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吐き気・嘔吐に関する英語表現

「吐き気がする」という意味で使われている nauseous ですが、これは本来「吐き気を催す」「気持ち悪くさせる」という意味ですので、「吐き気がする」と表現したい場合には nauseated という形容詞が正しい表現となります。
このように「吐き気」や「嘔吐」には知っているようで知らない英語表現がたくさんあります。
そこで今月は「吐き気」と「嘔吐」に関する英語表現をご紹介します。

Sick の意味は「具合が悪い」?

吐き気」の名詞は nausea です。前述したように「吐き気がする」と言いたい場合には “I feel nauseous.” ではなく、 “I feel nauseated.” のように nauseated という形容詞を使うべきなのですが、英語圏でも普通に “I feel nauseous.” という表現が「誤って」使われています。

一般的に「病気である」「具合が悪い」という意味として使われている sick ですが、イギリス英語では「吐き気がする」もしくは「吐く」という意味でも使われます。患者さんが “I feel sick.” と言った場合、アメリカ英語では「具合が悪い」という意味になりますが、イギリス英語では「吐き気がする」という意味になります。ですから患者さんが “I was sick on the boat.” のように表現した場合、イギリス英語では「船で吐いた」という意味になるので注意してください。

このように sick には「吐き気がする」や「吐く」という意味でも使われ、そこから転じた表現が英語には数多くあります。英語で「乗り物酔い」は motion sickness と言い、「車酔い」「船酔い」「飛行機酔い」はそれぞれ carsickness, seasickness, and airsickness と呼ばれます。飛行機に乗ると座席ポケットに「エチケット袋」なるものが用意されていますが、これは英語では sick bag/sickness bag と呼ばれます。また妊娠初期に認められる「つわり」は morning sickness と呼ばれますが、この場合の sickness も「病気」や「具合が悪い」ではなく、「吐き気」や「嘔吐」としての意味で使われています。

Pray to the porcelain god ってどんな意味?

では「嘔吐する」や「吐く」にはこの他にどのような英語表現があるのでしょう。日本語の「嘔吐する」に近い表現が vomit です。これは国や地域に関係なく使われているフォーマルな表現です。「嘔吐」の医学英語である emesis は患者さんには全く通じませんのでご注意を。この vomit に対しややカジュアルな表現が throw up という表現で、日本語の「吐く」に相当します。

嘔吐とよく混同されるのが「逆流regurgitation です。これは「嘔吐に見られる筋肉の収縮」 retching がないのが特徴です。「逆流性食道炎」 gastroesophageal reflux disease (GERD) では逆流してきた胃酸が口の中で唾液と混ざって hypersalivation「口の中が唾液(胃酸)で溢れた状態」になりますが、このことを water brashacid brash のように表現します。ちなみにこの brash は「溢れ出るもの」というイメージの名詞で、「ブラシ」の brush とは全く異なるものですので気をつけてください。

医師が使う「嘔吐する」「吐く」としてはこの vomit と throw up という表現だけで十分だと思うのですが、患者さんはもっとカジュアルな表現を使う可能性があります。患者さんが pukebarf といった動詞を使った場合、それらは「吐く」という意味です。どちらも「ゲロをする」のようなイメージの表現ですので、医師が使うには相応しくない表現です。また「勢いよく吐く」というイメージで hurlupchuck というカジュアルな表現も使われます。

二日酔いhangover の際には「便器を抱えて吐き続ける」という状況にもなりますが、この動作は「トイレ(の素材である磁器)の神に祈る」ように見えるために pray to the porcelain god と呼ばれます。

「力を入れて持ち上げる」ことを英語では heave という動詞を使います。ここから「筋肉の収縮を伴って吐く」ことも heave と表現します。特にこの動詞は「空吐き」である dry heaving という表現で使われます。またこの dry heaving は「嘔吐を引き起こす筋肉の収縮」というイメージの retching とも呼ばれます。ですから患者さんが “I vomited without retching.” と言った場合、それは正確には「嘔吐」ではなく「逆流」となるのです。

食事をした後、患者さんは嘔吐する前の症状として “The food didn't sit well.” のような表現を使います。診断には「吐瀉物」 vomitus の内容が重要になりますので、 “What did the vomitus look like?” のような質問を使うと良いでしょう。嘔吐は下痢 diarrhea と同時に認められることが多いため、英語圏のカルテで diarrhea and vomiting は D&V という略語で表現されます。また「吐き気止め」を意味する antiemetic は一般の方でも知っている表現ですので、これを機会に是非覚えておいてください。