困った患者さんの対処法| 開業 七転び八起き

※「ジャミックジャーナル」は2011年10月号より「ドクターズキャリア マンスリー」にリニューアルされました。

第8回

「困った患者さんの対処法」

特別扱いを要求
暴走した場合の対処法

 患者さんはどんな方も等しく大切な存在ですが、なかには非常に問題になる患者さんがいることも事実です。

 今回は私が経験した困った患者さんのタイプと私なりの対処について書いてみたいと思います。

 まずは自分を特別扱いしてほしい患者さんです。デパートの顧客のようにしばらく通えば自分がクリニックに貢献していると思い、飛びこみでの検査、ほかの患者さんを抜かしての診察、検査や治療の拒否などの問題行動を起こします。こういったケースで過剰な要求をしてくる場合は、「院長が許可しない場合はできません」とはっきりと断ることが必要です。クリニックの秩序は院長が守らなければいけません。

 院長の指示に従わないのであれば、他の医療機関に行っていただくようお伝えします。患者さんが納得しなければ、同じことを数回繰り返します。冷静に事務的に行うことが重要です。このような患者さんは要求が通らないとわかると、いつの間にか受診しなくなります。ほかの患者さんの迷惑になるとたしなめることも有効です。

 しかしなかには納得せず、ますます暴走する場合があります。この場合ははっきりと「信頼関係が築けないので、私にはあなたの病気を治す自信がなくなりました。このまま通院していただいてもいい結果は得られないでしょう。あなたに合ったほかの先生をご紹介します」といって深々と頭を下げます。これで去らなかった人は今のところいません。診療拒否だと責められたら、同じセリフを繰り返します。

 一方、保険のしくみや、医師の役割を理解せず、クレームを出す患者さんがいます。たとえばこちらの処方を拒否し、自分で検査や薬を決めて要求してくる患者さんがいます。ある程度はこちらも譲歩しますが、あまりにも強硬な態度をとった場合は毅然とした態度で次のように説明するのがよいでしょう。

「日本で保険診療を行う際には、薬や検査に対しては保険医でなくては指示が出せません。また、私たち保険医は決められたルールに従って診断、治療を行う必要があります。なぜなら査定されて保険診療ができなくなってしまうからです。もしあなたの指示どおりにするならば、保険医の指示ではないですし、保険診療のルールから逸脱しますので、すべて自費診療になりますがそれでもよろしいですか?」

 こうなると反論はできません。普通であればこの時点で要求を通すことを諦めます。患者さんは保険診療の仕組みをよく理解していません。日本の医療費が安いためか、医療費はタダみたいなものだと思っている人も多いのです。保険診療のありがたさ、仕組みについて、この機会に患者さんに理解していただきましょう。

話を聞いてほしい患者さん
料金を支払わない患者さん

 次はとにかくかまってほしい患者さんです。性格がしつこく、話が長い患者さんは、患者さんの多いクリニックでは話を聞いてもらえないので新規開業のクリニックに好んで訪れます。このような患者さんはドクターショッピングをする傾向も強いようです。

 開業当初は患者さんも少なく暇だからよいのですが、徐々に増えてくると要望に応えるのが難しくなってきます。この場合、一日のうちでいちばん暇な時間帯(当クリニックだと午後3時?4時ごろ)に受診するよう促します。患者さんはとにかく話を聞いてほしいので、「この時間帯にくるとゆっくりお話をうかがえます」と言うと必ず指定された時間帯に受診します。

 患者さんの話をよく聞くのも治療の一環ですから、こういう患者さんはなるべく見放さないようにしています。心療内科系の患者さんも、同じ対応をしています。

 また、これはきわめて珍しいと思いますが、冷やかしや悪意を持って受診する患者さんがいます。意図はわかりませんが、近隣のクリニックにかかっている患者さんが偵察目的に受診しました。むこうは自分の主治医がいちばん大切ですから、そのライバルになるこちらの揚げ足を取ろうとしてきます。そのような患者さんはこちらの評判を落とす目的で受診をするので要注意です。今まで数名そのような患者さんがいました。もしあらぬうわさを立てられたとしても、ひとまずは耐えるしかありません。悪い評判を立てられても気にせず通ってくれる患者さんはいます。そのような患者さんを大事にみていれば、必ず立場は逆転します。

 さらに問題なのはお金を払わない患者さんです。診療報酬の計算違いなどで差額が出た場合や、検査などでお金がかかってしまい後日請求となった場合などなかなか診療費を支払わない方もでてきます。

 事務のミスで、自費診療の予防接種を保険で請求したため、後日修正会計が出たことがありました。息子さんが麻疹ワクチンを接種したのですが、請求額が違うのはおかしいといわれ、なかなか支払ってもらえませんでした。再三、電話にて説明してようやく支払ってもらえました。事務の説明では納得されず、院長からの説明を数回要求されました。この件は事務職員の教育にも問題があったので今は徹底するようにしています。

 修正会計がでないのがいちばんですが、どうしても出てしまった場合、なるべく早急にお金を回収するのが大切だと思います。

クレーマー患者との
付き合い方

 最後に今まで私が経験してきたクレーマー対応を紹介したいと思います。

 クレーマーに対してはとにかく一度全部話をさせます。相手の言い分が理不尽だと感じても決して話を遮らず、「そうですか。それは大変でしたね」くらいの相槌で、一度言い分をすべてうかがいます。そのうえで、相手の心情を配慮して話をしていきます。

 まず相手に対して、私は聞く耳をもっていることを示します。すると相手の感情が落ち着いてきます。私はほとんど相手の語尾をおうむ返しのように繰り返します。言い分を冷静に聞いていると要求がわかるので、交渉の落としどころが見えてきます。なかには話を聞いただけで治まるクレーマーもいます。要求は謝罪なのか、それとも接遇改善なのかを見極めましょう。相手の言い分がまとまってきた段階で、交渉を開始します。

 まず、こちらで具体的に相手の話を要約します。相手が訂正したら、逆らわずに言われたとおりに訂正しましょう。要約後、相手に「どうしたらよいでしょうか?」と聞くとたいがいのクレーマーは自分の要求を明らかにします。要求を確認したうえで「こちらも二度とこのようなことがないよう、よりいっそう厳しい態度で臨んでいきたいと思います。本日は配慮が足りず、不愉快な思いをさせてしまいどうも申し訳ありませんでした」と深々と頭を下げます。こちらが間違っていないこともありますが、クレーマーの言い分にも一理あることがあります。

 

 当クリニックではこのようなことが起こった場合、インシデントレポートを作成し、後日、職員会議にて検討するようにしています。

 地方の小都市といっても今はいろいろな患者さんが来院されます。悪質なクレーマーは少ないと思いますが、地域独特の困った患者さんがいます。かかりつけの患者さんに迷惑がかからないよう、困った患者さんの対応などあらかじめ職員と相談して決めておかれるとよいと思います。

※当記事はジャミック・ジャーナル2009年11月号より転載されたものです

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