兵庫県特集 地域別求人情報 早くから圏域ごとに医療機関の役割分担が進み、行政と大学が協力してそれを支援するなど全国に先駆けた兵庫県の取り組みをレポートする。

一部を除き、ほとんどの圏域で医師不足や診療科の偏在が顕著

神戸、阪神南の2圏域のみ医師数が全国平均を上回る

兵庫県は近畿圏で大阪府に次いで2位(全国7位)の人口で、その1/4超が『兵庫県地域医療構想』で定められた10圏域の一つ、神戸圏域(神戸市)に住んでいる。同圏域の東に位置する阪神南圏域(尼崎市・西宮市・芦屋市)と合わせると、面積は同県の1割に満たないものの、人口では県全体のほぼ半数を占める(出典:2017年10月発行『兵庫のすがた2017』より)。

こうした偏在は圏域ごとの医師の状況にも顕著だ。「人口10万人当たりの医療施設従事医師数」(下グラフ)では、前出の神戸圏域、阪神南圏域だけが全国平均の233・6人および兵庫県平均の232・1人を上回り、残り8圏域はすべてそれらを下回っている。

また同県によれば、診療科によっても医師不足が目立つケースがあるという。「医療機関が必要とする診療科別医師数(主なもの)」(下表)を見ると、産婦人科、小児科、麻酔科などが県全体の倍率(必要とする医師数と現員数の合計を現員数で割ったもの)を特に上回っている(出典:いずれも兵庫県HP「医師確保対策の推進」より)。

さらに『兵庫県地域医療構想』では将来の病床数推計を行っているが、2025年にはどの圏域でも回復期機能を持つ病床が不足するのに加え、阪神北、北播磨、西播磨、但馬などの圏域では高度急性期に対応する病床も大幅な不足が見込まれている。

人口10万人当たりの医療施設従事医師数(圏域別)
医療機関が必要とする診療科別医師数(主なもの)
出典:上記2つの図表いずれも兵庫県HP「医師確保対策の推進」より

地域医療支援センターを中心に医師確保の施策を進める

このような状況への対策の一つとして、同県は2014年4月に「兵庫県地域医療支援センター」を開設している。同センターは県内の医師不足の状況等を把握・分析し、医師のキャリア形成支援や医師不足病院への支援等を行う。これにより医師確保対策を総合的に推進し、医師の地域偏在・診療科偏在の解消を目指すとしている。

下一覧はその取組概要だが、③は医師のキャリアに応じて、コース別(後期研修医コース・専門研修医コース・地域医療支援医師コース)に同県の正規職員(地域医療支援医師)として採用し(コースにより勤務期間は異なる)、必要な研修を受け、経験を積んでスキルアップを図るというもの。

例えば専門研修医コースでは、県職員として採用後1~2年目は県が指定する公立医療機関、中でも県内の医師不足地域等において政策医療を担う中核的な病院等で診療を行い、3~4年目は県が指定する高度医療機関(うち1年間は県外・海外の医療機関も可)で経験を積むことができる。

また④は勤務医の再就職や転職などを支援するため、兵庫県医師会ドクターバンクが無料の紹介・仲介業務を行い、特にへき地の公的医療機関に入職する場合は、座学や県内へき地医療機関での研修を用意している。

このほか離・退職した女性医師の再就業支援策として、同県医師会に女性医師再就業支援センターを設置し、女性医師の再就業研修等も行っている。

「兵庫県地域医療支援センター」の取組概要
  1. 県内医療機関の医師不足状況等を調査・研究
  2. へき地等勤務医師(県養成医師)の養成・派遣
  3. 医師のキャリア形成支援 医師が県内の医療機関を循環しながらスキルアップできるキャリア形成支援体制を整備
  4. 医療人材の資質向上 地域医療機関に従事する医師・コメディカルを対象に各種研修を実施し、県内医療機関の医療提供機能の強化を図る
  5. 地域医療機関支援 医師が不足する地域医療機関への医師派遣調整を行うほか、大学医学部への特別講座の設置による診療支援などにより、地域医療機関を支援

出典:兵庫県HP「医師確保対策の推進」より

圏域ごとに異なる医療の課題阪神南や北播磨では病院再編も

住民や医療従事者の高齢化患者流出など多様な課題

次に圏域ごとの医療サービスや医師の過不足状況を見ていこう(下図参照)。まず「人口10万人当たりの医療施設従事医師数」(以下、医師数と略)が全国平均以上の神戸と阪神南の圏域では、在宅医療をはじめ今後の医療ニーズに対応した人材、産科・小児科など特定分野の医師を必要としている。

一方、阪神北圏域は医師数が圏域中3番目に少なく、隣接する神戸および阪神南圏域、大阪府に患者が流出。このため不足する医療機能の充足や医療機関の連携強化が重要となっている。

