糖尿病の“不安”とは? 患者の声「電話健康相談」特集

※「ジャミックジャーナル」は2011年10月号より「ドクターズキャリア マンスリー」にリニューアルされました。

もっと聞きたい!患者のホンネ 保険同人社・電話健康相談より

糖尿病は“不安”に関する相談が多い

第6回

保健師●金子千佳子

 糖尿病に関してのご相談は、2008年度は688件ありました。50歳代の相談件数が最も多く、これは糖尿病の好発年齢と合致しています。次いで40歳代が多かったのは、特定健診・特定保健指導がスタートしたことによるものと推測されます。
糖尿病の相談の特徴は、病気自体の情報を求める声より、病気にまつわる“不安”の声が突出して多い点です。
 とくに、糖尿病の家族歴のある方は、合併症の怖さを目の当たりにしているぶん、「自分もそうなるのではないか」と不安を抱いている例が多くみられます。家族歴がなくても、「足のしびれは神経症状でしょうか?」「目が見えにくくなってきて、網膜症が心配です」といったさまざまな不安の声が寄せられています。糖尿病を受容することは、症状がないこと以外の理由を含めて、困難なことがわかります。
 また、糖尿病の治療の基本は食事と運動ですが、生活改善の効果はすぐにはでてこないうえに、習慣を変える生活の不自由は大変なことで、治療の指針にそった生活改善が難しくなっています。さらに、予備軍や境界域では、自覚症状のないことを不安に思う人がいる一方で、危機意識のない本人に代わり、奥様が心配して電話をかけてこられるケースもしばしばです。
 受診後の相談が多いのも、糖尿病の相談の特徴です。通常疾病の場合、弊社への電話は、受診前と受診後の相談がほぼ半々ですが、糖尿病は7対3の比率で、受診後が多くなっています。糖尿病の専門医がいる病院では、診察のたびに管理栄養士が食事指導をしたり、教育入院を行っていたりするところもあります。
 それにもかかわらず、通院中の患者さんからの相談が圧倒的に多いのです。Aさん(男性・54歳)の例を紹介しましょう。

病院の食事指導がうまくいかなかった例

 Aさんは定期健診で血糖値が少し高めと指摘されました。今年2月に病院を受診し、その後、教育入院も行って、管理栄養士からみっちり食事指導を受けました。退院後は、その指導に基づいて自ら毎日料理をつくり、栄養管理に励んでいたといいます。
 ところが、検査結果は一向によくなりません。ドクターから体重を落とすようにいわれたものの、減量も食事指導も厳しすぎて続けられそうもなく、弊社へ電話をかけてこられたのでした。お話を詳しくうかがうと、減量については、身長185?pに対して93?sある体重を「80?sまで落としましょう」といわれたそうです。また、管理栄養士からは1日の食事を2,400カロリーに抑えるように指導を受けていました。1日2,400カロリーは、糖尿病の食事としてはかなりゆるめの設定です。おそらく、仕事の関係でAさんの1日の運動量が多いことや、体格が大きいことなどを考慮して、管理栄養士はその数値を提案したのだと思います。
 しかし、以前、Aさんはその2倍以上も食べていたそうで、2,400カロリーではどうしても満足感が得られず、大好きなお酒を飲めないことも大きなストレスになっているようでした。
 問題は、食事指導の内容が、Aさんの生活スタイルや嗜好にあっていないことにあると思われました。
 そこで、弊社の管理栄養士のほうから、基本ラインは変えないままに、食事に少し工夫を施すことを提案しました。海草やキノコなどの低カロリー食品を上手に使って食事のボリュームを増し、量的にも、見た目にも満足感の得られる食事メニューをおすすめしたのです。また、他の合併症はないということでしたので、制限カロリーの範囲内でお酒を飲めるメニューも提案しました。そして、今後、食事内容を含めて治療上のことで困ったとき、主治医や管理栄養士にどのように相談すればよいかについてもアドバイスさせていただきました。具体的には、自分の生活や嗜好をしっかり伝え、守れるものと守れないものを明確にし、これは外せないものがあれば口にだしていう——といった具合です。
 患者さんがドクターと向き合って自分の意思を伝えられる力を養うお手伝いをすることも、私どもの大切な役目と考えています。

患者さんはドクターに「わかってほしい」

 糖尿病の患者さんの多くは、ドクターや管理栄養士から指示がでると必死で努力します。おもに合併症に対する強い不安が、その原動力になっているようですが、ときとしてがんばっても守れないケースがでてきます。そんなとき、患者さんは「自分はがんばっているのに指示を守れない」と追い詰められていきます。
 ここでドクターから「なぜ指示どおりにやらないんだ」と叱られたりすると、気持ちがすっかり萎えてしまいます。努力してきた部分は評価されずに、できなかったことだけ指摘されるのは、なかなか辛いものがあるからです。言い訳がしたいのです。
 糖尿病とうまく付き合っていくうえでいちばん大切なのは「小さな守れること」の積み重ねだと、私は考えています。ドクターにがんばりをわかってもらえるだけで、患者さんはそれを力に一歩ずつ前進していけます。患者さんはいつもドクターに「わかってほしい」と思っていることをぜひ知っておいてください。
 患者さんからの「なぜうまくできないのか」という理由のなかに、じつはその方にあった、行動変容のきっかけが隠れています。

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※当記事はジャミック・ジャーナル2009年9月号より転載されたものです
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