「中耳炎」や「胃腸炎」などを英語で説明しようとして、“otitis media”や“gastroenteritis”という医学用語(medical terminology)で一生懸命説明しても、患者さんになじみのある“ear infection”や“stomach flu”といった一般用語(lay term)を使わなければ患者さんは理解できず、適切なコミュニケーションを取ることができません。そこで今月は、専門用語に対応する一般用語lay termをいくつかご紹介いたします。
次の3つの文を、患者さんに話すつもりで英訳してください。
医学用語はご存じの方も多いと思いますが、lay termとなると戸惑いませんでしたか。では、見ていきましょう。
「帯状疱疹」は“herpes zoster”や“zoster”と呼ばれますが、“shingles”というlay termが一般的です。このshingleは「屋根や壁に使われる細長い板」のことで、帯状疱疹の症状を適切に表しています。会話で使われる場合には、singlesと聞き違えてしまうと意味がわからなくなりますので、気をつけてください。
辞書を引けば、「口唇ヘルペス」=“herpes labialis”と出ています。“labium”が「唇」を意味するので、「唇にできたヘルペス」となるわけです。これにもlay termがあり、“cold sores”、「風邪をひいたときに痛むもの」、もしくは“fever blisters”「熱を出したときに出てくる水疱」と呼ばれています。
説明するときに“hallux valgus”と言っても、よほど医療の知識がある方を除いて通じません。若干意味が変わってきますが、外反母趾の結果生じる「腱膜瘤」を意味する“bunions”が一般的ですので、こちらを使って説明するとよいでしょう。
では、さらに3つの文の英訳に挑戦してみてください。
「外反母趾」「歯槽膿漏」という難しい言葉がここまで一般に普及している日本は、ある意味ですごい国です。英語で歯槽膿漏は“alveolar pyorrhea”ですが、「歯槽膿漏」ほどの市民権を得ていません。「歯肉炎」を意味する“gingivitis”が、コマーシャルなどでも使われていて、「歯槽膿漏」に匹敵する言葉と言えます。
“facelift”「顔のしわとり」から派生した“lift”は、最近美容整形の文脈でよく使われています。“breast lift”だけでなく、“arm lift”「腕のたるみを取る手術」、“butt lift”「お尻のたるみを取る手術」も覚えておきましょう。
日本語の「高齢出産」という表現は市民権を持つlay termですが、英語ではこれに匹敵するものがありません。“late childbearing”という曖昧な表現では理解してもらえないのです。この場合は“pregnancy over 35”のように具体的に表現する必要があるのでご注意ください。