埼玉県特集
埼玉県知事より
「埼玉県での勤務をお考えなら総合医局機構を御活用ください」
埼玉県では、県民の誰もが安心して医療を受けられるようにするため、何よりも現場を支える医師の方々を求めています。
このため、医学生に対する奨学金の貸与や開業医による拠点病院支援など、県内で働く勤務医の皆さんの負担軽減を図るための様々な取組を進めてまいりました。この結果、平成26年(2014年)までの10年間の医師の増加数は1941人で全国7位、増加率は21・3%と全国5位となっています。
しかしながら、本県の高齢化は急速に進むと予測されており、医療需要の更なる増加が見込まれています。したがって、医師の確保が県の最重要課題の一つであることに変わりはありません。
そこで、本県では埼玉県医師会や県内医療機関、大学などと協力して、平成25年に埼玉県総合医局機構を創設しました。これは他県にはない取組です。
ここでは、本県の医師確保に関する情報発信や各種の相談に集中的に対応しています。また、若手医師のキャリアアップ支援や女性医師の復職支援などを通じて医師の県内定着を進める取組のほか、奨学金貸与者などを医師が不足している病院や地域に派遣するなどの重要な役割を果たしています。
さらに、この4月には、シミュレーター機器等を用いた教育施設である「埼玉県総合医局機構 地域医療教育センター」をさいたま新都心に本格オープンし、本県の医療教育・研修環境の向上を一層図っていくこととしています。
埼玉県での勤務をお考えの医師の方々は、是非とも「埼玉県総合医局機構」を御活用ください。本県の医療をより充実させるため、一緒に働いていただける医師の方々を心からお待ちしています。
- 埼玉県知事 上田清司氏
- Profile1971年法政大学法学部法律学科卒業後、1975年に早稲田大学大学院政治学研究科修了。1993年に衆議院議員初当選後、3期連続同職を務める。2003年9月から埼玉県知事に就任。
埼玉県総合医局機構センター長より
「魅力ある医療環境にするため、オール埼玉体制でサポートします」
医師不足と言われて久しく、各方面で対応策が講じられてきましたが思うような成果が得られていません。しかし、機能的かつ有機的システムを構築することにより、医師不足を解消する事ができるのではないかを検討し、可能であるとの結論に達しました。
そのシステムとして、埼玉県ではかつて大学医局が行っていた継続的医師派遣等の優れた機能を有する埼玉県総合医局機構を立ち上げました。
機構には、医師会、県内医療機関、大学などから多くの医療関係者の皆さまに参画していただき、オール埼玉体制で医師確保等の対策に取り組んでいます。
この4月には、広く県内医療従事者が利用できる研修施設である「埼玉県総合医局機構 地域医療教育センター」がオープンしました。このセンターでは、救急医療や様々な専門スキルを学ぶ研修を、シミュレーター機器等を用いて実施することが可能であり、埼玉の地域医療を担う医師の教育・研修環境の向上が期待されます。
このほかにも、埼玉で働いて良かった、埼玉で働いてみたいと思われる魅力ある医療環境の県にするため、指導医の派遣、キャリア形成の支援、女性医師の勤務環境整備や復職支援などオール埼玉体制でサポートいたします。
埼玉県総合医局機構へのご支援、御協力をお願いするとともに、皆様の参加をお待ちしております。
- 埼玉県総合医局機構
センター長 (埼玉県医師会会長)
金井忠男氏 - Profile1970年に横浜市立大学医学部卒業後、1981年に所沢肛門病院を開設し、現在は同院名誉院長。2004年に埼玉県医師会常任理事となり、2010年に埼玉県医師会会長に就任する。2013年から現職を兼任。
医師の確保と支援に向けて県内の医療機関や大学などが協力
全国上位の医師数増加率でも人口に対してはまだ不足
埼玉県は人口10万人当たりの医師数が、都道府県の中で最も少ないといわれる。しかし県内の医師数は2014年で1万1058人で、これは全国9位。ここ10年間の医師増加数でも全国7位といずれも上位にある(厚生労働省『医師・歯科医師・薬剤師調査』から埼玉県が算出)。この状況を埼玉県保健医療部医療整備課長の表久仁和氏は次のように説明する。「しかしながら当県の人口増加率がそれを上回る状況で、地域や診療科の偏りも大きくなっています」
同県は「埼玉県地域保健医療計画」で10の二次保健医療圏を設定しているが、病院に従事する医師総数は2014年で「川越比企」が人口10万人当たり214・4人(医師数1713人)に対し、「南西部」は105・0人(医師数742人)と大きな開きがある。なお医師数は「さいたま」2124人が最も多く、「秩父」141人が最も少ない(資料提供:埼玉県)。「当県知事は、このような現状を『埼玉県は都市部と過疎地を併せ持つ日本の縮図』と分析しています」と表氏。
