福島県特集 医師数も着実に回復する中、さらなる復興に向けて勤務環境や研修制度の整備を進める同県の現状をレポート。

福島県知事から医師の皆様方へ 豊かな自然と文化、充実した医師支援体制など
ワークライフバランスに優れた環境をご提供します

福島県は日本で3番目に広く、豊かな自然の恵みがあふれ、美味しい食材の宝庫といえる素晴らしい土地です。また南北に貫く阿武隈高地と奥羽山脈により、太平洋に面した「浜通り」、高地と山脈に挟まれた「中通り」、最も内陸にある「会津地方」に分かれており、3つの地域それぞれに異なる自然や気候、文化を楽しむことができます。

当県は交通の便も大変よく、新白河駅、郡山駅、福島駅などから、新幹線で1時間半もかからず東京駅に到着します。常磐自動車道をはじめ縦横に走る高速道路により、関東方面・関西方面への移動もスムーズで、首都圏には車で3時間ほどでアクセスできます。

2011年に起きた東日本大震災と東京電力の発電所事故、その後の風評などは、当県に非常に大きな影響をもたらしましたが、それから8年が経ち、着実に復興の歩みを進めております。

この震災の発生当初から、多くの医療従事者の皆様に当県の医療を支えていただき、大変心強く感じておりますと同時に、今後さらなる復興に向けて、地域医療体制の整備を進める必要があります。当県の医療機関に従事される医師の皆様の数も震災前を上回るまでになりましたが、より多くの方々に支援をいただきたく、勤務環境や研修体制の充実を図っているところです。

その一つとして、当県では、2011年に福島県立医科大学と連携し「福島県地域医療支援センター」を設置し、医師が不足する医療機関への医師確保支援、県内定着を促進するための魅力ある指導環境整備、指導医の養成等による医師のキャリア形成支援などの事業に取り組んでおります。

また、2015年には、「福島県医療勤務環境改善支援センター」を設置し、働きやすい職場環境づくりに努めております。

さらに、今年2月に、福島県医師会に「医業承継バンク」を設置し、後継者不在等の理由による診療所廃止に歯止めをかけ、地域における医師を確保するとともに、承継を希望する医師への相談も積極的に対応しております。

日本を代表する医聖、野口英世博士の生まれ故郷である当県で、これまで以上に多くの医師の皆様にご活躍いただけることを期待しております。

福島県知事 内堀 雅雄氏
東京大学経済学部卒業後、2001年福島県生活環境部次長に就任。生活環境部長、企画調整部長を経て、2006年12月から2014年9月まで副知事を務める。同年11月に知事に就任し現在2期目。

現役医師のキャリア教育など、
福島県立医科大学を中心に医師を支援

公立大学法人福島県立医科大学医学部は県内唯一の医師養成機関として、医師や医療スタッフの育成、高度医療の提供、臨床研究の充実などの役割を担う。また、福島県との連携により福島県地域医療支援センターを学内に設置し、医師、医学生等に対する相談体制を整え、キャリア形成支援等の充実・強化を図っている。加えて同大学の医療人育成・支援センターでは卒前医学教育と卒後臨床研修を一貫して行っている。

[教育]・[研究]
福島県立医科大学 医学部/
看護学部/大学院
保健科学部 ※2021年4月設置構想中
[高度・急性期医療]
福島県立医科大学附属病院
福島県立医科大学会津医療センター
[復興支援]
ふくしま国際医療科学センター
ふたば救急総合医療支援センター
[医師のキャリア支援]
福島県地域医療支援センター
医療人育成・支援センター

今後必要となる機能に見合った病床転換を進め
ICT活用やドクターヘリ等で救急医療を充実させる

隣接する構想区域への 患者流出などの課題に対応

福島県の人口10万人当たりの医師数は全国的に見ても少なく、さらに県内でも医療施設や医師の地域偏在が顕著なため、一部の地域では今後の大幅な医師不足が見込まれている。