東播磨、中播磨、西播磨の各圏域は医師数が200人に満たず、「必要な医療を提供できない医療機関が見受けられる」(中播磨)といった状況で、北播磨圏域でも「一部の病院で当直医の確保や救急の受け入れが難しくなっている」という。医師や看護師など医療従事者の確保と地域定着が急務だ。

また山間部が多い但馬および丹波圏域、淡路島の淡路圏域では、住民の30%以上が65歳以上。医療従事者も高齢化する中で現状の医療体制を維持するために、若手医師の育成や在宅診療医の確保が必要になっている。

病院の統合・連携をはじめ次世代に向けた取組が進む

このような中、地域の安定的・継続的な医療提供体制の確保を図るため、地域の病院間の適切な機能分担と連携(ネットワーク化)も図られている。同県HP「公立病院等のネットワーク化の検討について」によれば、各圏域での協議をもとに、統合・再編、連携システムの構築、役割分担の明確化などが進んでいるという。例えば神戸圏域では3つの市民病院群について救命救急センター、一次から二次救急、二次救急および小児救急と、救急医療での役割分担を明確にし、同時に連携を強化。また各圏域で地域連携クリティカルパスの導入も進められている。

さらに一部の圏域では病院の統合・再編も行われている。阪神南圏域では高度専門医療を行ってきた県立尼崎病院と、周産期医療や小児救急医療の中核であった県立塚口病院を統合。2015年に兵庫県立尼崎総合医療センターを開設した。また北播磨圏域では神戸大学の提案で三木市と小野市が市民病院を統合し、2013年に北播磨総合医療センターが発足。神戸大学は医師派遣でも支援している。

このように多様な課題に着実に対応し、兵庫県の医療体制は次世代への準備を一歩一歩進めている。

各圏域の医療従事者の確保について

神戸圏域
●今後の医療ニーズに対応した、医師・看護師をはじめとする医療人材の確保が必要 ●特に医師不足が深刻である産科・小児科勤務医師や救急勤務医師等の確保が必要
阪神南圏域
●医師不足が大きな課題となってはいないが、産科医や小児科医は必要最低限の員数で業務に携わっていることがうかがえる。今後の在宅医療推進により、在宅医、(訪問)看護師不足や、それ以外の多職種の人材不足が懸念される
阪神北圏域
●今後、増加が予想される消化器、呼吸器系疾患に対応する専門医師の地域偏在があり、患者が他府県・他圏域に行かざるを得ない状況 ●医師・看護師・介護職全ての確保・維持が困難な状況にある。また、一般病院の常勤医師、特に若い内科医の充足が必要
東播磨圏域
●平成26年の医師数は1,376人で、人口10万人当たりでは全県の値に比べ少ない状況。今後、在宅医療の充実を図るためには、医師、歯科医師、薬剤師、看護師、栄養士及び理学療法士等のリハビリテーション専門職など、在宅での医療を担う人材の確保が必要
北播磨圏域
●西脇市立病院に県養成医師が派遣されているが、加東市民病院、多可赤十字病院、兵庫あおの病院において、常勤医師の不足により当直医の確保や救急の受け入れが難しくなっている。診療科別医師数は、小児科、産婦人科をはじめ、多くの診療科で全県平均医師数を下回っている
中播磨圏域
●医師数は全国・全県平均に比べて低く、高齢化も進んでいる●医師不足等の影響により、後送輪番の辞退や一部診療科の休止等、必要な医療を提供できない医療機関が見受けられる ●医師・看護師等医療従事者の確保と地域定着に取組む必要がある
西播磨圏域
●人口10万人当たりの医師数は県下で最も低い ●現在の医師確保支援として、県養成医師をへき地医療拠点病院である赤穂市民病院と公立宍粟総合病院に配置。また、兵庫県が大阪医科大学に新たに寄附講座を設置し、圏域・地域の中核病院である赤穂市民病院と公立宍粟総合病院への医師派遣を受けている
但馬圏域
●高齢者人口の絶対数の変動は少なく、当面医療需要は変動しないと見込むが、都市部における医療需要は増える見込みで、働き手の人口が減少する但馬圏域では医療従事者の確保が今後も難しいと思われる ●人材確保のための継続的な努力を続けるとともに、今後の医療需要に見合う規模の病床と、限られた人材の中で提供可能な医療体制を構築することも必要
丹波圏域
●圏域の医師、歯科医師、薬剤師、看護師の高齢化が進んでおり、現状の体制維持が困難となる ●地域医療を担う若手医師の育成が必要
淡路圏域
●医療法に基づく人口当たり平均では医師、看護師は充足しているが、看護体制のさらなる充実が必要 ●診療所医師の高齢化を含む在宅診療医の確保が困難になりつつある

出典:平成28年10月『兵庫県地域医療構想』「各圏域の課題及び具体的施策」の「医療従事者の確保」から医師に関わる部分を主に抜粋