すぐに使える医療英会話|リクルートドクターズキャリア すぐに使える医療英会話|リクルートドクターズキャリア

英語との付き合い方

前々誌「JAMIC JOURNAL」の時代から継続させて頂いたこの連載にお付き合い頂き、誠にありがとうございます。
このコラムでは毎月様々な医学英語の表現をご紹介させて頂きましたが、連載最終回の今回は医師として英語にどのように付き合っていったら良いか、私なりの考えをお伝えしたいと思います。

「英語を学ぼう」とされる方の多くは学習書を購入したり、動画を視聴したりと「インプット」を増やすことをまず考えます。つまり「英語ができるようになってからやりたいことをやる」という発想です。しかし外国語を習得するためには膨大な時間が必要ですので、臨床や研究を行いながら日々英語学習のモチベーションを継続するのは難しいと言えます。

私のこれまでの医学英語教育の経験上、飛躍的に英語力を向上させてきた学生さんは皆、これとは逆の発想で英語に付き合っています。つまり「英語ができるようになったらやってみたいことをまずやってみる」と発想して、「アウトプット」の機会を先に計画するのです。具体的には「毎日SNSで自分の日記を公開する」「学会のワークショップのタスクフォースに応募する」「外国人向けの医療情報サイトを英語で開設する」などです。

このようにアウトプットの機会を計画することで、「英語力を高めないといけない状態」を作り、結果として英語のインプットを増やさざるを得ない状況に追い込むのです。もちろん最初は英語力が全く追いつきません。たくさんの失敗もすることになります。しかしその失敗こそがその学習者にとって「最高のインプット」となるのです。語学学習ではよく “Fake it until you make it.” と言われます。これはつまり「できるようになるまで(until you make it)あたかもできるように演じろ(Fake it)」ということです。語学学習では失敗こそが最高のインプットとなります。最初は確かにハッタリなのですが、理想とする自分を演じ続けることで、結果として理想の自分が現実化するのです。

もちろん毎日継続的に英語で日記を公開したり、英語で医療情報を定期的に解説するのは負担が大きいかもしれません。そこで個人的にお勧めするのが「年に1度は今の自分の英語力では手に負えないアウトプットの機会を計画する」というものです。具体的には「年に1度は国際学会で口頭発表をする」「年に1度は英語論文を投稿する」といった学術的な内容や、「年に1度は地域の外国人コミュニティに向けて英語で市民公開講座をする」といった診療に関係する内容など、自分にとって「英語ができるようになったらやってみたいこと」を計画するのです。年に1度程度ならそれに向けてメリハリのついた努力を継続することも可能になると思います。

このアウトプットの機会を計画したら、それに向けて英語のインプットを増やす必要も出てきます。人間は生来「怠け者」ですから、日々の中で英語に触れざるを得ない環境作りも大切です。我々が現在、最も頻回に使用する機器はスマートフォンなので、個人で使用するスマートフォンやPCなどの言語設定は全て英語にすることで、毎日嫌でも英語に触れる機会を増やすことができます。

学習者個人によって状況は異なりますが、語学学習において優先すべきはやはり「聴く」能力です。日本の一般的な英語教育を受けてきた大多数の医師にとって、英語を聴いて理解できる能力は極めて優先順位の高い学習項目と言えます。幸いこの時代は多様な動画を視聴できる環境が整っています。自分にとって興味のある内容の短い動画であれば、苦労なく視聴を継続することが可能です。日々一定の時間、英語を聴くことを習慣化することをお薦めします。

医師にとって英語は「世界の共通語」であると頭ではわかっていても、日本にいるとなかなかそれを実感することは少ないと思います。しかし日本のように「医学を母国語だけで学ぶ」という国は世界では少数派です。英語を母国語としない他の国の医師たちとの交流においてもやはり英語は重要です。

そうは言っても人工知能の発達に伴い、自動翻訳の技術も飛躍的に高まっています。英語を学ばなくても苦労しないという時代もすぐそこに来ていると言えます。しかし私は「英語を学ばなくてもいい」時代にこそ「やっぱり自分で英語を話したい」という欲求が強くなると思っています。「留学の価値は留学を経験した人間にしかわからない」と言いますが、これと同じように「語学学習の価値は語学学習を経験した人間にしかわからない」ものなのかもしれません。

2007年1月号の連載開始から14年間、様々なトピックを通して英語学習の楽しさをお伝えしたいと思い連載を続けさせて頂きました。読者の皆さんが「外国語を学ぶことは楽しいな」と感じる一助となったのであれば幸いです。

Dr. 押味の医学英語カフェ」もウェブで継続中ですので、医学英語に興味のある方は引き続き下記のサイトで「『コーヒー1杯分』の時間で楽しむ医学英語よもやま話」をお楽しみください。

「コーヒー1杯分」の時間で楽しむ医学英語よもやま話
https://www.icrip.jp/eigocafe/