こうした中で、同県が2018年3月に策定した『第七次福島県医療計画』の地域医療構想では、県内を6つの構想区域に分け、前述した地域偏在も踏まえ、各区域の医療提供体制等の現状や課題に応じた取組をまとめている。

6区域とは、同県を縦断する高地と山脈に挟まれた中通りにある「県北」「県中」「県南」、山脈を隔てて最も内陸寄りの「会津・南会津(第七次計画で2区域を統合)」、太平洋に面した浜通りに位置する「相双」「いわき」であり、高地と山脈で分けられた地形の影響で、患者の流出先も東西より南北の区域移動が多い傾向にある。

患者が居住する区域内の医療機関で受療していることを示す自足率で、9割以上なのは県北、県中、いわきの各区域。一方で県南区域の入院患者の2割以上は県中区域に流出している。浜通りの相双区域といわき区域の間には帰宅困難地域があるため、両区域の患者は中通りの区域に流出している。

ドクターヘリなどの活用で 救急医療の充実を図る

区域ごとの課題は下図の通りで、自足率の高い前出3区域については、療養病床や回復期病床など特定の病床機能不足が課題とされ、施策として機能転換を支援するとしている。

一方、医療機関や医師が不足する区域では、必要な二次医療機関の設置、他区域の三次医療機関の連携など体制を整え、医師の育成・確保の各種施策を強化する。

さらに会津・南会津区域やいわき区域では、区域の広さと三次医療機関の偏在などが原因で、救急搬送に非常に時間を要するケースがあり、ICTを活用した遠隔画像診断システムや患者情報の共有システムなどの整備(いわき)、民間病院のドクターカーとドクターヘリとも連携した救急医療体制の整備(会津・南会津)などを行う。

また福島県の持つドクターヘリは、宮城県・山形県・新潟県・茨城県との広域連携協定の締結により、互いのヘリの効率的な運用を図っている。

福島県の地域医療構想における
6構想区域それぞれの課題

[県北区域]
・療養病床が少なく、慢性期の患者に対する医療提供体制の在り方について検討していく必要がある
・急性心筋梗塞や脳梗塞の死亡比が高く、生活習慣病の患者も多いことから、予防と医療提供体制の両方で取組が必要
[県中区域]
・急性期病床は充足されているものの、病状が落ち着いてきた際の受入病床となる回復期及び慢性期病床が不足している
・区域南西部の田村地域(田村市及び田村郡)、石川郡は病院や病床が少なく、郡山市への医療依存度が高い
[県南区域]
・医師をはじめとした医療従事者が不足しているなどにより、医療提供体制が十分に確保されておらず、他の区域に患者が流出している
・脳血管疾患や心疾患の死亡率が高く、予防と医療提供体制の両面からの取組が必要
[会津・南会津区域]
・会津地域及び南会津地域では、医師の高齢化や医療資源の偏在による医療過疎が進行
・高度急性期医療は、会津地域の一部及び南会津地域からは会津若松市内の医療機関の受診を要するため、交通インフラの整備も含めた救急搬送の時間短縮など連携体制を維持・強化する必要がある
[相双区域]
・東日本大震災及び原子力災害の影響に伴い、医療提供体制の確保・維持が困難な状況
・双葉地域の医療機関の8割が休止し、医療提供体制の再構築が課題
[いわき区域]
・療養病床が他区域に比べて多く、回復期リハビリテーション病棟や地域包括ケア病棟などへの転換が必要な施設・設備の整備、不足している医療従事者の確保が課題
・救急搬送で「受入照会4回以上の割合」が県平均を大きく上回る。これは区域の広大な面積と救急医療機関の偏在及び勤務医師数の少なさが複合的に影響していると考えられ、救急医療機関の医師数を増やすことが必要

出典:福島県『第七次福島県医療計画』より

医師が働きやすい環境整備を支援する施策や
移住者サポートなどで多様な人材の確保・定着を図る

地域医療支援センターを中心に さまざまな医師支援策を実施

同県の病院勤務の常勤医師数は震災直後に減少したものの、2014年からは増加に転じ、2018年12月時点では相双区域を除く全区域で震災前より医師数が増加している。

それでも以前から見られた医師不足の状態を解消するには至らず、常勤医の必要数は下図のようになっている。そこで同県は全区域にわたる医師確保策として、県内で働く医師への各種支援策や、他県からの医師の移住・定着を進める施策を実施している。

