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注意が必要な慣用表現 Part1

「使われている単語は知っていても、文章全体の意味となるとわからない……」。英字新聞を読んだり英語の映画を観たりしているときに、そう感じる先生も多いはず。また文章全体の意味を理解したつもりでも、じつは正しく理解していないこともよくあることです。
そこで今月は、一見簡単そうに見えても注意が必要な、そんな身体に関する慣用表現を紹介いたします。

“to pull one's leg”は「足を引っ張る」?

ではまず、下線部に注意して、3つの英語を和訳してください。

  • You are encouraged to walk around the house.
  • You must be pulling my leg!
  • Don't let me twist your arm.

いかがでしたか?

「できるだけ家の中を歩くようにしてください」

“around”にひきずられて「家の周りを歩く」と訳したくなりますが、この場合の“around”は、“walk around”「歩き回る」として、walkとセットになっています。したがって、「家の中を歩き回る」が正しい訳になります。英語力の高い方でも間違えて使うことが多い表現ですので、ぜひ気をつけてくださいね。

「からかっているんでしょう?」

「足を引っ張る」と直訳すると、誤訳になってしまいます。“to pull one's leg”(legは複数形ではなく単数形)は、「冗談を信じさせる」、つまり「からかう」という意味になるからです。語源には諸説ありますが、「足を引っかける」=「悪ふざけする」から来ているというのが有力です。ちなみに、「足を引っ張るなよ」は、“Don't drag me down.”となります。

「そこまで言わすなよ」

“to pull one's leg”が日本語の発想から大きく離れているのに対し、この表現は日本語でも同じイメージでしょう。直訳して考えると「私にあなたの腕をひねらせるなよ」となるので、そこから考えても和訳できるでしょう。例文の他にも “If you twist my arm,~”「どうしてもとおっしゃるなら……」のようにも使えますので、これも覚えてくださいね。

「耳の後ろが濡れている」のは誰?

さらに、次の3つの英語を下線部に注意して和訳してください。

  • The resident is still wet behind the ears.
  • The patient was out cold on the floor.
  • There goes my diet!

今度はどうでしたか? では見ていきましょう。

「あのレジデントはまだまだ経験が足りないね」

「耳の後ろが濡れている」とは、「生まれたばかりの子どもの身体で最後に乾くところが耳の後ろ」という通説から生まれた表現です。そこから「耳の後ろが濡れている」=「生まれたばかり」=「経験が足りない」というイメージになるのです。これがわかると“dry behind the ear”という表現が「経験のある/一人前の」という意味になることも理解できるでしょう。

「その患者さんが床の上で気を失っていたんです」

ここではoutとcoldにそれぞれイメージがあると考えたほうがいいでしょう。つまり、「意識の外」(=out)にあり、「身体が冷たい」(=cold)状態になっているのです。このように英語では意識を失っている状態に「冷たい」というイメージがあるので、患者さんを鎮静させる時には“to snow”という動詞も使われます。あまり感心できる表現とはいえませんが、“We need to snow the patient.”「あの患者さんには鎮静が必要だ」といった表現も実際の医療現場では使われています。

「ダイエットが台無しだ!」

それまで一生懸命食事制限をしていた患者さんが、ある日突然、高カロリーの食事をしてしまったときなどに思わず発する言葉です。非常に簡単な表現ですが、日本人の医療者に通じていないことが多い表現でもあります。くれぐれも「食事に行く」などとトンチンカンな理解をしないように気をつけてくださいね。