これからの目標 | 開業 七転び八起き

※「ジャミックジャーナル」は2011年10月号より「ドクターズキャリア マンスリー」にリニューアルされました。

第12回

「これからの目標」

これからの目標。
基本理念を大きく発展

 開業の苦労話を赤裸々に書いて気がつけば1年が過ぎました。おかげさまでこの連載も最終回を迎えました。

 最後は、これからの目標、そして、今後開業される先生方に私見としてアドバイスを述べさせていただきたいと思います。

 まずはこれからの目標です。

 開業当初から「患者さんが安心できる、癒される」ということを基本理念としてきました。今までと主軸は変えず、今後はさらに大きく発展させていきたいと思っています。

 主軸の一つは高い専門性を生かした肝疾患治療をさらに充実させることです。昨年から肝炎の患者会の顧問を始めました。定期的な会合にはなるべく参加し、正しい治療についてなど患者さんへの啓発活動を行っています。昨年8月には患者会主催の講演会を行いました。今後、患者会だけでなく、クリニックの患者さんを対象として肝臓病教室なども企画したいと思っています。

 主軸のもう一つは女性に優しく、頼りになるクリニックを目指していくことです。女性医師であることを生かし、相談しやすい、共感できる診療を心がけていきたいと思います。心療内科領域の知識も深め、美容的なことも勉強できたらと考えています。

 また、大学との共同研究や治験など、クリニックにもできる臨床研究活動を続けていきたいとも思っています。

 クリニック内では、予約制の充実を考えています。予約制導入前は患者さんの減少を危惧していましたが、導入後、患者さんは結果的に増患となりました。

 しかし、内視鏡検査や超音波検査との予約の兼ね合いや、新患の対応が遅くなるなど問題はあり、患者さんが増えるにつれて検査がずれ込んだり、予想以上にお待たせしたりすることも多くなってきました。待ち時間を少しでも減らすよう予約の取り方や検査件数、時間の配分など、さらに工夫を重ねていきたいと思っています。

 次に職員の人材育成についてです。長い間苦しめられた職員問題ですが、今はとてもよいスタッフに恵まれ安定しています。これからの目標は、看護師に内視鏡技師の資格を取らせること、医療事務職員を医療秘書のような高度な仕事ができるように教育していくことです。もちろん成功報酬をつけて、努力や貢献をする人にはそれ相応の評価と待遇を与えていくつもりです。

 さらに、地域の医療崩壊を食い止めるため、自分のできる範囲で、協力していこうと考えています。

 一つは市民病院の外来のアルバイトを続けていくことです。クリニックの一日平均患者数が増えた現在でも、市民病院の外来のアルバイトを行っています。私のいる地域では肝臓専門医が少ないため、ほかの地域からも肝疾患の患者さんが来られます。外来を継続することで、いつ入院するかわからない病状の重い患者さんや、長く市民病院の外来に通院している患者さんにとって貢献できているのではないかと考えます。これらは、肝疾患患者さんの一点集中を抑え、少しでも医療崩壊を食い止めることに役立つと思っています。今後も可能な限りは続けていきたいと思っています。

 医師会で夜間救急外来の手伝いを行う話も出ており、こちらも無理のない程度に協力したいと思っています。

コンサルタント、職員……
苦労から体得したアドバイス

 最後にこれから開業する先生に、反面教師ともいえる私からあくまでも私見としてアドバイスを送りたいと思います。

 私たち医師は開業時には経営者としてまったくの素人であり、誰かの助けが必要です。まず、開業本やセミナーなどを通して可能な限り情報収集を行い、なおかつ自分の頭で考え、開業後のクリニックの運営、診療内容など明確なイメージを立ててください。

 さらに開業の先輩、特に自分が行いたいと思っている業態に近い先生から実体験を聞きだしてください。詳しくお話していただけなくても必ず参考になるアドバイスがあると思います。

 また、どうしても忙しいうえに、開業までの準備期間が短く、開業コンサルタントに依頼しなければならない先生は、経営が安定してくる3年後くらいまで、責任を持って面倒を見てくれるコンサルタントと契約することをお勧めします。開業までで終了してしまうようなコンサルタントには依頼しないほうが無難でしょう。開業後、思うような収益が得られなかった場合、私のように大変な目に会う可能性が高くなるからです。患者さんが増えず、収入がなく苦しんでいてもなにも教えてくれないですし、助けてもくれません。開業後も面倒をみてくれるコンサルタントであれば、さまざまな経営指導を行ってくれます。また、最初から無理な資金計画なども作成しないでしょう。

 職員についても開業後に苦心することが予想されます。病院から気心の知れたスタッフを連れて開業したのにすぐに退職してしまったという話も聞かれます。クリニックで生かせる人材と病院で生かせる人材は異なることを念頭に職員選びを行ってください。よい職員かどうかは3ヵ月以上様子を見ないとわかりません。簡単に正職員にはしないほうがよいでしょう。

開業は起業。
医師兼経営者になる

 開業して最初からうまくいくことはあまりないと思います。そのとき気持ちを前向きにして、困難を乗り越えていくには強い意志が必要です。

 開業する前に、自分はなぜ、何のために開業するのか。どんな診療を行い、どんなクリニックにしていきたいのか、ということを心に問いかけて見つめなおしてください。それが強く、確固たるものにならないうちに開業するのはお勧めできません。開業が逃げであってはいけないと思います。勤務医より楽だと思って開業しても、勤務医時代とはまったく違った困難が待ち受けています。

 診療内容に関しても自分のクリニックの特長を出していくのがよいと思います。私の場合は肝臓専門医、消化器病専門医、消化器内視鏡専門医などの専門資格を持っていました。集患には、内視鏡専門医のほうが、肝臓の資格よりも役立つと思っていました。しかし、開業後、最も私の助けになったのは肝臓専門医でした。このおかげで、大学医局の先生と交流も持て、共同研究もできました。

 特長を打ち出すことは、近隣クリニックとの差別化にも役立ちます。直接周囲の競合クリニックを調査し、自分にしかできないことを打ち出すのが適当だと思います。

 また自分がやりたいことを行うのもモチベーションを高めるために必要です。最初は経営状態が安定しないので様子をみて、やりたいことや好きなことを行っていくのがよいでしょう。

 ここ数年、医療業界は厳しい状況が続いており、クリニックも増え、生き残りをかけて競争が激しくなってきているようです。世の中全体が不況で患者さんも受診を控える傾向があるように思います。しかし、特長を生かし、努力していくクリニックは厳しい時代でもきっと生き残ると思います。

 開業は起業です。借金をするのも、働いて返すのも自分です。あなたのクリニックはあなたのものです。どこにもない自分だけのクリニックをつくりあげてください。そのために私の経験が少しでも役立てば、この連載の意味があったといえるでしょう。

※当記事はジャミック・ジャーナル2010年3月号より転載されたものです

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