そうした施策の中心となるのが、福島県立医科大学との連携で設立された「福島県地域医療支援センター」だ。

医師のキャリア形成を支援する魅力的な指導体制の整備のほか、後述する「ドクターバンクふくしま」や医師への個別説明会などにより、県内勤務を考える医師と医療機関のニーズとのマッチングを図っている。

また今年2月に厚生労働省が公開した「産科医師偏在指標(暫定)」「小児科医師偏在指標(暫定)」でも明らかなように、同県では産科医と小児科医の偏在が著しく、これらの診療科の勤務医に対して待遇改善を図る病院についても支援を行うとしている。

さらに女性医師支援のため、同県では育児中の女性医師等を対象とした勤務条件緩和[時間外勤務(休日・当直等)やオンコール待機業務の免除など]や、出産や育児等を理由にいったん離職した女性医師への復職研修等に取り組む病院に対し、経費の一部を補助することにより、女性医師等が仕事と家庭を両立できる働きやすい職場環境整備を支援している。

また、医療機関が行う院内保育事業に要する運営費の一部補助など、女性医師等の活躍推進と、健康で安心して働ける職場環境づくりを通した「雇用の質」と「医療の質」の向上を図るためのさまざまな取組を行っている。

病院勤務の常勤医師の必要数(2017年8月1日現在)

県内での勤務を考える医師に きめ細かなサポートを行う

同県での勤務を考える医師への支援の一つとして「ドクターバンクふくしま」がある。これは県が運営する無料職業紹介事業で、求職・求人情報の紹介、あっせん、転職の個別相談などを無料で行うものだ。

また、地域医療支援センターに連絡をすれば職員が医師の希望する場所を訪ねて個別説明会を行う。その際には同県の医師支援制度や求人情報の例を紹介するだけでなく、移住に関する情報なども提供している。

特に不足する産科、小児科、麻酔科の医師が、県外から同県の医療機関に常勤医として勤務する場合は、研究資金貸与などの支援も行う(所定の条件を満たせば返済を免除)。

このほか長期的な人材育成として、福島県立医科大学医学部の入学定員を段階的に増加。2013年からは定員130人とし、うち40人程度を地域枠に設定して、将来の県内医療を担う人材の輩出を目指している。

このように喫緊の課題解決から将来に向けた対策まで、同県ではさまざまな形で医師の働き方の支援やキャリア形成・人材育成に取り組んでいる。

※出典記載のないものは『第七次福島県医療計画』による

県外からの転入希望者に情報提供・相談窓口を開設

福島県では以下の窓口で移住相談に対応。
地域や住まいの情報、お試し住宅の情報などを提供する。

[首都圏]
「福が満開、福しま暮らし情報センター」に専門の相談員が常駐するブースを設置。福島県各地域の特色を紹介した資料も提供。
・東京都千代田区有楽町2-10-1 東京交通会館8階 03-6551-2989
[関西圏]
福島県大阪事務所で最終金曜日を移住相談日として相談受付。また「大阪ふるさと暮らし情報センター」に資料ブースを常時設置。
・大阪事務所連絡先/ 06-6343-1721
・情報センター/大阪府大阪市中央区本町橋2-31 シティプラザ大阪1階

県から委託された「医業承継バンク」事業で
県内での診療所勤務希望者を支援する

超高齢社会に向けて地域包括ケアシステムが浸透し、各地域の「かかりつけ医」となる診療所の役割はますます重要になってきた。一方で開業医自身も高齢化し、診療所の廃止を検討するケースも増えている。

福島県は、後継者のいない診療所を第三者が承継できるよう支援する医業承継事業の開始を決め、福島県医師会に委託して運営すると2018年7月に決定。同医師会は2019年2月から、診療所を第三者に譲る意向のある開業医と、それを引き受ける県外の勤務医とのマッチングを図る「医業承継バンク」をスタートさせた。

