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日本人が耳慣れない医学英語表現

皆さんは “a patient with mono” と聞いて、その意味がわかりますか?
この “mono” とは「伝染性単核球症」を意味する infectious mononucleosisの略語で、英語圏では当たり前のように使われている表現です。
このように医学英語には「正式な表現は知っていても、臨床現場で使われると意味がわからなくなる」という表現が数多く存在します。
そこで今月は日本人にとって「耳慣れない」医学英語表現をいくつかご紹介しましょう。

「ヘマトクリット」はどう表現される?

省略された表現として “mono” を冒頭で紹介しましたが、 “pheo”は何の病名かわかりますか? これは pheochromocytoma 「褐色細胞腫」の略語で、mono と同じくらいよく使われる略語です。
日本の臨床現場では hematocrit「ヘマトクリット」は「ヘマト」と省略されるのが一般的ですが、英語圏の臨床現場ではアクセントのある部分を残す形で “crit” のように表現されます。
「全身性エリテマトーデス」は英語で systemic lupus erythematosus となるので、その略語である SLE が日本ではよく使われています。しかし英語圏ではこの SLE を使うことはほとんどなく、lupus と表現されるのです。
「クモ膜下出血」の subarachnoid hemorrhage の略語である SAH ですが、日本ではドイツ語発音で「ザー」と発音されます。しかしこれは英語では全く通用しません。英語ではそのまま「エス・エー・エイチ」のように発音しましょう。
この他に「正式な英語表現は知っていても、日本ではあまり省略されないために、略語で表現されてもわからない」という医学英語もあります。日本でも「院内肺炎」と「市中肺炎」を意味する hospital acquired pneumonia と community acquired pneumonia という表現はよく知られていますが、それぞれの略語である HAP と CAP を「ハップ」や「キャップ」のように発音されると、意味がわからなくなる方が多いのではないでしょうか? 同じように外科で一般的に行われる「試験開腹」の exploratory laparotomy は知っていても、その略語である ex-lap が「エクスラップ」のように発音されて理解できる外科医は少ないのではないでしょうか? どちらも英語圏ではよく使われる略語ですので、これを機会に覚えておいてくださいね。

adduction と abduction はどう発音する?

「内転」と「外転」は英語でそれぞれ adduction と abduction となりますが、皆さんはこれらをどのように発音しますか。前者は「アクション」、後者は「アブクション」と発音されますが、どちらの発音も似ているため、臨床現場では明確に区別するために前者は「エー・ディークション」、後者は「エー・ビークション」のように発音されることがあります。日本語で「私立」を「しりつ」ではなく、「わたくしりつ」のように発音するのと同じ理由です。
「甲状腺機能亢進症」「甲状腺機能低下症」や「高血圧」「低血圧」を表現する際には、hyperthyroidism/hypothyroidism や hypertension/hypotension のように hyper-/hypo- を使いますが、これらは英語の母国語話者でも聞き分けるのに注意が必要になります。したがって臨床現場で発音する際にはhyperthyroidism/hypothyroidism や hypertension/hypotension という本来の部分にアクセントを置くのではなく、hyperthyroidism/hypothyroidism や hypertension/hypotension の下線部分にアクセントを置いて発音する場合があります。これらは辞書的には「誤ったアクセント」となりますが、正確に伝える必要がある臨床現場では頻回に使われる表現です。
最後に心筋梗塞の手術である coronary artery bypass grafting の略語である CABG ですが、これはどのように発音されるかご存知ですか?そのままだと「シー・エー・ビー・ジー」となりますが、臨床現場では野菜の「キャベツ」を意味する cabbage 「キャベッジ」のように発音されるのです。
こういった「耳慣れない」こなれた医学英語表現は「書き言葉」だけでは習得するのは困難です。しかし最近では英語の動画を視聴できる環境が整っています。語学習得では「聞くスキル」の習得が最初のステップです。是非読者の皆さんも「書き言葉」だけでなく、「話し言葉」を通して医学英語表現を学ぶ習慣をつけてください。