すぐに使える医療英会話|リクルートドクターズキャリア すぐに使える医療英会話|リクルートドクターズキャリア

腹痛の随伴症状に関する英語表現

主訴として頻度の高い「腹痛」の病歴聴取では、腹痛以外の「随伴症状」 associated symptoms の表現を知っておくことが求められます。「嚥下困難」や「脂肪便」といった随伴症状の英語表現を専門用語では知っていても、それらを患者さんにもわかるような簡単な英語表現で言い換えたり、ましてやその有無を患者さんに質問するとなると難しいと感じる方も多いのではないでしょうか。そこで今月は腹痛の随伴症状に関して、「患者さんでもわかる簡単な表現」と「患者さんへの質問表現」に分けて、実用的な英語表現をご紹介します。

では下記の症状に関して、それぞれ「患者さんでもわかる簡単な表現」と「患者さんへの質問表現」を考えてみてください。

  1. 1. dysphagia
  2. 2. dyspepsia
  3. 3. halitosis
  4. 4. hypersalivation
  5. 5. steatorrhea

1.difficulty swallowing: “ Do you find it difficult to swallow food?”

dysphagia の dys- は「 困難」、そして -phagia は「飲み込む」という意味ですので、dysphagia で「嚥下困難」という意味になります。よく似たものとして odynophagia というものがあります。odyno- が「痛み」を意味しますので、odynophagia で「嚥下痛」という意味になり、簡単な英語で言い換えるならば pain on swallowing、そして質問表現としては “Do you have any pain when you swallow?” となります。dysuria「 排尿困難」が「排尿時痛」という意味で使われるのと同様に、 dysphagia も odynophagiaも臨床的にはほぼ同義として使われています。

2.indigestion/upsets to mach:“Do you have indigestion?” “Do you have an upset stomach?”

「消化不良」を意味する dyspepsia は一般の人には馴染みのない医学用語ですが、indigestion や upset stomach は日本語の「胃もたれ」に相当する一般用語です。水酸化マグネシウムや水酸化アルミニウムに代表される「制酸剤」を意味する antacid という表現も、問診の際にはよく使われる一般用語ですので覚えておきましょう。また英語の慣用句として to have butterflies in the stomach という表現がありますが、これは「蝶々が胃の中を飛び回る」様子から「緊張して落ち着かない」という意味になります。

3.bad breath: “ Have you noticed any change in the odor of your breath?”

halitosis は直訳すると「息の病気」といった意味になりますが、一般的には bad breath として知られています。患者さんにその有無を尋ねる場合、 “Do you have bad breath?” という表現ではいささか失礼です。「息」や「排便習慣」、「月経」など、通常認められるものにおいて異常があるかどうかを尋ねる場合には、 “Have you noticed any change in...?” という質問表現が有用です。また「におい」に対してsmell という単語を思いつかれる方も多いと思いますが、 smell にはどちらかというとネガティブなイメージがありますので、中立的な odor という単語を使うようにしましょう。ちなみに体臭には body odorを略したB.O. という表現があり、一般の方にもよく使われています。

4.water brash: “ Have you noticed that you’ve been producing more saliva than usual recently?”

「食道からの液体の逆流で口の中が唾液で一杯になる」hypersalivation は直訳すると「過流涎」となりますが、一般的には口の中に水が溢れるというイメージで water brash として呼ばれています。この hypersalivation は臨床的には逆流性食道炎gastroesophageal reflux disease (GERD) に伴う heartburn「 胸焼け」と同義で使われています。余談ですが、英国では逆流性食道炎の略語はGERDではなく、GORDとなります。これは英国ではesophageal のスペルがoesophageal になるからです。

5.fatty stool/fat in the stool: “ Have you noticed any change in the color of your stool?”

steato- は「脂肪」、-rrhea は「流れる」というイメージの表現です。後者は他にも diarrhea「 下痢」やrhinorrhea「 鼻水」のように使われています。「脂肪便」である steatorrhea の有無を尋ねる場合、例文のように便の色の変化を尋ねるといいでしょう。これは hematochezia「 血便」や melena「黒色便」の有無を尋ねる際にも有用な質問表現です。