担当する常任理事の石塚尋朗氏によると、県内の医科診療所数は最もピークだった2009年に比べて1割近く減少しており、開業医の平均年齢も半数以上が60歳以上だという(いずれも2016年末時点)。

「このままではあちこちで診療所の廃止が相次ぎ、地域医療に綻びが生じることになります。これを防ぐには、まず第三者への承継を希望する診療所についてデータベース化し、開業希望の医師が情報を探せるようにすることが重要と考え、新聞や医師会報、県のテレビ広報番組などで医業承継バンクを周知するほか、各地域で開くセミナーで詳細な説明を行っています」

すでに「医業承継バンク マッチングナビ」のホームページも開設し、地区や診療科目など希望の条件をもとに譲渡希望の診療所を探せるサービスの提供を始めている。

「当バンク開設から1カ月足らずで譲渡希望の登録があるなど手応えを感じます。ただ、こうした情報が一人歩きして地域住民などに誤解を与えないよう、当バンクに登録した譲渡希望医・承継希望医の情報は厳重に管理し、医師会という公的な組織の立場から情報提供や斡旋を行います」

両者の希望がマッチして話が具体化していく中で、同医師会は診療所の価値評価や承継手続きに詳しい専門家も紹介。承継希望者に対し、この場合はどのような形の承継が向くのかなど適切にアドバイスし、納得できる形での承継を支援する。

「このほか医師会でも承継希望医の現地見学を手配したり、ご家族への情報提供を行ったりといったサポートを予定し、開業後も地域の開業医との連携を進めるなど引き続き支援を行っていきます」

今後も福島県をはじめ各自治体とも協力しながら、譲渡希望医と承継希望医への支援を拡大したいという石塚氏。

「例えば5年や10年といった期間限定で、あるいは郡山市や福島市などに住んでほかの地域の診療所に通うなど、多様な働き方ができる支援も考えたいと思います」

福島県医師会 常任理事 石塚尋朗氏

自然、歴史、グルメなど魅力が山盛りの福島県

●浜通り

相双エリア
夏は涼しく、冬は比較的温暖な気候。騎馬武者姿が勇ましい相馬野馬追(そうまのまおい)などのほか、4月20日に全面再開予定のスポーツ施設Jヴィレッジもあります。
約630本の桜が咲く馬陵公園
いわきエリア
南端は茨城県と接し、東は太平洋が広がる温暖なエリア。海遊びができるビーチや1000年以上前から続くいわき湯本温泉、美しい渓谷など魅力も多種多様。
夏井川渓谷の紅葉

●中通り

県北エリア
吾妻・安達太良(あだたら)連峰や阿武隈高地が見せる見事な景観、飯坂温泉や岳温泉をはじめ多数の温泉地があるほか、桃や梨等の果樹生産が全国有数という側面も。
地底に広がる全長600mのあぶくま洞
県中エリア
西に猪苗代湖、東に阿武隈高地があり、阿武隈川の流域に広がる安積(あさか)平野を中心としたエリア。大久保利通も推進した福島開拓に関わる歴史遺産も残ります。
明治7年建築の郡山市開成館
県南エリア
奈良から平安時代に使われた白河の関もある「みちのくの玄関口」で、日本最古の公園といわれる南湖公園など名所旧跡も点在。「須賀川松明あかし」などの祭りも。
南湖神社にある楽翁桜

●会津地方

会津エリア
磐梯山をはじめ豊かな自然に恵まれ、歴史を感じる会津藩士ゆかりの名所旧跡なども。光きらめく夏、雪深い冬など季節ごとに魅力が満載です。
ライトアップされた鶴ヶ城
南会津エリア
東北地方最高峰の燧ヶ岳(ひうちがたけ)など四方を山に囲まれたエリア。一部は尾瀬国立公園に含まれるほか、温泉やスキーといった楽しみも盛りだくさん。
昔の風情を残す宿場町・大内宿