病状説明も原則として夜間や休日には行わないことから始めたという。

■医師の負担を軽減する看護部やDA(医療事務作業補助者)部門での働き方改革
・看護部/ほぼ全例の造影剤や抗がん薬の静脈ルート確保を病棟・外来看護師を教育した上で移行。看護師の業務過多にならないよう、看護師以外の職種でもできる業務はタスク・シフト/シェアし、業務負担軽減を図る→病棟業務への看護クラークの導入、夜間看護補助者(夜間看護助手)の導入など
・DA部門/DA全メンバーで月1回の定例ミーティングを実施。教育・研修プログラムの充実、スキル達成度の評価基準の明確化などで、業務の質の向上、モチベーションを向上。病院全体ではDAには医師の業務のみを依頼するよう徹底し、離職率も大幅に低減した(離職率は2018年23%→2019年7%)

独立行政法人国立病院機構 九州がんセンター院長 藤 也寸志氏
独立行政法人国立病院機構 九州がんセンター院長 藤 也寸志(とう やすし)氏/1984年九州大学医学部卒業。1989年九州大学大学院修了。医学博士。1997年から国立病院(現 国立病院機構)九州がんセンターに勤務。消化器外科医長、同部長、統括診療部長、副院長を経て、2015年から現職。

チーム制と休日当番制を全診療科で徹底

藤氏が「医師の働き方改革に向けた最も重要な取り組み」と位置づけるのが、複数の医師によるチーム診療体制で、医師一人ひとりの業務を標準化しつつ、医療の質を均てん化することだ。

「複数・チーム主治医制と休日当番制の導入には、自分一人が主治医だという、これまでの診療体制に関する考え方のパラダイムシフトが必要と考えていました」(藤氏)

そのため、同院では2019年から各診療科で医師の時間外勤務の実態を把握。診療科長には労働基準法や36(サブロク)協定の意味を改めて伝え、基準を超えた時間外勤務が違法であるとの認識も徹底したという。休日当番制の推進で「主治医だから」という理由で休日に出勤することが減り、2021年9月に30.7%だった休日出勤の割合が、2022年6月には20.6%に減少した。

「現在取り組んでいるのは、診療科内での診療の標準化です。ガイドラインやクリティカルパスをもとに診療するのですから、同じ病気に対する治療内容を平均した場合、医師ごとに検査回数やドレーン管理などの処置がバラつかないことが理想です。こうした細かな標準化を進めないと、誰もが主治医となるチーム制の実現は難しいと考えています」(藤氏)

医師の働き方改革を契機に医療の質を向上させる

ここで紹介した2つの医療施設から分かるのは、医師の働き方改革には病院全体の業務改革が伴い、業務の標準化や新たな人材の導入が必要になることだ。横須賀市立うわまち病院では特定看護師を独立した職種として扱い、九州がんセンターでは医師のタスク・シフト先となる看護師の業務軽減のため、看護クラークや夜間看護助手を配置している。

また、医師の働き方改革を「医療の質をさらに向上させる契機」と捉えている点も共通している。医療現場で働く医師も、時間外労働を減らすという見方だけでなく、自身の満足度向上、患者の満足度向上につながるようタスク・シフト/シェアを積極的に活用することが求められるだろう。

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