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医療通訳者との協働

日本国内でも英語で診療する機会が増えてきましたが、実際には英語以外の言語を母国語とする外国人患者さんの方が多数派です。
そこで今月は医師として知っておきたい「医療通訳者との協働」についてご紹介します。

「医療通訳」は英語で何と言う?

話し言葉を変換する「通訳」は英語では interpreting と言います。これに対して書き言葉を変換する「翻訳」は translation と区別されます。ただ一般的にはこれらの表現は曖昧に使われ、英語圏でも interpreter通訳者」のことを translator 「翻訳者」と呼ぶ方がいらっしゃいます。「翻訳」の translation が「変換する」というイメージの表現であるのに対し、「通訳」の interpreting は元々「解釈」というイメージの表現で、「話し手の意図を解釈し、聞き手にわかるように再表現する」という意味で使われます。

医療通訳」は「医療における異言語間の通訳」で、英語では medical interpreting もしくは healthcare interpreting と呼ばれます。前者には「医学的な場面での通訳」というイメージがあるのに対し、後者には「医療全般における通訳」というイメージがあります。

「外国人患者」は英語で何と言う?

この医療通訳は多文化共生を掲げるオーストラリアなどの移民国家においては地域コミュニティにおける公的サービスの通訳である「コミュニティ通訳community interpreting の一部として発展してきました。この community interpretingには医療通訳の他にも「司法・法廷通訳legal/court interpreting教育通訳education interpreting行政通訳social work interpreting などがあります。

日本では「日本人以外の人」という意味で「外国人」という表現をよく使いますが、「外国人患者」を英語で表現する際に foreign patients とすると「余所者の患者」というイメージになってしまうので、 international patients という表現をお奨めします。また international patients であっても日本語が堪能な方もいらっしゃるので、「日本語で意図した通りにコミュニケーションが取れない患者」と表現する際には patients with limited Japanese proficiency という表現を使うといいでしょう。

医療通訳者との協働での注意点

医療通訳者には文に忠実で正確な通訳をする役割に加え、通訳した内容が正しく理解されたかを確認したり、文化の違いを確認して相互理解のきっかけを作る役割も求められています。ですから患者さんの文化や母国の医療制度などに関して質問がある場合には医療通訳者に尋ねるといいでしょう。

医療通訳に限らず、通訳は複数の言語が話せれば誰でもできるというものではありません。特に医療通訳には専門用語や医療知識なども求められるので、「専門的なトレーニングを受けていない医療通訳者ad hoc healthcare interpreters に通訳を依頼することは避けてください。

特に患者さんの家族や知人に通訳を依頼することは医療過誤に繋がるだけでなく、患者さんの権利も損なうことに繋がるので緊急時を除いて避けることが重要です。

また医療通訳では「逐次(ちくじ)通訳consecutive interpreting という通訳様式を使います。これは「話者が話し終えてから通訳する」という様式ですので、時間的に余裕を持つことが必要です。医療通訳者には患者さんの斜め後に位置してもらい、医療者は通訳者にではなく、患者さんに直接日本語で話します。医療通訳者は話し手が話した通りに一人称を使って通訳するので、医療者は短く区切り、やさしい日本語を使って話しましょう。話す内容も1度に1つとし、通訳するのが困難な慣用句・略語・専門用語などは使わないようにしましょう。

患者さんが正しく理解したかを確認するために、患者さんに伝えたことを反復してもらったり、必要な場合には診察後に医療通訳者と簡単なブリーフィングを行うことも重要です。また医療通訳者は書類を翻訳するためのトレーニングを受けているわけではないので、同意書などの書類を説明する際には医療者自身が口頭で説明し、それを医療通訳者に通訳してもらうようにしましょう。

私自身も国際医療福祉大学大学院「医療通訳・国際医療マネジメント分野」の分野責任者として、これまでに多くの医療通訳者の養成に携わってきました。

2020年には「国際臨床医学会(ICM)認定『医療通訳士®』認定制度」が始まり、適切な知識と技能を有する医療通訳者の認定が行われています。また一般社団法人全国医療通訳者協会(NAMI)は地域の実情に沿った医療通訳システム構築に向けてのマニュアルも開発しています。

これを機会に読者の皆様の医療施設でも、適切な知識と技能を持った医療通訳者と協働して、言葉や文化の壁による健康格差が生じない取り組みが行われることを願っています。