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腹痛に関する英語表現

在留外国人や訪日外国人が増加する中、英語での診察を経験されたことのある読者の方も増えている事と思います。
特に「腹痛」は訪日外国人の主訴として頻度も高く、実際に診察を経験された読者の方も多いかと思います。
そこで今月はこの「腹痛」に関して実際の診察で役に立つ英語表現をご紹介します。

“colicky pain” ってどんな痛み?

「腹痛」は医学的には abdominal painという英語で表現されますが、一般の方には stomachachebellyache と表現されます。また “My tummy hurts” のように動詞を使って表現される場合もあります。

腹痛に関する現病歴では region 「部位」が診断において特に重要となります。その際には “Could you show me where it hurts?” や “Could you point with your finger to the location of the pain?” のように、患者さんに痛む部位を指で示してもらうようにしましょう。

部位を記載する際によく使われるのが「4分割された部位」を意味する quadrant です。「右下腹部」はこの quadrant を使って right lower quadrant (RLQ) のように表記されますが、略語のRLQ を口頭で読み上げる際にはほぼ必ず “right lower quadrant” のようにスペルアウトするのでご注意を。「心窩部」を意味する epigastric region や「臍(周囲)部」を意味する periumbilical region はよく知られていますが、「右・左上腹部」 right/left upper quadrant (RUQ) と重なる「右・左季肋部」を意味する right/left hypochondrium という表現もよく使われるので覚えておきましょう。また「脇腹」を意味する一般英語の flank なども患者さんとの会話ではよく使われる名詞です。

痛みの性状を尋ねたい場合には “What type of pain is it?” や “What is the pain like?” のように尋ねます。腹痛の性状の表現として colicky pain というものもありますが、これは colon 「結腸」に由来する表現で、腸の peristalsis 「蠕動運動」によって変化する痛み、つまり a pain that comes in waves というイメージになります。

“water brash” ってどんな症状?

腹痛の「随伴症状」 associated symptoms として重要なのが「下痢」 diarrhea と「嘔吐」 vomiting ですが、この2つは対にして diarrhea & vomiting という順番で表現されることが一般的で、その略語の D&V 「ディー アンド ヴィー」は英語圏の臨床医には幅広く使われる表現です。

日本の若者は「吐く」ことを「リバースする」のように表現しますが、reverseはもちろん「吐く」という意味にはなりません。「吐く」の動詞としては vomit が最も一般的ですが、米国では throw up が、英国では be sick という表現も使われます。また日本の医師には「逆流症・閉鎖不全症」として知られている regurgitation ですが、これは「嘔吐」という意味で使われることもあり、動詞の regurgitate は「吐く」という意味にもなりますのでご注意を。

吐瀉物・吐いたもの」としては vomitus という表現があり、 “How about the color and smell of the vomitus?” のように使われます。

胸焼け」には pyrosis という医学英語がありますが、実際に使われることは非常に稀で、医師であっても一般英語の heartburn を使うことが普通です。この「胸焼け」を引き起こす「逆流性食道炎」 gastroesophageal reflux disease (GERD) では、逆流してきた胃酸が口の中で唾液と混ざり、「口の中が唾液や胃酸で溢れるような状態」になりますが、このことを water brashacid brash のように表現します。この brash は「溢れ出るもの」というイメージの名詞で、「ブラシ」の brush とは全く異なるものですので気をつけてくださいね。

“keyhole operation” ってどんな手術?

腹痛の「手術歴」past surgical history を尋ねる際、英語圏の患者さんは “I had a keyhole operation to have my gallbladder taken.” のような表現を使う場合があります。皆さんご想像の通り、この keyhole operation 「鍵穴を通して行う手術」は laparoscopic operation腹腔鏡手術」を意味します。

腹痛では産婦人科系の質問も重要になりますが、その際に絶対に知っておかなければならない略語が OCPHRTです。前者は oral contraceptive pill、そして後者は hormone replacement therapy の略語となり、英語圏では一般の方でも当たり前に使う略語となっています。

最後に日本が誇る消化器内視鏡の表現を見ていきましょう。日本の医療現場では慣例的に「上部消化管内視鏡」を gastrofiberscopy (GF) と、そして「下部消化管内視鏡」を colonofiberscopy (CF) と呼んできましたが、読者の多くの方がご存知の通り、これらは英語圏では全く使われない和製英語です。前者には upper GI endoscopyesophagogastroduodenoscopy の略語である EGD という表現が、そして後者には colonoscopy という表現が使われています。また上部と下部の消化管内視鏡を両方とも行う場合には “top and tail endoscopy” のような独特な表現も使われます。患者さんに使うことはあまりお勧めしませんが、口頭での症例報告などで使う際にはとても自然な英語表現ですので、機会があれば是非使ってみてくださいね。