落下傘開業はつらいよ| 開業 七転び八起き

※「ジャミックジャーナル」は2011年10月号より「ドクターズキャリア マンスリー」にリニューアルされました。

第2回

「落下傘開業はつらいよ」

落下傘開業は
思った以上に大変です

 継承開業や、近隣の医療機関から患者さんを連れての開業と、落下傘開業が大きく異なるのは、認知度の低さと病診連携の弱さだと思います。

 認知度の低さは、直接収入に響きます。当然ですが、この地域で私のことはほとんど知られていません。地域の人にしてみれば、東京から来た、何が専門かよくわからない医師に思われていたでしょう。

 口コミで患者さんが増えるのには、長い時間がかかります。この認知度をなるべく早く上げていくことが最初の大きな課題でした。

 増患の鍵となるのは新規に来院される患者さんです。

 開業当初は患者さんが少なく時間的に余裕があったので、ていねいに診察・検査を行い、患者さんの話をよく聞くようにしました。この地域にはまだ診察態度の尊大な医師もいて、私は謙虚だと思われたようです。それが奏功したのか、とても親身になって協力してくださる患者さんがでてきました。 その方々は、都心部から地方都市に嫁ぎ、ローカルルールでご苦労された奥様たちでした。

「知らない土地に飛びこんで開業するとは度胸がいい」と感嘆され、大変そうだと心配して、この地域でのローカルルールや、独特の価値観などアドバイスもくださいました。さらに新規の患者さんまで連れてきて、認知度アップに貢献してくださいました。

進まない病診連携
待つよりも、行ってみる

 病診連携については、まずは市内の総合病院の連携室にお願いにいきました。しかし、新参者の私にはなかなか患者さんを紹介していただけず、病診連携はうまく進みませんでした。

 運転資金も少なくなり、土日の当直のアルバイトを始めました。最初は東京まで通っていたのですが、移動が大変なこともあり、自宅近くでのアルバイトに変更しました。

 しばらくして市民病院から「肝臓の先生が診療できなくなるので、外来診療を担当してもらえないか」と、打診され、思い切って市民病院の外来に行きました。当初、外来患者さんは少なかったのですが、内科医師が数名退職し、忙しくなりました。

 外来を担当したことで患者さんに顔を覚えていただき、地域住民からの信頼感、安心感が高まったことが、クリニックの増患につながりました。さらに、「病院は待ち時間が長くていやだ」、という患者さんが、直接私のクリニックに来られるようになり、さらに患者さんは増えました。市民病院との顔の見える病診連携もスムーズになったのは、外来を担当した成果でしょう。

 また、市内に大学の後輩が院長を務める個人病院があり、そこでも当直と月1回の土曜日の外来と検査を担当し始めました。ここからも大腸内視鏡検査の患者さんを紹介していただけるようになり、患者さんが増えました。

 地方の病院は医師不足が問題になっています。週1回の外来1コマを手伝いにいくだけでも、感謝され、強い病診連携も結べるようになります。クリニックのなかでじっと患者さんを待っていてもよいですが、行動してみるのも一つの方策でしょう。

 一方、医師会においては、開業時の挨拶が遅れたためか、最初の印象はあまりよくありませんでしたが、予防接種や市民健診を紹介してくださり、認知度をあげることができました。

 医師会開催の勉強会にもこまめに参加して、他の開業医の先生や総合病院の先生と懇親会で親交を深めるようにし、病診連携は徐々にとりやすくなっていきました。医師会もこまめに顔を出すようにしていると、対応も変わり、親しい先生もできてきます。

 医師会にはよく似た境遇の方が必ずいます。過去に落下傘で苦労された先生や、同世代の先生など、話をしてみると共感することが多いものです。

効果的な広告・宣伝方法は?
セールスポイントを考える

 落下傘開業で重要なのは、効果的な広告・宣伝です。

 まず、宣伝はなるべくムダを少なくして、効果の高いものを選ぶことです。私の開業している地域ではほとんどの方が車通勤なので、駅看板は出していません。駅構内の案内地図に載っている小さなものだけです。そのかわり野立て看板、電柱看板は出しています。看板は見た目も大事ですが、設置する位置にこだわったほうがよいと思います。同じ電柱でも、クリニックに近く、車が速度を落とす交差点近くで、できれば信号機の近くがお勧めです。

 看板の角度の検討も必要で、道路に対し平行ではなく、垂直になるように看板を新たに追加し、作成しました。

 開業する土地は、患者さんになったつもりで歩いて回るといろいろと気づかされることがあります。

 私が女性医師であることは、宣伝効果が高いと思っていたのですが、名前が「あき」と読まれず、「やすのり」と読まれてしまい、男性によく間違えられました。ふりがなを振っていたのですが、職員のアイディアで野立て看板に似顔絵をつけることにしました。友人に漫画家がいたので、似顔絵を依頼し、実物よりやや美化された看板ができあがりました。患者さんからは、わかりやすく、親しみがあると評判は上々でした。

 さらに地元の情報誌(新聞折り込みのフリーペーパー)に医院広告コーナーが月1回あり、そこも利用しました。このとき、「肝臓専門医」と入れ、差別化を図りました。ちなみに、「肝臓専門医」は新しく作成した看板にも付け加えました。

 地元の商工会議所に入会し、会誌のコラムも3回書きました。消化器内科なので専門性を生かして、「お酒と肝臓」「ピロリ菌除菌」「ノロウイルス感染症」についてです。コラムは顔写真も掲載され、女性医師であることは十分伝わりました。商工会議所ということで、企業の従業員の目にも留まり、クリニックの信頼感と増患につながったと思います。

 これらの経験から、広告は自分のセールスポイントをよく考えて、既存のクリニックとの差別化を図るのが効果的だと思います。

 宣伝の一環として、地元の商店主などで結成している町おこしの会にも参加し、顔を覚えていただきました。商店街のなかに開業しているのであれば、ギブアンドテイクの精神で、商店街で買いものをする、患者さんのお店に行くようにすることも必要だと思います。お店をやられている方の口コミには大きな宣伝効果があります。

 夫が知人に頼み、小さな講演会や健康相談も行いましたし、患者さんの多いクリニックの先生に成功の秘訣をうかがったこともありました。盛業には必ず理由があることがわかり、大変参考になりました。

 開業の前後では、ずいぶんと自分は積極的・社交的になったものだと思います。借金が返せなくなることを考えれば、今まで苦手だった人前での講演や、社交的になることなどはなんとも思わなくなりました。

 ここまで努力して、ようやく来院患者数は近隣の病院から開業した先生と同じくらいになるわけです。

 私は落下傘開業で知らない土地に飛び込んだので、自分で道を切り開くしかありませんでした。追い詰められると意外と勇気のある行動ができるものです。自分が切り開いてつくりあげていくのはつらいことも多々ありますが、喜びも多く、大変味わい深いものだと思います。

※当記事はジャミック・ジャーナル2009年5月号より転載されたものです

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