主訴として頻度の高い「頭痛」には、病歴聴取で必須となるたくさんの「随伴症状」 associated symptomsがあります。「眼内閃光」や「光過敏」という随伴症状を英語圏で通用する正しい専門用語で記載することも難しいのですが、その有無を患者さんに質問するとなると、なかなか気の利いた英語表現を思いつけないものです。そこで今月は「カルテに表記するための専門用語」と「患者さんへの質問表現」に分けて、頭痛の随伴症状に関する英語表現をご紹介します。
では下記の症状/徴候に関して、それぞれ「カルテに表記するための専門用語」と「患者さんへの質問表現」を考えてみてください。
6は身体診察で見つかる「徴候」とも言えますが、「症状」として病歴聴取でその有無を尋ねることもあります。では順番にご紹介しましょう。
「片頭痛」 migraineは「片側の拍動痛」というのが特徴的です。専門用語では「片側」はunilateral、「両側」が bilateral となります。「拍動痛」は専門用語としてはpulsating painと表現し、患者さんに対しては “throbbing pain” や “pounding pain” のように表現します。随伴症状としての「眼内閃光」 phosphine ですが、患者さんに質問する際にはまず “Have you noticed any change in your visionbefore the headaches?” という開放型の質問をすると、より答えやすい自然な表現になるでしょう。
「輝いて見える盲点」という意味の scintillating scotoma の有無を患者さんに質問する場合、まずは先述の “Have you noticed any change in your vision before the headaches?” という開放型の質問を使いましょう。そこで患者さんが何か症状がありそうな表情をしたら“Do you see any flickering lights?” や “Do you have blind spots in the central or peripheral vision?” のように閉鎖型の質問を続けます。
「光過敏」のphotophobiaは有名ですが、「音過敏」のphonophobia(sonophobiaとも表現されます)や「臭過敏」のosmophobiaは日本人医師にはあまり知られていません。「過敏」という表現から sensitiveという表現を思いつく方も多いと思いますが、例文のように discomfortという表現の方が自然です。また「恐怖症」を意味する phobia には医学的な「恐怖症」として使われる他に、 xenophobia 「外国人嫌い」のように「嫌悪」や「苦手」という意味で使われるものも存在します。
dysesthesiaは「不快感を伴う感覚異常」 で、そしてparesthesiaは「単なる感覚異常」というイメージで使われます。患者さんに使う表現として to feel pins and needlesは「しびれる」という意味の口語表現を覚えておきましょう。また主語を変えた “Are your hands are tingling?”という表現も同時に覚えておきましょう。
専門用語では「同側」は ipsilateral、「反対側」は contralateral となります。「流涙」としては lacrimation の他にも、「目から溢れるほど涙が流れる」という意味の epiphora があります。「鼻漏(鼻汁)」の専門用語は rhinorrheaですが、一般的には runny noseとなります。
「眼瞼下垂」のptosisはpを発音しないのでご注意を。このような「徴候」を病歴で尋ねる場合、 “Are your upper eyelids drooping?” と聞いても患者さんに自覚はありませんので、答えに窮してしまいます。例文のように「周囲の方から顔の表情に変化があったと言われましたか?」と尋ねるといいでしょう。同じような表現が「仮面様顔貌」hypomimia(masked faceは専門用語ではありません!)を尋ねる際にも有用ですので覚えておきましょう。