ホンネQ&A| 開業 七転び八起き

※「ジャミックジャーナル」は2011年10月号より「ドクターズキャリア マンスリー」にリニューアルされました。

番外編

「ホンネQ&A」

先月号まで好評連載をいただいていた高柳先生に、再度ご登場いただき、開業にまつわる疑問・質問に、ホンネでお答えいただきました。

Q1 開業にこだわった理由と、ほかの選択肢を検討されたか教えてください。
勤務医が良かったと感じる瞬間は?

 私が開業を考えたのは、開業医の父の姿を見て育ち、開業を身近なものと考えやすかったからだと思います。性格的なものもあると思いますが、自分は開業に向いていると思っていました。本来実家に戻って家業を継ぐ予定でした。また勤務医として生きていくうちに、いつか自分のクリニックで自分の思うような診療を行いたいという思いが強くなりました。

 医師のキャリアとしては大学に残って研究者として学問を修める、病院やクリニックで勤務医として働く、などほかにも選択枝があったと思います。大学医局時代に学位がとれる見込みがたったとき、今後のキャリアプランとして、研究を続け研究者として生きるか、それとも臨床医として生きるかという選択を迫られました。研究にも惹かれたのですが、私は人と接する臨床に魅力を感じたので臨床医として生きることを選択しました。

 今でも学会に行って後輩の大活躍を見ると、研究者としての生き方もあったなと残念な気がすることも多々あります。が、自分にはこの生き方(開業)が性に合っていたと思います。

 むろん安定した身分、収入、よい待遇で仕事ができれば開業せず勤務医として生きていくほうがよいと思います。私の場合は医局制度のなかで自由に仕事が選べなかったこと、大きな組織が苦手だったこともあり、小さく守備範囲を決めてできる開業が合っていると考えました。残念ながら、勤務医では安定した収入や身分はあっても良い待遇という職場はないのが現状ではないかと思います。

 開業した当初は資金繰りや職員問題で悩まされ、勤務医時代のほうがよかったと思ったことは何度もありました。勤務医ならお金のことは考えず診療に専念できるし、休みを取りやすいし、学会に行きやすいことなどが利点です。ただ、組織が大きくなると周囲との人間関係も複雑になりますし、白いものも黒いと言わなければならない部分もでてきます。開業してよかったのは、自分で仕事のプランを立てていけることです。勤務医時代は、じわじわと増加するクレーマーのような患者さんの対応が、病院によりまちまちで大変でした。開業してからは自分の裁量で対処するので、同じトラブルでも気分的に楽になりました。

 ただし、開業当初は「ひたすら」働かなければならなかったことを付け加えておきます。

Q2 開業までコンサルタントに依頼し、残念なご経験もされたとのことですが、ふりかえって「むしろ自分でやった方が良かったこと」と「やってもらって助かったこと」を教えてください。

 コンサルタントに委託した業務のなかでむしろ自分がやったほうがよかった部分は、医師会との交渉、各種届出書類、医療機器の選定、建設業者の選定、広告(看板やウエブのホームページ)会社や印刷会社の決定など。ロゴマークなどデザインしてもらいデザイン代金をとられましたが、結果から言えば、まった-く無意味でした。

 一方、コンサルタントが入って助かったのは医院設計、銀行に提出する試算書の作成、金融機関やリース会社の交渉などでしょうか。

Q3 開業時スタッフ6人、検査機器も妥協せず、で当初ご苦労されたそうですが、規模や投資金額などについてふりかえってご意見をお願いします。

 私のように落下傘開業で患者さんの数の見込みが不明なのに、すべて最新機器にしたのは無理がありました。高額のリース代が、予想以上に経営を圧迫しました。内視鏡、超音波機器は最新のものにしても、他は中古でよかったと思います。また、開業当初のスタッフは多すぎ、職員の給与も高すぎました。開業当初は可能な限りパートで採用し、能力、就業態度により常勤採用にするのが望ましいと思います。そのことについてコンサルからの助言は、まったくありませんでした。

Q4 診察時間の決め方、時間外の対応などについてアドバイスをお願いします。

 私は開業してから2回診察時間を変更しました。東京都心と地方都市ではクリニックの診療時間も違います。都心では土曜日の人口が減りますから、土曜休診でも問題ないのですが、地方都市では異なります。開業当初は土曜休診としていましたが、今は毎週診察しています。また、近隣のクリニックの診療時間や休みを調べ、休日をずらす(周辺のクリニックで木曜休診が多いなら自分は他の曜日に休診とする)、診療時間の終わりをずらす(周辺が5時半終了なら自分は6時にするなど)ことで患者さんを新規につかむことができると思います。時間外は対応しておりませんが、検査や特殊治療(インターフェロンなど)を行っている患者さんには院長携帯を教えています。

Q5 開業に向かないのは、どんな医師?

 向かないタイプは、自分をしっかり持っていない先生だと思います。開業後は、勤務医時代に予想しなかった困難が起こります。その際に自分がぶれていては問題が解決できません。自分の判断軸があり、ぶれない人でないと経営者はつとまらないと思います。

 また、口下手の先生、患者さんに対して尊大な態度の先生もあまり向かないでしょう。継承であればまだよいのかもしれませんが、落下傘の場合、ゼロからのスタートになります。新規に患者さんをつかまなければ経営はなりたちません。コミュニケーション能力の高さが必要です。

 気の弱い先生も開業向きではありません。下手をすると職員にクリニックを支配されかねません。開業後に起こるさまざまな困難に対して、精神的に耐えられないと思います。

Q6 最終的に成功しない開業医の共通点は?

 あくまでも個人的な意見ですが、経営努力や勉強をしないで患者が減ったと愚痴る先生、故意に人の評判を落とそうとする先生は、困ったものだと感じます。そんなことしている暇があれば知恵をしぼって努力すればよいのに、と思います。前向きに仕事ができない先生はやがては廃れるのではないかと思います。また患者さんに対して説明が不十分で愛想がない先生などは、患者さんが徐々に減ってしまう傾向にあるようです。

Q7 最後に、開業の醍醐味を。開業予備軍をうらやましがらせてください。(笑)

 自分の守備範囲で自分の好きなことを主軸に診療していけることではないでしょうか。細やかな診療ができ、患者と医師関係も勤務医時代より親密であると思います。

 経営的に安定すれば収入も勤務医時代よりよくなりますし個人事業なので必要経費として認められるお金もあります。医療法人になればさらに税制上の優遇が得られます。生活全般において、基本的に自分でコントロールしている実感は、持てますね。

※当記事はジャミック・ジャーナル2010年4月号より転載されたものです

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