職員採用の苦労あれこれ| 開業 七転び八起き

※「ジャミックジャーナル」は2011年10月号より「ドクターズキャリア マンスリー」にリニューアルされました。

第4回

「職員採用の苦労あれこれ」

採用した職員が
次々と退職していく

 開業すれば経営者であり管理責任者です。人事労務管理も自分で行わなければなりません。同じ職場で働いていても、雇用する側とされる側という立場の違いがあります。よい職員を選び、積極的に働いていただくことは私にとっては大変難しいことでした。開業後の職員の雇用問題と気をつけなければならない点について、私の経験をもとに書いてみたいと思います。

 職員採用は試行錯誤の連続でした。落下傘開業の場合、職員はすべて現地で採用することになるため、面接時が初対面となります。私の場合、ハローワークや新聞広告などで募集し、医療事務・看護師の面接を行いました。開業コンサル会社所属の社労士立ち会いのもと、看護師は個人面接、医療事務は集団面接を行いました。それぞれにポイントを設け、院長、事務長、社労士で相談し、結果、採用を決定しました。開業当初は看護師正職員2人、医療事務正職員1人、パート1人でした。

 熟考し採用した職員でしたが、開業後半年でパートの医療事務が、1年で正職員の医療事務が、1年半ですべての職員が退職してしまいました。さらに新規に採用した医療事務も半年で退職しました。それぞれの退職理由は、家庭と両立できない、結婚、健康上の理由、待遇への不満などがありました。

 退職はさらに続きました。その後採用した看護師2人もそれぞれ時期をずらして3ヵ月で退職、もう1人採用した看護師は1年で退職しました。年配者に嫌気がさし、次には20代前半の医療事務Aさんを採用しました。結婚しても勤務すると言っていたにもかかわらず、3ヵ月で結婚退職を希望。さらに引継ぎ時に何を吹聴したのか、後任者も入職後1週間で退職しました。Aさん自体も突然来なくなり、それはうちの職場のせいだと言ってAさんの親がすごい剣幕で苦情を言ってきました。モンスターペアレントは職員採用時にも出てくるのです。社労士に仲裁を頼み、Aさんの退職手続きが済みましたが、レセプトの返戻が隠してあり(やり方がわからなかったのか故意かは不明)、この騒動で私の体調が悪くなってしまいました。Aさんと仲のよかった職員は、結局全員短期間で退職しました。

 相次ぐ職員トラブルにすっかり人間不信になり、先輩開業医やバイト先の病院の事務長さんやコンサルタント(会計系)に相談してみました。その結果、なぜトラブルが続いたのかが、徐々にわかってきました。

退職理由は雇われる側と
雇う側双方にある

 まず、トラブルを起こした人に共通点があることに気がついたのです。

 トラブルになる職員は「自分が主役」といったタイプでした。つまり、プライドが高くほどほどに仕事ができます。自己主張も強いので、面接で自分を実際の能力より大きく、よく見せることが上手ですし、はきはきしていて思わず雇いたくなってしまいます。こういう人はクリニックのなかで自分が主役になっていると信じ、そのように行動します。それがトラブルとなり、患者さんからクレームにつながったことも少なくありませんでした。

 私の考えでは、クリニックが舞台であれば、主役は患者さんでしょう。医師やスタッフは裏方だと思っています。このように「自分が主役」と思い込む職員のなかには、自分がいるからクリニックの患者さんが増えていると本気で信じている人もいて、自分が退職すると患者さんは減ると言われたこともありました。しかし、患者さんは増えてきています。

 一方、私の職員に対する態度にも問題があると気づきました。最近は看護師不足でなかなか後任が見つからないので、注意を躊躇することがあったのです。いまどきの職員は、注意すると怒ってすぐに辞めてしまう方もいます。しかし、私のクリニックですから、方針に従っていただくしかありません。それができず退職されても、仕方がないのです。こちらが弱気になり、顔色をうかがったり、方針がぶれたりすれば、職員は思うように働いてはくれません。開業当初に思い描いた信念をゆるぎなく貫く姿勢が大切です。

 今までの職員採用時の傾向や問題点を分析し改善すると同時に、知り合いや前の職場に問い合わせるなど、職員採用時の情報収集を徹底しました。信じられないことですが、履歴書をごまかす人がいます。個人情報の問題もありますが、前の職場に問い合わせれば意外にも勤務態度や退職理由を教えていただけるものです。知り合いが増えるにつれ、情報収集はうまくいくようになりました。

 面接でも今までの経験を生かし、自己主張が強い人より、地道でおとなしそうな人を採用するようにしました。パソコンのスキルも、面接時にポスターをつくらせる、課題を出すなど、実技を取り入れています。

 医療事務に急に辞められて困っていた私に、懇意にしていた看護師さんが友人の医療事務を紹介してくれました。とくに資格はないのですが、実務経験が豊富で仕事も速く、パソコンのスキルも高く申し分ない方でした。今でも月数回、レセプトの忙しいときだけ勤務しています。いちばん苦しいときに助けになり、職員が休みのときも勤務してくれるスーパー臨時職員です。

 これは成功例ですが、無責任な紹介で困ったこともありました。紹介で採用する場合は紹介してくれる方の人柄もよく検討してください。紹介された人であっても面接で問題に気がつけば断るべきです。

 また、すぐに正職員として採用し、後悔することも多かったので、最近はまずパートとして採用し、勤務態度により、パート希望者は時給を上げる、正職員希望者は正職員にするなど、クリニックに対する貢献度に応じた待遇の変化をつけました。先日、半年間様子を見ていた医療事務が非常に優秀だったので、ようやく正職員として採用したところです。

職員が落ち着いた後は、
定着方法を考える

 これまでの失敗を生かし、職員採用を工夫した結果、開業2年目を過ぎてからようやく職員問題は落ち着いてきました。いったん家庭の事情で退職した看護師も戻ってきて勤務しています。現在の職員は看護師正職員1人、パート2人(うち1人は半日)、医療事務正職員1人、パート1人となりました。今までの苦労がうそのように穏やかでよい職場になりました。

 今度はよい職員を定着させなければなりません。看護師、医療事務は家庭を持つ主婦が多く、そのライフスタイルに合わせた勤務を考慮しています。具体的には正職員、パートの組み合わせで勤務設定もゆるやかにし、休みの取りやすい環境をつくっています。幼稚園児のいる主婦はお迎えの時間に合わせた休憩時間のシフトを組んで、残業を減らし、仕事を続けやすいよう配慮しています。

 勤務評価は試用期間終了の3ヵ月後と以後6ヵ月ごとに、職員と院長、事務長で面談を行い、勤務時間や給与、休暇などの条件設定と、その期間の勤務態度の評価を行っています。

 開業して3年たてば職員問題は落ち着くとよく聞きます。この間に院長も管理者として成長しているのでしょう。その地域、クリニックの業務にあった職員の勤務スタイル、管理の仕方があると思います。試行錯誤を経て、落ち着いた私のクリニックの事例は、他のクリニックにも当てはまるところがあるかもしれません。

※当記事はジャミック・ジャーナル2009年7月号より転載されたものです

非公開求人1万件以上。

医師転職専門の
キャリアアドバイザーが
施設との条件交渉を
代行します。

転職のご相談はこちら

サイトは個人情報保護のためSSL暗号化通信を採用しています。お客様からの情報送信は暗号により保護されています。