「新型インフルエンザ」の流行に伴い、読者の先生方も今後、海外からの渡航者に対して「呼吸器」に関する質問をする機会が増えることでしょう。
しかし「咳」coughや「痰」sputum/phlegmといった単語はご存じでも、会話となると自信のない方も多いのではないでしょうか。
そこで今月は、咳と痰に関する口語表現をいくつかご紹介します。
次の文章の意味を、下線部の表現に注意して考えてください。
「咳き込む」「ひどい咳をする」にはいろいろな表現があります。to have a coughing spellは「咳発作をする」というニュアンスですし、例文のto cough one’s head off「頭が取れそうなくらい咳き込む」のように比喩的に表現する場合もあります。
今年話題となった「新型インフルエンザ」は、英語圏では「豚インフルエンザ」を表すswine fluもしくはH1N1が一般的です。日本語に引きずられてnew influenzaと言っても、話題の「新型インフルエンザ」の意味にはならないので気をつけてくださいね。
to hackは「ひどい咳をする」という意味の表現ですが、これには少し「汚い・乱暴」といったイメージがあるので、咳をしている本人に向かっては使えない表現です。たとえば電車に乗っていて、後ろにいる人が周囲をまったく気にせず咳をしている場合に、電車から降りた後で“He was really hacking.”というように使います。また例文にあるto cough upはとてもよく使う表現で、「痰が出ますか?」は“Do you have phlegm?”ではなく“Do you cough up phlegm?”となるので注意してください。
「胸部絞扼感(chest tightness)」にもいろいろな表現があります。It feels like that someone is squeezing my chest.のように冠動脈疾患を強く疑わせる表現もありますが、例文のような表現は医学的にも、また恋愛などの感情で「胸が苦しい」といった状況でも使われます。微妙なニュアンスを使い分けてくださいね。
あまり多くはありませんが、肺(lung)に関するイディオムの一つです。at the top of one’s lungsで「息・声の限りで」という意味になります。lungは左右に一つずつありますから、一般に「肺」という場合にはlungsと複数形になります。kidneysやhandsなども同様ですので、意識するようにしてくださいね。
dry coughやproductive coughはカルテなどでもおなじみの表現ですので問題ないと思いますが、lung cookiesとは何なのでしょう。これは「ベットリとした痰」「固形に近い状態の痰」といったイメージの表現です。少しユーモアを含んだ表現で普遍性が高いとは言えませんが、頭の隅に入れておいてください。
例文のようにto cough upと一緒に使われれば「ベットリとした痰」の意味になりますが、gunk自体は単に「ベトベトした汚いもの」という意味です。医師が使う表現ではありませんが、患者さんが使った場合にはわかるように準備しておきましょう。