また診療科別の医師数も以前からの偏在に加え増加率にも差があり、産科・産婦人科や外科は県全体の増加率21・3%を大きく下回る。一方で小児科は増加率18・7%と県平均からやや低いものの(左図参照)、2017年から埼玉県立小児医療センターがさいたま新都心に移転して診療を開始しており、今後一層の充実が見込まれる。
埼玉県の医師増加数は全国上位
2004年→2014年の10年間で1,941人増加(全国7位)
参考:埼玉県の2年ごとの医師増加数と全国順位 | |
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2004年→2006年 | 461人(7位) |
2006年→2008年 | 376人(5位) |
2008年→2010年 | 305人(8位) |
2010年→2012年 | 429人(8位) |
2012年→2014年 | 370人(6位) |
診療科により医師増加率に大きな差
(2004年→2014年の10年間の増加数と増加率)
2025年までの75歳以上人口の増加率は全国1位
2010年→2025年 | 増加率 | |
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埼玉県 | 58.9万人→117.7万人 | 2.00倍 |
全国 | 1419.4万人→2178.6万人 | 1.53倍 |
埼玉県総合医局機構の主な役割
- 医師不足状況等の把握・分析
- 医師不足病院への支援
- 医師のキャリア形成支援
- 医師確保に関係する情報発信と、医師や医師を目指す人からの相談への対応
- 地域医療関係機関との協力関係の構築
医師と医療機関をつなぐ埼玉県総合医局機構を開設
こうした現状に対し、同県は2013年に「埼玉県総合医局機構[愛称:Ko baton .me d(コバトンドットメド)]」を立ち上げたと表氏。「これは当県と県医師会、県内の医療機関や大学などが協力し、『オール埼玉』で一体的に取り組むための組織で、医師の確保と派遣、医師の支援が活動の2本柱となっています」
医師の確保と派遣では、医師のキャリアステージごとに対策を行っており、医学部進学志望者への奨学金貸与、臨床研修医や後期研修医への研修資金貸与のほか、専門医や指導医を招聘する病院の支援により医師がスキルアップしやすい環境を整備している。
中でも臨床研修医へのアプローチは以前から積極的に行い、2004年度から始まった新医師臨床研修制度でのマッチ者数は165人から312人とほぼ倍増したという(マッチング時期は研修開始前年度の2003年度から2016年度。資料提供:埼玉県)。
また医師の支援として、病院等を横断したキャリアアッププログラムの作成を目指すなど、医師が県内医療機関をローテーションしてキャリア形成できる仕組みの構築を急いでいる。「当県の人口は今後も増加が見込まれ、高齢化は急速に進みます。医療需要が拡大し、医師の皆さんの活躍の場に事欠かないのが埼玉県なのです」
- 埼玉県 保健医療部
医療整備課 課長
表 久仁和氏
高度医療を行う病院に隣接した教育拠点で医師の成長を支援
同機構の医師バンクでは医師の県内への就業を支援
埼玉県総合医局機構ではその役割のうち「医師からの相談への対応」として、機構ホームページKo baton .me dで県内医療機関の求人情報を集約。勤務希望の医師が求職情報登録や求人情報検索ができるサービスを提供している。また医師無料職業紹介事業(医師バンク)では就業支援も行っていると表氏(前出)はいう。「医師バンクに求職登録された医師の皆さんのもとへ機構職員が面談のために訪問。詳しく希望を聞いた上で医療機関側と条件を調整し、希望により病院見学に同行するなどのサポートを行うものです」
埼玉県総合医局機構による医師無料職業紹介事業
医師などの教育拠点となる地域医療教育センターを開設
2017年から同県のさいたま新都心において、さいたま赤十字病院と埼玉県立小児医療センターが診療を始めたが、小児医療センターが入る建物の8階に同機構は「地域医療教育センター」を開設。「これは当県内の医師をはじめ医療に従事する方の教育拠点となるもので、臨床研修医はもちろん一般の医師にも活用いただける教育研修施設です」
シミュレーター訓練室、診療シミュレーション室などを備え、現在はすでに研修等で使用。高規格乳児シミュレーター、内視鏡手術や各種手技のトレーナーなども整備されており、今後は周産期医療や多職種連携のための研修などにも対応していく予定だ。「階下では小児医療センターと赤十字病院の連携で周産期医療、小児重症患者も含む救急医療が行われています。そこで経験を積んだ医師にも当センターで実施する研修の支援をしてもらい、県全体の医療レベルを向上させます」
地域医療教育センターでの研修風景。
進化を続ける埼玉県の救急医療
