外来診療において「腰痛」 low back pain は頻度の高い主訴です。原因の多くは muscle strain と呼ばれる「筋肉の緊張」ではありますが、重篤な疾患の「危険信号」 red flags となる症状を聞き出すことが history taking では重要です。そこで今月は「腰痛」の随伴症状に関する専門用語に関して、「患者さんでもわかる簡単な表現」と「患者さんへの質問表現」の2つに分けて、臨床場面で有用な英語表現をご紹介します。
では下記の症状に関して、それぞれ「患者さんでもわかる簡単な表現」と「患者さんへの質問表現」を考えてみてください。
「椎間板ヘルニア」herniated disk などに見られる「下垂足」を意味する foot drop は、一般の方にはあまり馴染みのない表現ですので、例文のように説明的な表現を使う必要があります。その有無を患者さんに質問する際には、例文のように「歩行に問題がないかどうか」を尋ねることで間接的に知ることができます。もしこの質問に “Yes.”という回答があれば、“Have you noticed any difficulty liftingyour feet when walking?” といった具体的な質問を続けるといいでしょう。
「筋無力症」を意味する muscle weakness も herniated disk の随伴症状の一つです。このような筋力低下の有無を尋ねる際には、例文のように身体のどの部位の筋力低下なのかを具体的に尋ねることが大切です。また herniated disk にはこれらの随伴症状に関する質問以外にも、 “Is the back pain electrical or shock-like?” といった「痛みの性状」に関する質問が診断には有用です。
paresthesia は sensory deficit とも表現されますが、一般的にはnumbness もしくは tingling として表現されます。前者の numbnessには「運動の異常」である muscle weakness というイメージも伴いますが、原則的には「感覚の異常」と覚えておきましょう。
「失禁」は incontinence ですが、これは比較的一般の方にも理解される表現です。この「尿失禁」や「残尿感」 urinary retention/incomplete voiding は「馬尾症候群」cauda equina syndrome に認められる症状です。また「残尿感」の有無を尋ねる際には “Do you feel that you haven’t completely emptied your bladder after urination?” のように尋ねるとよいでしょう。
「便失禁」は fecal incontinence もしくは stool incontinence となり、これもやはり cauda equina syndrome の際に認められる症状です。質問表現にある to soil という動詞は「土をつけるように汚す」という意味の表現で、例文のように to soil yourself や to soil your underwear のように用いることで「便失禁をする」という意味の表現として使われます。日本人にはあまり知られていない表現ですが、これを機会に是非覚えておいてくださいね。
自転車などのサドルに跨った際に、そのサドルと接する部分の感覚が消失する状態を saddle anesthesia と言いますが、これは例文のように「生殖器の周りの感覚消失」と表現すると分かりやすいと思います。また質問する際には “Do you have any numbness around your genital area?” と尋ねてもいいですし、例文のように「お尻や太ももの辺りの感覚麻痺」の有無を尋ねてもいいでしょう。