Medical English キャリアアップのための英語術

  • 記事公開日:
    2023年07月11日

自動翻訳が発達する AI 時代は「英語ができなくても困らない時代」と言えます。このように英語学修の外的動機が弱くなる一方、「やっぱり自分で英語を使えるようになりたい」という内的動機がこれからの時代の英語学修の動機となります。ここではそんな「やっぱり自分で英語を使えるようになりたい」と感じる医師に向けて、キャリアアップに繋がる英語のヒントをご紹介します。


英語でのポスター発表

医師が国際学会に初めて参加する場合、最初に経験する発表は競争率の高い oral presentation 「口頭発表」ではなく、 poster presentation 「ポスター発表」となることが一般的です。しかしその発表方法は oral presentation とは異なるということはあまり知られていません。

poster presentationによっては oral presentation と同じように、発表する時間が定められて特定の聴衆の前で発表する形式を取りますが、それは「ポスターを使って行うoral presentation」と言えます。その場合にはポスターをスライドとして使う oral presentation のスキルが求められます。

これに対して従来の poster presentation は、ポスターの前を自由に通る聴衆を相手に行う「双方向のコミュニケーション」であり、oral presentation のように 1) Introduction, 2) Methods, 3) Results, and 4) Discussion という全体像を話すものではありません。poster presentation の発表方法において求められることは「研究の重要性を短時間で話せる」ことと「聴衆の質問に答える」ことの2点となります。

研究の重要性を短時間で話せる」という点で重要になるのが、ビジネスの世界で使われる elevator pitch というプレゼンテーション方法です。これは忙しい上司に対しエレベーターに乗っているわずかな時間でプレゼンテーションをして説得し、決済を取るというプレゼンテーション方法です。ポスター発表でも聴衆の希望に合わせて「30秒」「1分」「3分」という短時間で要点を話す練習が必要になります。

最初に練習する形式としてお勧めするのが、最も長い「3分」での説明です。ここでは「3分で伝える研究発表」の回でも解説した通り、下記の項目に沿って発表します。

1) Opening: 最初の「掴み」
2) Explain the key word: 研究のキーワードの説明
3) Describe the issue: 研究が解決する問題の説明
4) Research question: 研究が解明する疑問
5) Methods: 方法
6) Results: 結果
7) Take-home messages: 結論

この中で1-4 の項目は研究の Background「背景」に関するものですが、聴衆は皆さんの研究について背景知識を持たないことが一般的ですので、Abstract のBackground, Methods, Results, and Conclusions の4要素の中で最も重要視すべきは Backgroundであり、この Background を上記の4項目に分解して説明することが重要なのです。

これに対して「1分」での説明では、上記項目のうち 3, 4, 5, and 7 を組み合わせましょう。重視すべきは Results よりもどのような研究手法を選んだかを説明する Methods であり、短い時間での説明では Results よりも Methods を重視しましょう。

そして聴衆から “Tell me about your poster.” のように言われた場合、「30秒」以内で 4. Research question7. Take-home messages の2点を要領良く伝えるようにしましょう。そしてこの 7. Take-home messages の伝え方では下記の点を重視しましょう。

ポスターのレイアウトとして、ポスター発表の Title「題名」を一番目立つ場所に配置するという方が多いと思いますが、私はそれをお奨めしません。もちろん Title はポスターに載せなければならないのですが、一番目立たせるべきは Conclusions「結論」をわかりやすく言い換えた Take-home messages です。もちろん論文に記載する際には formal な表現を使うべきなのですが、ポスターではそれを plain English「わかりやすい英語」に変換するようにしましょう。と言うのも formal Englishで書かれたものを読んだ聴衆は「それって具体的にはどういうこと?」と考え、頭の中でわかりやすい英語(表現)に変換する必要に迫られます。このように聴衆が自分の頭の中で変換する必要があるのなら、ポスターでも初めから plain English「わかりやすい英語」に変換しておいた方が聴衆にとって理解が容易になるのです。ですから「1分」での説明においては、Research question を述べた後、ポスターの中で一番目立つように plain English にて書かれた Take-home messages を説明すれば良いのです。

以上が「研究の重要性を伝える」上でのポイントですが、次に「質問に答える」ためのポイントをご紹介しましょう。

聴衆からの質問に答える際、役に立つのが figures「図」tables「表」です。多くの発表者はこの figures や tables の説明文に、論文で使うときと同じような「タイトル」をつけています。しかしポスター発表では聴衆の認知的な負荷を減らす必要がありますので、それぞれの figure やtable でどんなことが言いたいのかを具体的に分かりやすく説明した punchline をつける方が効率的です。この punchline をつけることによって、それぞれの figure や table を使った説明は格段に伝わりやすくなるでしょう。

もし発表当日に聴衆からどのような質問が英語で尋ねられるのか、見当もつかないという場合、Chat GPT や Bard などの生成系AI を利用しましょう。具体的には “Make a list of possible questions from other researchers to the following abstract:” の後に自分の abstract を prompt に入力すれば、ごく簡単にどのような質問が聴衆から尋ねられるのかを例示してくれます。もちろん実際の poster presentation でも同じような質問が尋ねられるわけではありませんが、brain storming としては良いアイディアを得られるはずです。

また発表当日は自分のポスターを遮らない位置に立ち、練習したelevator pitch を使って、「聴衆から質問を引き出す」ということに集中しましょう。初心者はどうしても研究の全てを話そうと早く話す練習ばかりしてしまいますが、聴衆から質問を引き出して、その部分だけ話すposter presentationの方が聴衆にとって印象的なものとなります。また目の前で話を聞いている聴衆だけでなく、その後ろに立っている聴衆にも意識を向けることが大切です。そうすることで聴衆が途絶えない素晴らしい poster presentationとなることでしょう。

監修押味貫之
  • 国際医療福祉大学医学部 医学教育統括センター 教授
  • 国際医療福祉大学 国際交流センター 成田キャンパス センター長
  • 国際医療福祉大学大学院 医療福祉経営専攻 医療通訳・国際医療マネジメント分野責任者
  • 国際医療福祉大学 総合教育センター 成田キャンパス 語学教育部 医学科英語主任
  • 日本医学英語教育学会理事
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