院長としての心がまえ| 開業 七転び八起き

※「ジャミックジャーナル」は2011年10月号より「ドクターズキャリア マンスリー」にリニューアルされました。

第11回

「院長としての心がまえ」

苦労した日々をどのように
乗り越えてきたか

 開業してから、気がつけばもう3年が過ぎてしまいました。2年目を超えたあたりから月収支が損益分岐点を超え、借金もなんとか困らず返せるようになり、アルバイトも義理以外はしなくなりました。最近は職員の移動もなく、誠意を持って働いてくれています。経済的にも精神的にも余裕がでてきたところでしょうか。

 さて今回は、あんなに大変で苦労した日々をどのように乗り越えてきたかについて、書いてみたいと思います。

 まず、開業するときです。

 私のいちばんの失敗は、時間に追われ、ある開業コンサルタントの言われるままに行動してしまったことです。少しでも勉強し、数社に見積もりを出してもらうなど、色々とシミュレーションをしてみるとよかったと思います。

 コンサルタントによっては、考える時間を与えず、競合などを避けるため、契約を急がせる場合がありますが、医療器械を選定する場合は特に慎重を期してください。リース契約は一度交わすと変更がききません。よく検討し、後悔のないよう選定してください。

 もうひとつ大切なことは資金繰りです。試算表などは専門家でなければ難しいと思いますが、開業ローンの期間、支払い開始時期などをよく検討したうえで決定すべきでしょう。気をつけるべきポイントは収入が少ないうちに返済が開始するローンです。私はこれでずいぶんと苦しみました。こちらもいろいろな金融機関を競合させるのがよいと思います。

 私が開業したのは自分の責任の持てる、専門性の高い医療を提供したい、患者さんが癒されるクリニックにしたい、という夢や、強い気持ちからでした。開業する前に、自分が何のために開業するのか、どんなクリニックにしたいのか、そしてその実現のためにはいくらかかるのか、を明確に書きだして検討すべきだと思います。業者がなんと言おうと、クリニックの管理責任者も、借金をするのも、働いて返済していくのも院長です。決して妥協はしないでください。ここで譲ると開業後に後悔の嵐となります。

 もし資金的に無理なことがあれば、優先順位をつけてリストを作成してください。第三者に決定権を与えず、すべて自分で決定することが重要です。わからないことや、迷うことは、できれば、継承や二世ではない先輩開業医に相談したり、体験談を聞いたりするのがよいと思います。

職員との関係性
馴れ合っては失敗する

 次は職員対策です。

 まず、可能な限り最初から正職員で雇うのはやめましょう。最初はパートで勤務してもらい、誠実な勤務態度で、クリニックに対する貢献度が高ければ正職員にする制度が望ましいと思います。クリニックは、スタッフのほとんどが女性で、年齢もさまざまです。子どもがいる職員の場合は、そのライフスタイルに合わせた勤務時間を選択させてあげてください。看護師や医療事務員の多くは、子どもがいてもキャリアを継続したいと思っています。院長が少し歩み寄ることで、いい職員が定着します。

 しかし、反抗的で自分本位な主張をする職員もいます。面接の時点でわかればよいのですがなかなかわかりません。自己中心的な性格が出るようなひっかけ質問をしてみるのもよいと思います。入職後このような職員はたいがい問題をおこしますが、その場合は早いうちに始末書などで矯正し指導します。職員の失敗やごまかしを見つけたときは、その場できちんと処分してください。忙しいからと放っておくと、後々モンスターになる可能性がかなり高いといえます。

 また、職員に必要以上の期待や信頼をおかないことです。長年クリニックに多大な貢献をしたのであれば別ですが、今の職員はクールに働いています。相手をよく知るまで信用しないほうが、失望せずにすみます。

 さらに、人事評価をきちんと行い、職員の意見を聞く時間をつくってください。うちでは職員会議の場を設け自由に意見を出してもらいます。もちろん受け入れられない要求であれば、やさしく却下します。入職後半年、1年で人事評価と今後の目標設定、労働条件の確認をする個人面接も効果的です。これを始めてから、職員の定着がよくなりました。

 私は開業当初、職員とは仕事仲間だと思っていましたが、今はこちらが上司であり、部下を統括する気持ちで接しています。仲良く仕事をするのは結構ですが院長が職員と馴れ合ってはいけません。院長は冷静、公平な視点で職員の指導、監督を行うべきでしょう。

ペース配分を考え、
三年間はがんばってみる

 最後にもっとも大切なのは院長の体調管理、メンタルヘルスだと思います。開業後、患者が少なくなかなか増えないなか、自己資金がどんどん減りその底が見え始めると、大変不安な気持ちになり、焦りを覚えます。人に必要とされない、地域から受け入れられていないという思いもわいてきました。この沈んだ気持ちや、焦り、不安に取り付かれてしまえばうつになっていたかもしれません。しかし、すぐに気持ちを切り替え、土日は当直のアルバイトに出かけました。この生活は約1年強続きましたが、勤務医時代は当直から離れていたこともあり、とても辛いものでした。仕事以外のときはひたすら休んで体力回復に努めていました。

 そんな私をささえたのは、自分のクリニックを守り通すという強い意志でした。肉体的にも、精神的にも疲労困憊し、くじけそうになったとき、自分ではどうにもならないことは考えず、できる改善策を考えるようにしました。借金の減額や取り消しはできませんから、借金を無理なく返済できる目標額を設定したらもう借金のことは口に出さないことにしました。

 同時に希望のもてること、患者さんがたくさん来てお金の心配をしなくてよくなっている状況をイメージするようにしました。その結果、状況は徐々に改善し、先が見通せるようになりました。患者さんを大事に考え、診療していればゆるやかですが必ず結果はついてくると思っています。

 クリニックは院長がつくりあげていくものです。院長たるものは明確なイメージと、強い意志、そして体力と行動力が必要な仕事だと思います。

 私が落下傘開業をしたとき、知り合いの先輩開業医から、「とにかく3年がんばりなさい。3年たつと落ち着くから、楽になってくるから」とよく言われました。今、開業3年目を過ぎ、それは正しかったと実感しています。

 

 これから開業を考えている先生、今、孤軍奮闘されている先生もなんとか気力、体力を3年は持ちこたえるよう力の配分をし、理想のクリニックを実現していただきたいと思います。

※当記事はジャミック・ジャーナル2010年2月号より転載されたものです

非公開求人1万件以上。

医師転職専門の
キャリアアドバイザーが
施設との条件交渉を
代行します。

転職のご相談はこちら

サイトは個人情報保護のためSSL暗号化通信を採用しています。お客様からの情報送信は暗号により保護されています。