専門性と連携| 開業 七転び八起き

※「ジャミックジャーナル」は2011年10月号より「ドクターズキャリア マンスリー」にリニューアルされました。

第9回

「専門性と連携」

専門性の生かし方
集患につなげる手法とは?

 開業すると今まで培ってきた専門性は役立つのか、どう生かせばよいのか、専門的な技術をどう集患につなげればよいのかという疑問が起こってくると思います。この専門性と連携について、私の経験を踏まえてお伝えしたいと思います。

 開業する場合、既存の先生との差別化を図り、クリニックとしての特徴を出すためにも、専門性を明らかにすることが結局は集患につながると私は考えています。

  

 近年では患者さんの権利意識も強くなり、知識を蓄えた方も多く、開業医も高い診療レベルを要求されることが多くなっています。そのような背景を考えると、これまでのように一人の患者さんを一人の医師が最後まで診療し続けるのではなく、これからは一人の患者さんを複数の専門性の異なる先生が支えていく時代かもしれません。

 

 実際にいくつかの内科疾患を持ちながら、たとえば消化器疾患は私に、循環器疾患は他院の先生にと使い分けている患者さんが意外と多いので驚きます。こういった診療スタイルはリスクの分散にもなり、開業しても専門性が生かせるのではないかと思います。また、開業医が増加している今日、共存共栄にもなるでしょう。

 私はクリニックの診療では自分の専門分野であっても守備範囲を決め、そこを離れた患者さんは他科の先生や病院に紹介し、すみやかな連携を行うようにしています。

専門医資格は役に立つか?
肝臓専門医で集患に成功

 まず専門医資格は役に立つかどうかについてです。私が勤務医として働いていたころ、客観的に自分の専門性、能力を証明するものは学会の専門医が適当だと思いました。そこで条件を満たす学会の専門医資格は全て取得しました。消化器内科医なので日本内科学会内科認定医、専門医、日本消化器病学会消化器病専門医、日本内視鏡学会内視鏡専門医、日本肝臓学会肝臓専門医、医師会認定産業医、健診センター勤務時代には労働衛生コンサルタント、マンモグラフィー読影医認定資格まで取得しました。これらの資格のなかで実際に開業して役立ち、集患につながったのは肝臓専門医くらいでした。

 近隣のクリニックをリサーチしたところ、消化器病専門医や消化器内視鏡専門医は取得している先生が多く、差別化を図れるとは思えませんでした。逆に、肝臓専門医は希少価値が高そうでした。もともと肝臓専門医は病院勤務に役立つと思い取得したのですが、意外にも開業して役立ったのです。

 クリニックの看板や野立て看板に肝臓専門医と記載したところ、肝機能障害を指摘された患者さんが受診されるようになりました。その際には「看板の肝臓専門医が気になってきました」という声が多く聞かれました。

 また県内で開催される肝疾患の勉強会に出席するうちに大学病院の肝臓専門医の先生と面識ができました。やがて大学病院からC型肝炎のインターフェロン治療の患者さんをご紹介いただくようになり、さらに、近隣の開業医の先生、アルバイトをしている市内の市民病院、さらに他の総合病院からも肝疾患の患者さんをご紹介いただけるようになりました。

 現在、肝臓の特殊治療(インターフェロン治療、抗ウイルス剤、瀉血療法など)は当クリニックの看板事業となっています。その医療も地域中核病院レベルのものを提供しようと努力しているつもりです。

 このように専門医資格が集患につながったのは専門医が少ないことや、開業後に薬害肝炎訴訟の和解や、ウイルス肝炎の医療費助成制度が全国的に行われるようになり、肝臓専門医の位置づけが重要になってきた社会的な背景もあったのだと思います。

専門性を標榜する。
標榜の仕方で集患も変わる

 さて、次に専門性を標榜することはどうでしょうか。開業時の診療科の標榜は自己申告なので、専門でなくても標榜はできます。しかし私は内科と自分の専門分野である消化器科を標榜しました。消化器科はわかりにくかったようで、反響はあまりありませんでした。標榜の仕方は後に変更になり、新たに広告をする際には消化器内科となりましたが、これも患者さんにはピンとこなかったようです。

 そこで、電話帳やタウン誌などの広告に肝臓専門医だけではなく胃カメラ、大腸カメラ、腹部超音波検査など可能な検査を記載してみました。健診などで胃カメラを受けにこられた際に、「大腸内視鏡検査や超音波検査も行っており、待ち時間が少なくて検査を受けられます」とさりげなく宣伝しておきました。すると大腸内視鏡検査を目的に受診されたり、超音波検査を希望されたりする方が増えてきました。

 また、胃カメラを行う先生は多くいても、大腸カメラ、ポリープ切除まで対応している先生が少なく、近隣の総合病院でも検査の予定がいっぱいで予約待ちの状態でした。こちらも当院で行っていることがわかると、連携にもつながるようになりました。

 専門性といえるかどうかわかりませんが、以前健診センター勤務のときに、人間ドック、定期健診、特殊健診も行っていました。そのため開業してからも少人数ではありますが、市民健診以外にも企業の定期健診、企業の人間ドック、個人の人間ドック、定期健診も行い、健診の結果で治療や2次検査が必要になるとそのまま当院で検査や治療をされる方も多くなりました。

 このように開業医が専門的な治療を行うメリットは、大病院ほど待たせず、相談されやすく、すぐに受診いただけるというフットワークの軽さを生かした安心感の提供ではないでしょうか。私は特殊治療を行う患者さんには仕事用の携帯番号を教えており、緊急時に連絡がつくようにしています。

 患者さんだけではなく、病院勤務の専門の先生方とも、症例検討会や画像診断の勉強会などで交流を持つことができ、さらに緊密な病診連携ができるようになったと思っています。

 医師不足といわれる今日、病院で行う治療後の経過観察や定期診察を病診連携を行うことでクリニックと協力し合えば、病院勤務の先生の負担も軽減されます。また専門医同士は患者さんのやり取りが安心してできるでしょう。最近では連携パスなど積極的に取り入れている病院も増えてきています。

 私は専門性というのは、医師として自分が自信を持って行える最高の医療サービスだと考えています。またその稀少価値が高ければ、開業後はクリニックの看板事業になると思います。

 自分の専門性が生かされ患者さんに貢献できれば、診療のモチベーションもあがります。ぜひ開業しても自分の専門性を生かし、個性的で新しく、 ウリのある クリニックを運営していただきたいと思います。

※当記事はジャミック・ジャーナル2009年12月号より転載されたものです

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