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英語圏で使われる語呂合わせを使った記憶法

皆さんは学生時代、「脳神経」cranial nerves の名称とその番号をどのようにして覚えましたか?
初めは「嗅いで見る動く車の三の外。顔聴舌迷副舌下。」のような記憶法を先生や先輩から学び、それを呪文のように唱えて暗記したという方が多いのではないでしょうか? このような「語呂合わせを使った記憶法」は世界中の医学生に共通です。
そこで今月は英語圏で使われている無数の「語呂合わせを使った記憶法」の中から、私が個人的におススメするものをいくつかご紹介します。

米国の医学生はほぼ全員が First AID for the USMLE Step 1 という参考書を使っています。その中にはたくさんの mnemonics が紹介されています。これは「語呂を使った記憶法」という意味で、最初の m は発音せずに「ニィニクス」のように発音します。数ある mnemonics の中でも下記の4つはとても効果的で、私も授業で学生たちに紹介しています。

1. CRASH and Burn!
2. So Long To Pinky. Here Comes The Thumb.
3. Salt, Sugar, Sex. The deeper you go. The sweeter you get.
4. Stones, Bones, Groans, Moans, Thrones, and Psychiatric Overtones.

これだけでは全くわかりませんよね。では順にご説明いたしましょう。

1.Conjunctival injection, Rash, Adenopathy,
Strawberry tongue (oral mucositis), Hand-foot changes (edema/erythema), and Burn (Fever)

これは「川崎病」 Kawasaki Disease の6つの主要症状に関する mnemonicで、日本の医学部でも紹介されているほど有名です。英語でHonda や Kawasaki と言えば「バイク(オートバイ)」 motorcycle が想起されます。そこから「Kawasaki のバイクが Crash して燃え上がる(Burn)」様子をイメージして覚えるというわけです。この表現はそれぞれ「眼球結膜充血」「発疹」「リンパ節腫脹」「いちご舌」「手足の腫脹・発赤」「発熱」の英語の頭文字(もしくは連想)になっています。一般的に mnemonics には「それ自体を覚えることが難しい!」という批判がありますが、これは「川崎→バイク→クラッシュして燃え上がる」という一連のイメージが想起しやすい、大変優れた mnemonicと言えます。

2.Scaphoid, Lunate, Triquetrum, Pisiform. Hamate, Capitate, Trapezoid, Trapezium

8つある「手根骨」carpals の名前と場所を覚えるのはどこの国の医学生にとっても苦痛以外の何ものでもありません。この mnemonic は先ほどの “CRASH and Burn!” と同様、それ自体を覚えることがそれほど難しくない mnemonic です。自分の手を眺めながら、橈骨寄りの近位の4列の手根骨を親指側から小指 pinkyにかけて “So Long To Pinky” と言って Scaphoid, Lunate, Triquetrum, Pisiform という4つの手根骨を覚えます。次に遠位の4列の手根骨を今度は小指側から親指 thumb にかけて “Here Comes The Thumb” と言って “Hamate, Capitate, Trapezoid, Trapezium” という4つの手根骨を覚えるのです。「手根骨なんてもう覚えていない!」という読者の方もこれを機会に覚えてみてください。

3.Aldosterone, Cortisol, Androgen

これは「副腎皮質」adrenal cortex の3層でそれぞれどんなホルモンが産生されるかを覚えるための mnemonics です。副腎皮質は表層から深層にかけて「球状層」 zona glomerulosa、「束状層」 zona fasciculata、「網状層」 zona reticularis という3つの層があり、そこから mineral corticoid である aldosterone 、glucocorticoid である cortisol、そして male sex hormone である androgen がそれぞれ分泌されるわけです。当然これらのホルモンはそれぞれ「塩分(Na+)」「糖分」「セックス」に関与しているので、「深くなるほど甘くなる」という冒頭の mnemonic が威力を発揮するわけです。「下ネタ」というのはどこの国でも人気(?)があり、とてもここではご紹介できないような下品なものも数多くありますが、これはギリギリ許容されるユーモアある mnemonic と言えます。(許容されることを願っています。)

4.Kidney Stones, Bone Pain, Lethargy/Fatigue, Abdominal Pain, Polyuria, and Anxiety/Depression

最後にご紹介するのが「高カルシウム血症」 hypercalcemia で現れる症状の mnemonic です。英語圏では国語教育(英語教育)において小さい頃から詩を読ませます。日本で「詩を読む」というと情景や背景などに考えを巡らせることが主流になりがちですが、英語圏では「韻を踏む」rhyming という言葉遊びの要素が重視されます。この mnemonic はまさに言葉遊びとしての rhyming を使ったもので、Stones から「尿管結石」、 Bones から「骨痛」、「うめく」という意味の Groans から「倦怠感」、「悶える」という意味の Moans から「腹痛」、「椅子・トイレ」を意味する Thrones から「トイレに座る=多尿」そして「精神的な高揚」という意味の Psychiatric Overtone から「不安・鬱」といった症状が想起されるのです。皆さんも是非声に出してこの rhyming を楽しんでみてください。