埼玉県の救急搬送患者は高齢化に伴い、年々増加する一方、救急医療機関数はほぼ横ばいで、医療機関当たりの負担が増大。そこで同県は以下の様に救急医療体制を充実させた。〈救急搬送体制の強化〉・2007年に開始したドクターヘリを、2015年からは隣接する群馬県と広域連携し、さらに効率的に運用。・県内の全救急車にタブレット端末を配備。救急医療機関の受入可否をリアルタイムで確認でき、搬送実績を医療機関と共有できる救急医療情報システムを導入。〈受入医療機関の整備〉・救急病床の整備。・長時間搬送先が決まらない救急患者を原則として断らずに受け入れる搬送困難事案受入医療機関の整備など。〈適正受診の推進〉・従来の小児救急電話相談に加え大人の救急電話相談を開始。
これらにより2013年から2015年で、重症患者受入照会4回以上の人数・割合とも約4割減、照会11回以上は約9割減となった(資料提供:埼玉県)。
女性医師が働きやすい・続けやすい医療環境に向け専門の支援センターを中心に県全体で取り組む
女性の就労継続や復職支援で先輩女性医師による相談対応も
同機構は女性医師が出産後も就労を継続したり、休職・退職後に復職したりする際の支援策も用意している。その相談窓口として「埼玉県女性医師支援センター」を開設。相談は来訪、電話、メールなどで受け付け、必要なら子育て経験のある女性医師が対応するなど、育児や介護支援に関する情報を提供していると表氏はいう。「先輩の女性医師と話すと安心される方も多いようで、こうした支援をさらに活用してほしいですね」
さらに復職研修を提供する医療機関の紹介、短時間勤務のため代替医師を利用する環境の整備なども行っている。「医療機関との調整次第では、定時勤務や常勤医以外にさまざまな働き方が可能になります。復職希望で悩まれている方などは、女性医師支援センターに相談いただければと思います」
同機構による女性医師の復職支援
- 代替職員を雇用しやすい環境を整備
- 就労継続を希望する女性医師が短時間勤務をする場合、代替医師を雇用・配置する病院を支援
- 埼玉県女性医師支援センターの運営
- http://www.saitama-joi.jp/
女性医師の就業・復職に関する相談、育児・介護支援の情報を提供産前・産後休業から復職する女性医師からの相談は、必要に応じて子育て経験のある現役医師が電話やメールで対応
県内病院の移転新設などで地域保健医療計画を実現
最後に同県の『埼玉県地域保健医療計画 第6次計画の概要』をもとに、特に医療機関等に関連する施策と主な取組を抜粋しておこう。
〈施策と主な取組〉
●質が高く効率的な医療体制の確保
患者本位の医療の提供と医療安全の確保、医療機関の機能分化・連携と医療機能の重点化の促進を前提に、5疾病(がん、脳卒中、急性心筋梗塞、糖尿病、精神疾患)・5事業(小児医療、周産期医療、救急医療、災害時医療、へき地医療)、在宅医療、リハビリテーション医療、感染症対策、保健医療福祉従事者等の確保を施策としている。それらの主な取組として以下がある。・がん医療/がん検診の普及啓発、がんセンター新病院の建設(2013年度)、緩和ケアの推進など・小児医療、周産期医療、救急医療/小児救急医療体制の整備・充実、NICUの整備など周産期医療体制の強化、さいたま新都心における医療拠点の整備(県立小児医療センターとさいたま赤十字病院の新築移転)、高度救命救急センターの機能強化など・在宅医療/地域において在宅療養を支援する連携体制の構築など・保健医療福祉従事者等の確保/埼玉県総合医局機構の創設・運営など
「当県は河川被害発生箇所数が全国44位、土砂災害発生件数が全国36位など自然災害が比較的少なく(※)、他の地域が被災した際には救急医療の受け皿となる可能性もあります。医療分野でも大きなポテンシャルを秘めた埼玉県で、多くの医師の方に是非ご活躍いただきたいですね」(※『統計からみた埼玉県のすがた2016』より)
連携を広げる埼玉県の地域包括ケア
埼玉県は2025年に向けて高齢化が急速に進むため(前出表:75歳以上人口の増加率は全国1位)、在宅療養を充実させるため医療と介護の切れ目のない連携が不可欠となる。これに向け、同県は介護保険を所轄する市町村が医療分野とスムーズに連携できるよう、各郡市医師会と協力して「地域括ケア推進のための在宅医療提供体制充実支援事業」を進めている。
具体的には郡市医師会が「在宅医療連携拠点」を開設し、医療・福祉に精通した専門職を配置。患者や家族、地域包括支援センターなどの医療相談に対応し、往診医への紹介も行う。
また往診医の指示で患者を受け入れる「在宅療養支援ベッド」を各地域の病院に1床確保し、往診医の負担軽減を図っている。
このほかICTを活用し、在宅療養に携わる多職種が連絡を取りやすい環境も構築中だ。
こうした体制を整えた上で、2018年度には在宅医療連携拠点を市町村に引き継ぎ、地域が主体となった地域包括ケアシステムを充実させる予定だ。