日本語の「コメディカル」や「救急救命士」などを英訳する際に、日本で使われている表現がそのままでは使えなかった、という経験はありませんか。
医療専門職の名称を英訳するときには、和製英語として普及している表現に注意するだけでなく、日本と英語圏での医療制度に関する知識も必要です。
そこで今月から2回に分けて、「医療職」の英語表現を紹介いたします。
次の3つの文を下線部に注意して英訳してください。
簡単そうで意外な落とし穴があります。見ていきましょう。
「常勤医」と「非常勤医」の表現に、イメージしやすい “Full-time doctor”と“Part-time doctor”は使いません。特に“part-time doctor”では、正式な免許を持っていない印象を与えます。英語では「非常勤医≒常勤医の代理」と見る考えが一般的で、「常勤医師」は“Permanent”や“Regular doctor”と、「代理医師」は“Locum doctor”または単に“Locum”と呼ばれています。この“Locum”は医師に限らず、他の医療職でも「代理」としても使われることがあります。
アメリカでは外科医であってもDr.Tanakaとなりますが、イギリスやオーストラリアなどのイギリス連邦ではMr.Tanakaというように、“Mr.”が外科医の敬称となります。つまりイギリス連邦での“Dr.”は、外科医以外の医師の敬称となるのです。イギリスの外科医を「Mr.だから医師じゃないんだな」などと勘違いしないよう気をつけてください。
「(正)看護師」には“Registered Nurse(RN)”という統一名称がありますが、「准看護師」は国によって名称が異なります。アメリカでは“Licensed Practical Nurse(LPN)”または“Licensed Vocational Nurse(LVN)”ですが、オーストラリアでは“Enrolled Nurse(EN)”と呼ばれています。イギリスでもかつては“State Enrolled Nurse(SEN)”として存在していましたが、今ではその養成が廃止されています。
日本では「医師、歯科医師、そして薬剤師以外の医療者」のことを「コメディカル」“co-medical”と表現します。しかし、英語では、例文のように“allied health professionals(これには医師・看護師は含まれません)”と呼ばれるか、医師・看護師を含み“health professions”もしくは“healthcare professionals”と総称されるのが一般的です。
定訳ですが、このままではなかなか理解されないでしょう。アメリカではemergency medical technician(EMT)と呼ばれるものがこれに近い医療職に当たります。EMTはさらにBasic(基礎)、Intermediate(中級)とParamedic(高等)とに区分され、日本の救急救命士よりも広範な役割が与えられています。特にEMT-Paramedicは単にparamedicとも呼ばれ、他のEMTとは区別して使われる傾向があります。このparamedicと誤解されやすいので、「コメディカル」という意味ではparamedicalを使わないほうが無難でしょう。