ご近所とのつきあい方| 開業 七転び八起き

※「ジャミックジャーナル」は2011年10月号より「ドクターズキャリア マンスリー」にリニューアルされました。

第10回

「ご近所とのつきあい方」

敷地問題と駐車場問題
甘い言葉が大トラブルに

 今までこの連載で、開業後のさまざまな問題、苦労、解決法などを書いてきました。今回は医業とは少し離れますが、ご近所とのつきあい方について述べてみようと思います。

 開業が決まり工事を行う前にご近所に挨拶にうかがいました。特にうるさい方もなく問題がないように思いましたが、万一、トラブルが起こるとしたら、敷地問題と駐車場問題であると予想されました。

敷地問題についてはクリニックの両隣の家との間には幅5m弱の細い市道があり、当初、問題が生じる可能性は少ないと思われました。クリニックの入り口から向かって右側に駐車場を、左側は花壇にしました。駐車場も14台分のスペースがあるので隣家との問題が起こるとは思われませんでした。

 クリニックの左隣には一階が空き店舗になった三階建てのマンションと大家さんの自宅、右隣にはパン屋がありました。パン屋は繁盛していたので、クリニックのいい宣伝になるだろうと思いました。

 クリニックと道路の境界には景観を考えて特にフェンスなどは設置しませんでした。クリニックの敷地はもともと畑であったため、両隣の市道は近所道です。エアコン室外機にいたずら書きをされ、また室外機の近くのガス管にはタバコの吸殻が捨てられていました。これ以上いたずらされると非常に危険なので抜け道として通れないよう、園芸用の簡易ラティスや観葉植物などでバリケードのようなものをつくりました。すると裏の家と隣家の住人が抜け道として通れなくなるから困る、と権利を主張してきました。

 そこで市の職員に間に入ってもらい、市道とクリニック、隣家との境界線のの住人の抜け道として利用されていました。ところが、左隣のマンションと家は登記簿上の境界線を越えて塀とフェンスを設置していたため、左隣の市道を抜け道として使用すると、クリニックの敷地に入らなければ通行不可能でした。

 開業後一年は大きな問題はなく過ぎました。特にクリニックの駐車場には市道から容易に入れ、とても利用しやすいようでした。

 最初に問題になったのは左隣の抜け確認と、境界を越えてフェンスが設置されており市道としては使えないという確認をとりました。クリニックの安全確保のため市道を閉鎖する許可ももらいました。市の見解では撤去可能な物であれば道を遮断してもかまわないということでした。

 意味不明な権利を主張している裏の住人には、道を使用する際には当クリニックの敷地を通らなければいけないが、私が許可しない場合、住居不法侵入になると説明しておきました。その後しばらくこの住人からいやがらせのようなことをされました。よかれと思い抜け道を通れるようにしたことが裏目に出てしまったのです。

 田舎で、土地も余裕があるのでおおらかに暮らそうと思っていたのですが、土地に対する執着心と自分のものでもないのに権利を主張するのはどこも同じです。クリニックの経営状態がもう少しよくなってきたら、この市道は買い上げたいと思っています。バリケードを作ってから、いたずらはなくなりました

勃発した駐車場問題
大声で暴言を吐かれる

 今年5月ごろに今度は右隣のパン屋との間で、駐車場問題が発生しました。

 パン屋は繁盛していましたが、駐車場が少なくお困りのようでした。クリニックのパンフレットを置かせていただいていることもあるので、「空いていたら、何台かであれば、停めてもよいですよ」とお伝えしました。隣人ですし、仲良くしようという思いから気を使ったのですが、これが大問題となりました。

 土曜日にもかかわらず患者さんが10時になってもだれも来院しません。10時過ぎにようやく1人の患者さんが困った様子でクリニックに来院し、駐車場がいっぱいで停められなかったと言うのです。調べてみるとパン屋のお客さんがクリニックの駐車場14台分をすべて占拠していました。パン屋は売り切れ終了というスタイルなので、お客さんは短い営業時間に殺到し、特に土曜日は混雑するようでした。開業当初は土曜日の外来は行っていなかったのですが、途中から隔週の土曜日、今年の四月から毎週土曜日の外来診療を開始しました。四月からの土曜日の外来数が少なかったのは、車が停められないので来たくても来られなかったからなのです。減収もひどいものでした。

 ここでパン屋に、クリニックの駐車場は利用できなくなった旨を掲示いただくようお願いしたのですが、内容はまるでうちのクリニックの駐車場をパン屋のお客さんが利用するのは当然であったかのような文面でした。この問題は損害賠償寸前にまでこじれましたが、第三者に入ってもらい、駐車場にフェンスを立て、その費用の一部をパン屋が負担することで話が落ち着きました。パン屋の責任者は、フェンスの費用を払う際にクリニックに来て、大声で暴言を吐いて帰りました。

 パン屋側はクリニックの駐車場を利用し、商売は繁盛したと思われますが、お礼は一度、パンをたくさんいただいただけでした。

終業後はチェーンをかける
診療の予約制も効果的

 パン屋だけではなく、駐車場を観察してみると、隣のマンションの1階に新たに入った子供用英会話スクールの生徒父兄がお迎えの際に無断でクリニックの駐車場に停めていました。また、近所の人も夜になると無断で駐車場を使用していたのです。近所付き合いより、クリニックの駐車場を患者さんのために確保することが大切です。このような人たちには徹底的に対処しなければならないと決意しました。そこで、クリニックの駐車場の周りを一部フェンスで囲い、車が出入りする部分には大きなプランターを置き、金具をつけてプランターとの間に終業後はチェーンをかけて入れないようにしました。駐車場のプランターは安価なので壊されても気になりません。フェンス工事が終わるまでは、毎日職員に駐車場の車の写真を撮らせ、クリニックの患者数と比較し記録を残しました。写真を撮り出すと、無断駐車は徐々に減少し、最終的にはなくなりました。しかし、プランターが大きく、数名の患者さんから駐車の邪魔になるとクレームがありましたが無断駐車を防ぐため、そのままにしています。

 さらなる解決策として、当クリニックでは診察を予約制にしました。予約制にすれば、少なくとも1時間内の患者数は10名を超えなくなるので、駐車場も混み合いません。患者数は減るかと思われましたが、予約制にして3ヵ月たって患者さんは増えています。

 地域外から引っ越してきて、ぜひご近所の方と仲良くしたいと思うのは当然ですし、努力すべきです。しかし残念ながら気持ちの伝わる人と伝わらない人がいます。土地に対する権利意識や執着心は地方であっても強いように思われ、駐車場や境界線問題に対しては最初から侵害されると思い、厳しい態度で臨んだほうがよいでしょう。

 一度駐車場などを自由に利用させてしまうと、間違った権利意識が芽生え、それを注意すると、余計なトラブルに発展する可能性が高いです。くれぐれも開業時には敷地の境界、駐車場、そして隣人にご注意ください。

※当記事はジャミック・ジャーナル2010年1月号より転載されたものです

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