Medical English キャリアアップのための英語術

  • 記事公開日:
    2024年02月09日

自動翻訳が発達する AI 時代は「英語ができなくても困らない時代」と言えます。このように英語学修の外的動機が弱くなる一方、「やっぱり自分で英語を使えるようになりたい」という内的動機がこれからの時代の英語学修の動機となります。ここではそんな「やっぱり自分で英語を使えるようになりたい」と感じる医師に向けて、キャリアアップに繋がる英語のヒントをご紹介します。


医師と英語試験

2024年が始まりましたが、「今年こそは流暢に英語を話せるようになりたい」と感じている方も多いと思います。私はよく「英語を使えるようになるためにはどんな試験の勉強をしたらいいですか?」という質問を受けるのですが、その際にはいつも「なぜ試験を受けたいのですか?」と聞き返しています。

英語試験を含めておよそ試験というのは、その受験目的によって下記の4つに分類できると個人的に考えています。

· Passport としての試験

· Trophy としての試験

· Telescope としての試験

· Mirror としての試験

Passport としての試験」とは、「キャリア形成のために必要」という試験です。皆さんが受けてきた医学部での定期試験や医師国家試験なども「この試験に合格しないと医師としてのキャリア形成が進まない」という性格の試験ですので、その意味ではこの種類に分類できます。

もし皆さんが米国やカナダの大学院に進学しようと考えるならば、Test of English as a Foreign Language Internet-Based Test (TOEFL iBT) という試験で100点以上を獲得する必要がありますし、英国や豪州の大学院に進学しようと考えるならば、International English Language Testing System Academic (IELTS Academic) という試験で 7.0 以上のスコアを獲得する必要があります。こういった目的での TOEFL iBT や IELTS Academic は「Passport としての試験」であるので、高得点を取得するというよりは、求められる基準点に到達するということが最優先事項となります。

Trophy としての試験」とは、「自分の優秀さを客観的に誇示するため」の試験です。TOEFL iBT や TOEIC などで高得点を目指す場合も、英検や漢字検定などで難易度の高い級の試験を受験する場合も、受験目的という視点から見るとこの「Trophy としての試験」と言えるでしょう。基準点に到達すれば良いという「Passport としての試験」とは異なり、この「Trophy としての試験」では「できるだけ難易度の高い試験で高得点を取ること」が重要となります。

Telescope としての試験」とは、「身につけたい知識や技術の概要を知るため」に受験するという試験です。これはその試験の問題集や参考書を使用することで、その試験の対象となっている知識や技術の概要を Telescope「望遠鏡」を通して知ることができるという種類の試験です。日本医学英語教育学会では「日本医学英語検定試験」という試験を実施していますが、このうちの「基礎級(4級)」などは医学英語初心者にとっては「Telescope としての試験」として機能している試験と言えます。

日本では試験で測定される能力による選抜が大きな意味を持っているためか、試験自体が過剰に高く評価されていると個人的に感じています。他の国では「自分には実際に使える能力が備わっているのだが、試験自体が苦手なので、試験では自分の実力を正しく評価できない」と開き直って考える人がある程度いるのですが、日本にはそのように発想できる人が極端に少ないと感じています。

日本では英語は第2言語ではなく外国語です。日常的に英語を使う環境を作ることが容易ではない日本国内では、実際に使える英語力を身につけることは容易なことではありません。ですから「まず英語力の目安となる英語試験で高い点数を取ろう」と試みること自体は、ある意味で自然な対応とも言えます。しかし試験を受けた後に実際に英語を使う環境があるわけではない場合、実用性に目を向けて学修しないと「試験の成績は良いが、実際に英語を使えない人」になってしまう可能性が高いのです。

英語学修の本来の目的は、「実際に使える英語力を身につけること」のはずです。この「実際に使える英語力」があれば、「英語試験に特別な対策をしなくても一定以上の点数は取れる」と考えられます。もちろん試験前にはそれなりの「練習」も必要ですが、英語試験対策はあくまでも「英語試験本番で実力を発揮するための練習」に過ぎず、それ自体が英語学修になるべきではないはずです。そうしないと「英語試験で高い点数を取ってから、実際に使える英語力を身につける」という二度手間が必要になるからです。

英語を使えるようになるにはどのような試験の勉強をしたらいいですか?」と聞かれたら、私はいつも「英語試験対策をするのではなく、英語が使えるようになったらやりたいと思っていることを英語でやってみてください。」と回答しています。

英語には “Fake it till you make it.” という表現があります。これは「できるようになるまでできるようなフリをしろ」という意味で、英語学修ではとても重要な考え方です。つまり「英語力を高めてから国際学会で発表する」という順序で行動するのではなく、「国際学会で発表すると決めてから英語力を何とかする」という順序で行動するのです。具体的には少なくとも年に1回は今の自分の英語力では手に負えないイベントを計画し、そのイベントを乗り切るために1年間英語力を高めざるを得ない環境を作り出すことが「実際に使える英語力」の獲得には有効だと考えています。

もちろん目的によってはPassport/Trophy/Telescope として英語試験を受験する必要があります。しかし日本でももう少し「Mirror = 自分の能力を客観視する写鏡としての試験」として英語試験を受験する人が増えることを願っています。学修がうまくいっているかどうかを確認するための評価を formative assessment形成的評価」と言いますが、英語を外国語として学ばなければならない多くの日本人医師にとって、英語試験をこの「Mirror としての試験」=「実際に使える英語力を身につけるための形成的評価」として活用し、「実際に使える英語力」そのものに目を向ける人が増えることを願っています。

監修押味貫之
  • 国際医療福祉大学医学部 医学教育統括センター 教授
  • 国際医療福祉大学 国際交流センター 成田キャンパス センター長
  • 国際医療福祉大学大学院 医療福祉経営専攻 医療通訳・国際医療マネジメント分野責任者
  • 国際医療福祉大学 総合教育センター 成田キャンパス 語学教育部 医学科英語主任
  • 日本医学英語教育学会理事
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