自動翻訳が発達する AI 時代は「英語ができなくても困らない時代」と言えます。このように英語学修の外的動機が弱くなる一方、「やっぱり自分で英語を使えるようになりたい」という内的動機がこれからの時代の英語学修の動機となります。ここではそんな「やっぱり自分で英語を使えるようになりたい」と感じる医師に向けて、キャリアアップに繋がる英語のヒントをご紹介します。
日本糖尿病学会と日本糖尿病協会が「糖尿病」の名称を「ダイアベティス」に名称変更することを提案し、話題となっています。この名称に変更することの是非はここでは論じませんが、日本の医療現場では「糖尿病」のことを DM「ディー・エム」のように呼称することが一般的です。
しかし英語圏の話し言葉では diabetes mellitus のことを日本のように DM とは呼ばず、単に diabetes と呼ぶことが一般的です。もちろん diabetes という単語自体は「多尿」という意味ですから、diabetes insipidus「尿崩症」のように diabetes という単語を含む病気は他にもあります。しかし diabetes と言えば、ほとんどの場合 diabetes mellitus を意味しますので、日本での名称変更の提案もこれに従ったものと考えられます。
日本の医療現場では「くも膜下出血」を意味する SAHは「ザー」と発音されますが、もちろんこの発音は英語のものではありません。またこの発音をドイツ語のものだと思っている方もいらっしゃるようですが、「ザー」は日本独自の読み方です。subarachnoid hemorrhage の略語である SAH は、英語ではそのまま「エス・エー・エイチ」と発音されるのでご注意ください。
日本の医療現場では「心房細動」を「エー・エフ」と呼びます。英語圏でもatrial fibrillation は AF と記載されるのですが、話し言葉では A fib「エィ・フィブ」のように呼ばれます。そして「心房粗動」atrial flutter は略語では AFL となり、その読み方は「エィ・エフ・エル」のようになります。また「高血圧」hypertension の略語を HT だと思っている方が多いようですが、英語圏での略語は HTN となりますのでご注意ください。
心臓と言えば、日本の医師が誤って使う英語表現の代表的なものとして negative T wave があります。これは「陰性T波」からそのまま発想した表現だと思われますが、実はこれも和製英語です。「陰性T波」の英語表現は T wave inversionもしくはinverted T wave のようになります。
さて「検査」と「治療」は英語で何と言うかと尋ねられたら、皆さんはどのような英語表現を思いつきますか?
もちろん「検査」にも様々な英語表現があるのですが、症例報告などで「検査」としてよく使われるのが workup という表現です。「検査」という意味で test や exam という表現を使われる方も多いと思いますが、test という単語単体では医療における検査という意味にはなりませんし、exam は physical exam「身体診察」という意味になるので注意してください。
検査と言えば「採血」が重要ですが、これは英語では何と言うのでしょう?これには blood draw という表現が最もよく使われます。phlebotomy という表現も採血を意味するのですが、これ自体は「静脈穿刺」という意味ですので、blood draw と比較して「手技としての採血」という意味で使われることが一般的です。そしてこの phlebotomy では「駆血帯」も使われますが、これは英語では tourniquet となり、「タァニィキッ」のような発音となります。
胸部レントゲン写真の読影の際に「CP angle が dull です」という表現がよく使われますが、これをそのまま “The CP angle is dull.” と英語で表現しても通じません。英語圏では CP angle は省略せずにcostophrenic angles(左右あるので複数形になることが多いです)と表現することが一般的です。この costophrenic angles が鋭角になっている場合には sharpという表現が使われますが、鈍角になっている場合には blunted という形容詞が使われ、 “The costophrenic angles are blunted.” が正しい英語表現となります。
では「治療」の英語表現はどうでしょう?おそらく treatment や therapy といった単語を思いついた方が多いのではないでしょうか?もちろんそれらも正しい表現なのですが、臨床現場でよく使われる managementという単語を思いつかない日本人医師がとても多い印象があります。
日本ではよく「ルートを取る」という表現を使いますが、英語ではstarting an IV lineのように root という表現を使わないので注意してください。日本の医療現場では「留置針」の表現として当たり前のように使われている「サーフロー」ですが、これは英語では cannulaとなります。そして「サーフロー留置針を使ったルート確保」は単純にIV cannulationとなります。
これらの医学的な表現だけでなく、日常会話にも日本人医師が誤って使う表現が数多くあります。
患者さんの理解を確認する際に「わかりましたか?」という意味で “Do you understand?” という表現を使われる方がいらっしゃいますが、これだと上から目線で「わかるか?」という意味になってしまいます。こういう場合には “Does it make sense?” という表現を使うのが一般的です。
患者さんから質問をされてその答えがわからない場合、「わかりません」と誠実に回答することは大切ですが、その場合に “I don’t know.” という表現は使わないでください。使い方によってはこの表現は “I don’t care.” という意味があるからです。この場合には “I’m not sure.” という表現を使ってください。
海外から招聘された医師の講演での質疑応答の場面で、日本人医師から “What is the point of your lecture?” という質問がされて、大変驚いた記憶があります。おそらくその医師は「先生のご講演のポイントは何ですか?」と尋ねたかったのだと思いますが、この英語表現は「この講演をやる意義はあるんでしょうか?」のような意味になります。この場合、 “What is the main message of your wonderful lecture?” のような表現を使うべきです。
このような間違いの多くは「英語ではこう言うはずだ」という思い込みが原因で生まれます。英語を学ぶ際には「実際に使われている英語表現」を学び、それらをそのまま使うということを心がけてくださいね。
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