自動翻訳が発達する AI 時代は「英語ができなくても困らない時代」と言えます。このように英語学修の外的動機が弱くなる一方、「やっぱり自分で英語を使えるようになりたい」という内的動機がこれからの時代の英語学修の動機となります。ここではそんな「やっぱり自分で英語を使えるようになりたい」と感じる医師に向けて、キャリアアップに繋がる英語のヒントをご紹介します。
皆さんは外国人の患者さんが受診された時、どのように診察をされていますか?日本の医療機関を受診する外国人の患者さんの多くは、中国語やスペイン語など英語以外の言語を話す場合が多いので、その場合には「医療通訳者との協働」が必要になります。しかしたとえ医療通訳者が完璧に通訳を行ったとしても、外国人患者さんが皆さんの医療面接に満足されない場合が多くあります。
そして外国人患者さんが英語を話される場合、自分で「英語での医療面接」を行う医師も多いと思いますが、そこでも「日本で通常行われている医療面接をそのまま英語で行う」という場合、やはり外国人患者さんからはあまり評判が良くありません。
では「外国人患者に喜ばれる医療面接」には何が必要なのでしょうか?
外国人患者さんが日本の医療機関を受診する場合、母国で行われている医療面接と同じような医療面接を期待します。そして英語圏出身の患者さんの場合、日本人医師が英語で医療面接をする場面でも英語圏で行われている医療面接と同じような医療面接を期待しているのです。
私が教鞭を執っている国際医療福祉大学医学部では、「臨床実習後 OSCE (Post-CC OSCE)」の大学独自課題として「英語での医療面接」「英語での症例報告」「英語でのカルテ記載」という3つを設定しています。そして「英語での医療面接」では外国人模擬患者さんと英語で医療面接を行い、それを録画した動画を英語圏の医学部の臨床教員に評価してもらっています。その評価から「英語圏の医学部の臨床教員から高く評価される英語での医療面接」には、下記のような特徴があることがわかりました。
1. 現病歴を丁寧に尋ねる: Comprehensiveness of History of Present Illness
皆さんもご存じの通り、「現病歴」History of Present Illness (HPI) とは「主訴」 Chief Complaint (CC) の詳しい情報です。患者さんが headache を CC として受診する場合、まずはその headache について丁寧に尋ねることが重要です。英語圏では医療面接全体の半分くらいの時間をこの HPI に使うことが一般的です。日本では HPI の聴取が英語圏ほど重要視されていないので、まずはこの HPI を丁寧に尋ねるということを意識してください。
2. 質問するよりも聴き手になることを意識する: Facilitating the patient’s narrative with active listening techniques, minimizing interruption
「英語での医療面接」となると、「定型英語表現を暗記してそれを立て続けに質問していこう」とする人が多いのですが、実際に高く評価されるのは “Could you tell me more about that?” や “Anything else?” などという表現を使って「患者さんに話してもらう」ことを意識した医療面接なのです。
3. 開放型質問で「発症時」「発症前」「発症後」について尋ねる: Using initially open questions, appropriately moving to closed questions
これも HPI に関連することなのですが、最初に「開放型質問」open-ended questions を使い、症状の「発症時」「発症前」「発症後」の様子を詳細に語ってもらいます。次に “Pain’s OPQRST” や “SOCRATES” などの質問項目を checklist として使った「閉鎖型質問」closed-ended questions を尋ねていきます。日本ではすぐに OPQRST などの closed-ended questions を尋ねる方が多いので注意してください。
4. 深掘りする質問と要約を適宜加える: Summarizing information to encourage correction/invite further information
医療面接は問診票の質問と異なり、「患者さんの話に対応する」 responding to the patient’s remarks ということが重要になります。自分が用意した質問を立て続けに浴びせるのではなく、患者さんの話に沿って「深掘りする質問」follow-up questions をしていくことが大切です。具体的には “You said the stomachache started after you had a breakfast. What did you have for the breakfast?” や “You said you have been stressed out at work. Could you tell me more about your work?” のような質問が follow-up questions に相当します。また会話の最中に患者さんの話を適宜「要約」summary することも有効です。そうすることで医師が患者さんの症状を正しく理解していることを伝えられるだけでなく、医師が何を聞き忘れているか、自然に思いつくことも可能となります。
5. 患者さんに失礼のない英語表現を使う: Appropriateness of language + Good resources of grammar and expression
「どうぞお掛けください」という声がけですが、英語圏ではこれを “Please have a seat.” や “Please take a seat.” と表現するのが一般的です。これを “Sit down, please.” のように表現してしまうと「まぁ座れ」のように聞こえてしまいます。語学学修の基本は「実践の観察とその模倣」であり、英語での医療面接においても「英語圏ではどのような表現が実際に使われているか」を観察して、それを模倣することが重要なのです。
このような「適切な英語表現」を使うことが重要なのですが、これはこちらにあるような「英語圏の医療面接で実際に使われる定型表現」を覚えることで可能になります。
上記の項目が「英語圏の医学部の臨床教員から高く評価される英語での医療面接」における特徴です。また英語での医療面接の評価は それぞれの学生の TOEFL ITP の点数と相関がありませんでした。つまり一般的な英語力が高くなくても、上記の項目を意識すれば英語圏の医学教員から高く評価される英語での医療面接をすることが可能なのです。
また医療通訳者と協働する場合でも、上記の1-4 の項目を意識して日本語での医療面接を行えば、外国人患者さんに喜ばれる医療面接をすることが可能となります。
皆さんも機会があれば上記の項目を意識した医療面接を行ってみてください。そうすればきっと外国人患者さんに喜ばれる医療面接になることでしょう。
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