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浮腫に関する英語表現

極めて一般的な症状とは言え、「むくみ」に関する英語表現には意外と知られていないものが数多くあります。そこで今月は「浮腫」をトピックに、こういった日本人にあまり馴染みのない英語表現をいくつかご紹介したいと思います。

気をつけておきたい swelling と swollen の違い

まずは基本的な表現を確認しましょう。皆さんご存知の通り、「浮腫」に相当する英語は edema です。日本語の中では「エデマ」のように発音されますが、英語本来の発音は「イディーマ」のようになります。日本では米国式のスペルが一般的ですのでedema と表記されますが、英国式のスペルでは oedema となります。もちろん発音は変わりません。

日本語で「浮腫」が医学用語であるのと同様に、英語の edema/oedema も医学用語で、一般の方は日本語の「むくみ」に対応する swelling という一般用語を使います。この swelling は名詞であり、 “When did the swelling start?” のように使い、「顔のむくみ」や「脚のむくみ」などはそれぞれ facial swelling や leg swelling のように表現します。形容詞として「むくんでいる・腫れている」と表現する場合には swollen となりますので、「むくんだ顔」や「むくんだ脚」はそれぞれ swollen face や swollen leg のように表現します。医療英会話の際に “Are your legs swelling?” などのように表現される方がいらっしゃいますので、“Are your legs swollen?” のように swelling と swollen を意識して正しく使いましょう。

Cankles って何のこと?

この edema が全身に認められる「全身性浮腫」はどのように表現しますか?日本人の医師はよく general edema という表現を使いますが、これだと general の意味が曖昧ですので、generalized edema という表現が適切です。また日本人医師にはあまり知られていませんが、英語圏では anasarca (「アナサァカ」のように発音)という医学用語も generalized edema としてよく使われます。

脂肪(性)浮腫」は lipedema (「リピディーマ」のように発音)となりますが、下肢に lipedema が発達し、「ふくらはぎ」 calf と「足首」 ankle の境目がなくなったような状態を英語圏の患者さんは cankles のように表現する場合があります。これは calf + ankle から生まれた比較的新しい慣用表現で、日本語の「大根足」のようにイメージの悪い表現です。患者さんがこういった慣用表現を使う際に医師としてそれらを理解できることは大切ですが、皆さん自身は絶対に使わないようにしてくださいね。

Non-pitting edema に関する英語表現

この lipedema と発音で混同されやすいのが lymphedema です。これは「リンパ浮腫」であり、「リムフイディーマ」のような発音になります。lymphedema の m の発音は日本語の「ン」のようにはならないので注意してください。

浮腫の鑑別で重要になるのが「圧痕性浮腫pitting edema と「非圧痕性浮腫non-pitting edema の区別です。この pit というのは「凹み」というイメージの単語で、カーレースの際に車が給油や修理をできる「低い場所」も pit と呼ばれますし、腕の下で凹みとなっている「脇の下」も armpit と呼ばれます。ですから pit は動詞として「凹みを作る」というイメージになるのです。

non-pitting edema には先ほど紹介したlymphedema や「粘液水腫myxedema が含まれます。一般的に myxedema の原因は「甲状腺機能低下症」 hypothyroidism となりますが、「脛骨前粘液水腫pretibial myxedema は「バセドウ病」に特有となります。読者の皆さんもご存知と思いますが、英語圏ではドイツ人医師に由来する Basedow’s disease という表現は使われず、英国人医師の名前に由来する Graves’ disease という表現(Graves が名前ですので、Grave’s ではなく Graves’ となります)が使われます。ちなみにこの Graves’ disease に特有の「眼球突出」exophthalmos/proptosis がある場合に陽性となる von Graefe sign ですが、英語圏の若い医師や医学生たちはこれを単純に lid lag (下方を見た時に眼球の動きと眼瞼(lid)の動きに差(lag)が出ること)と表現します。von Graefe signのように人の名前がついた表現を英語では eponym と言います。医学にも数多くの medical eponyms が存在しますが、正しい知識がないと伝わらないことが多いので、最近は lid lag のようなより直接的な表現の方が好まれて使われているのが世界の潮流のようです。