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腹部診察に関する英語表現

日本の医学教育では腹部診察を行う際に、「侵襲が少ない順番」として「視診」「聴診」「打診」「触診」の順に行うように指導しますが、英語圏では腹部診察に限らず一律に inspection「視診」、palpation「触診」、percussion「打診」、auscultation「聴診」の順で行うように指導します。
このように日本と英語圏では様々な違いがあるのですが、日本の腹部診察で当たり前に使われている英語表現が英語圏では通じない場合もあります。
そこで今月はこの腹部診察で使う英語表現をご紹介します。

では下記の兆候を表す英語と、それぞれの兆候を探す際に患者さんにどのように英語で指示を与えるかを考えてみてください。

1. 眼球結膜黄染
2. 頚部リンパ節腫脹
3. 羽ばたき振戦
4. クモ状血管腫
5. 筋性防御
6. (腸蠕動音における)金属音

いかがでしょうか?それぞれの兆候の英語表現は普段の診療の中でも使っているものではないでしょうか?では一つずつ見ていきましょう。

1.conjunctival icterus:
“I’m going to pull down your lower eyelids.
Please look up for me.”

英語圏でabdominal exam と言った場合、それは「腹部だけの診察」とはなりません。関連する眼や手の兆候を探す診察全てが abdominal exam となります。日本では「眼球結膜黄染」に様々な表現が使われていますが、英語圏では conjunctival icterus という表現がよく使われます。また「眼瞼結膜蒼白」は conjunctival pallor となるので、一緒に覚えておきましょう。

2.cervical lymphadenopathy:
“I’m going to examine the glands in your neck.”

腹部臓器の悪性腫瘍の兆候である Troisier’s sign などを探すための診察ですが、このようにリンパ節などをしっかりと触診する際には to examine という動詞を使いましょう。「リンパ節腫脹」も英語では lymphadenopathy と一語で表現するのが一般的です。

3.asterixis:
“Please extend your arms and fingers and hold them.”

日本でよく使われる flapping tremor も英語圏で使われますが、asterixisの方がよく使われます。手首と指を伸展している際に筋収縮がなくなって現れる事から negative myoclonus とも表現されます。

4.spider nevus/nevi:
“I’m going to take a look at your chest and belly.”

日本でよく使われる spider angioma も使われますが、英語圏の臨床医はこのspider nevus(単数形)nevi(複数形)をよく使います。前者は「ニーヴァス」、後者は「ニーヴァイ」のような発音になります。

5.abdominal guarding:
“I’m going to press your tummy/belly/abdomen.”

日本で度々目にする muscular defenseは英語圏では通用しない表現です。正しくは abdominal guarding となるのでご注意を。また腹部の触診には to press という動詞が最も適切でしょう。

6.high-pitched tinkling bowel sounds:
“I’m going to listen to your tummy/belly/abdomen.”

「機械性イレウス」の兆候である金属音ですが、まずは「イレウス」の英語を確認しておきましょう。日本では「イレウス = 腸閉塞」として、「機械性イレウス」や「麻痺性イレウス」のような表現を使いますが、英語圏では「腸閉塞 = bowel obstruction」となり、「機械性イレウス = mechanical bowel obstruction」、「麻痺性イレウス = ileus/paralytic bowel obstruction/pseudo-obstruction」と表現します。つまり ileus(「イィリァス」のように発音) は日本で言うところの「麻痺性イレウス」になってしまうので注意してください。また「金属音」には、日本でよく見る mechanical sounds よりも実際の腸蠕動音の擬音語となる tinkling sounds がよく使われます。