自動翻訳が発達する AI 時代は「英語ができなくても困らない時代」と言えます。このように英語学修の外的動機が弱くなる一方、「やっぱり自分で英語を使えるようになりたい」という内的動機がこれからの時代の英語学修の動機となります。ここではそんな「やっぱり自分で英語を使えるようになりたい」と感じる医師に向けて、キャリアアップに繋がる英語のヒントをご紹介します。
私は現在、国際医療福祉大学医学部にて医学英語教育を統括していますが、同時に同大学大学院「医療通訳・国際医療マネジメント分野」にて英語医療通訳の指導もしています。そこで医療通訳者の方が英訳に苦労する表現として「痛み」があります。今回はプロの通訳者も苦労する「痛みに関する英語表現」を総括的に見ていきましょう。
「痛み」を意味する名詞として真っ先に思いつくのが pain という単語だと思います。ただ似たような名詞として ache というものもあります。この2つはイメージが異なり、pain には「急性で鋭い痛み」というイメージが、そして ache には「慢性で鈍い痛み」というイメージがあります。
ですから「急性で鋭い痛み」であることが多い「胸痛」は chest pain のように pain を使って表現され、「慢性で鈍い痛み」であることが多い「頭痛」や「腹痛」は headache や stomachache のように ache を使って表現されるのです。もちろん頭痛や腹痛にも「急性で鋭い痛み」の場合がありますが、その場合には acute severe headache のように headache という名詞自体は変えず、形容詞を加えて表現されます。そしてこの ache は動詞としても使われ、インフルエンザなどで全身が痛い場合には My body aches. のようにも使われます。また形容詞の achy にも同じような「慢性で鈍い痛みがある」というイメージがあり、My body is achy. のように使われます。
sore という形容詞も痛みに関しては重要な単語です。これには「ヒリヒリした」というイメージがあり、「ヒリヒリした痛み」であることが多い「喉の痛み」は sore throat のように sore を使って表現されます。筋トレをした後に起こる「筋肉痛」も「急性で鋭い痛み」ではないため、pain を使わずに sore muscles や muscle soreness などと表現されます。そして「時間が経ってから発症する筋肉痛」には DOMS という通称がありますが、これは Delayed Onset Muscle Soreness の略で、「ドムス」のように発音します。
この他にも hurt という動詞も痛みにおいては重要です。「腰が痛いです。」を英語で表現する場合、痛みの種類によって “I have a pain in my low back.” や “I have an ache in my low back.” のように pain や ache を使って表現する他、この hurt という動詞を使って “My low back hurts.” のように表現することもできます。むしろ「腰が痛いなぁ」のように実感を込めて口語で表現する場合には、この hurt を使って “My low back hurts.” と表現する方が自然と言えます。そしてこの hurt は日本語の「傷める」にも対応します。「膝を傷めました」を英語で表現するとなると、多くの方が “I injured my knee.” のように injure という動詞を使うと思います。もちろんこれも正しい表現なのですが、これだと靭帯や半月板を損傷した重症のように聞こえてしまいます。「ちょっと痛めた」のような軽症の場合も含むニュアンスを表現したい場合、この hurt を使って “I hurt my knee.” と表現する方が自然です。またこの hurt は疑問文でも使い勝手が良い単語です。簡単に「痛い?」と聞きたい場合には “Does it hurt?” という表現が便利です。こちらも咄嗟に思い付かない人が多いので、是非覚えておいてください。
ただ多くの通訳者が苦労するのが「ズキズキ」や「ヒリヒリ」といった日本語の「オノマトペ」を英語でどのように表現するかということです。ではその中の代表的なものを見ていきましょう。
大前提として、日本語の「オノマトペ」は多くの場合、「動詞に ing をつけた形容詞」となることが一般的です。ですから焼肉などの「ジュージュー」というオノマトペは、英語では sizzling という「動詞に ing をつけた形容詞」となります。
炎症や偏頭痛がある場合、その痛みは心拍に連動して起こるために「ズキズキする」痛みとなります。そしてこれを英語では throbbing と表現します。このような心拍に連動する痛みに関しては日本語でも「ガンガンする」や「バクバクする」のようなオノマトペが存在するように、英語にも pounding/beating/palpitating/pulsing/thumping/drumming など数多くの形容詞が存在ます。ただ心拍に連動する痛みの形容詞としては throbbing が最も一般的なものですので、まずはこちらを使えるようにしてください。
「チクチクする」痛みはどうでしょう?動詞に ing をつけた形容詞を使うならば、これは pricking pain のようになります。ただ先述したように pain という表現自体に結構強い痛みというニュアンスがあるので、「採血」blood draw/phlebotomy の際に患者さんに「ちょっとチクッとしますよ」と言いたい場合には、“You might feel a little pinch.” のように pinch という名詞が使われます。
「ヒリヒリする」痛みには先述の soreness の他にも stinging pain のように表現されます。動詞の sting には「刺す」以外にも「ヒリヒリする」というイメージがあるので、「しみますか?」は英語では “Does it sting?” のように表現されます。
「ジンジンする」痛みはどうでしょう?この「ジンジンする」というオノマトペの解釈には個人差もあると思いますが、「電気が走るような」痛みや「ピリピリする」痛みのように解釈する場合、英語では tingling pain のようになります。そしてこの tingling は pins and needles とも表現されます。
「キューっとさし込むような」痛みはどうでしょう?これは cramping pain や crampy painとなります。この cramp という動詞には「キューっと締め付ける」というイメージがあり、名詞の cramp は “I had a cramp in the calm.”「ふくらはぎがつった」のように「こむら返り」としても使われます。ただ女性が cramps と複数形で表現した場合、それは「生理痛」という意味になりますので注意してください。他にも「締め付けられる」痛みとして、squeezing pain という形容詞はよく使われます。
他にも「ナイフで刺されるような」stabbingや「針で刺されるような」piercing、そして「疼くような」gnawing なども痛みに対してよく使われる形容詞です。また colicky pain という表現が腹痛に対してよく使われますが、これは「出たり消えたりする」痛みという意味で使われます。
いかがでしたか?診療科に関わらず痛みは極めて一般的な症状です。機会があれば今回学んだ表現を是非実際の臨床場面でも使ってみてくださいね。
あわせて読みたい記事
医学的な表現だけでなく、日常会話にも日本人医師が誤って使う表現が数多くあります。
Journal Club も少しの工夫で、参加者全員が楽しめる時間にすることが可能です。