Medical English キャリアアップのための英語術

  • 記事公開日:
    2024年01月10日

自動翻訳が発達する AI 時代は「英語ができなくても困らない時代」と言えます。このように英語学修の外的動機が弱くなる一方、「やっぱり自分で英語を使えるようになりたい」という内的動機がこれからの時代の英語学修の動機となります。ここではそんな「やっぱり自分で英語を使えるようになりたい」と感じる医師に向けて、キャリアアップに繋がる英語のヒントをご紹介します。


SOGIE とは?

LGBT という表現は日本でもかなり普及してきましたが、英語圏では LGBTQ+ という表現の方が一般的です。また英語圏では SOGIE という表現も一般的になってきていますが、日本ではまだあまり普及していない印象があります。

この LGBTQ+ や SOGIE を理解するためには、性に関する4つの要素を理解する必要があります。

1つ目が assigned sex at birth です。これは通常female, male, or intersex という3つに区分されます。この assigned sex at birth には「性染色体」sex chromosomes や「性器」genitals、そして「性ホルモン」sex hormones などが因子となっています。sex chromosomes で考えると intersex には XXY を持つ Klinefelter syndrome や、 XO を持つ Turner syndrome が含まれます。以前はこの assigned sex at birth はbiological sex と呼ばれていましたが、現在ではこの assigned sex at birth という表現が使われています。

2つ目が sexual orientation であり、LGBTQ+ のうち LGB がこれに該当します。LGBTQ+ は Lesbian, Gay, Bisexual, Transgender, Queer/Questioning, and Others の略語です。このうち lesbian は a woman who is sexually attracted to other women を意味し、gay は a man who is sexually attracted to other men を意味します。ただ lesbian も gay も会話の中では名詞ではなく、形容詞として使われるのが一般的です。(ですから “I am a gay.” ではなく “I am gay.” と表現します。)またgay という単語は英語では lesbian も含めて使われます。ですからlesbian の方も “I’m gay.” のように gay という単語を使いますし、女性同士の結婚も lesbian marriage ではなく gay marriage や same-sex marriage と表現されます。そして sexual relationship に関心がない場合、その sexual orientation は asexual(「エィセクシュアル」のように発音)と表現されます。そしてこういった sexual orientation は日本語では「性的指向」と表現されます。この sexual orientation は innate 「先天的」なものであり、個人の選択や嗜好によるものではありません。ですから sexual orientation を「性的嗜好」のように翻訳すると、明確な差別的表現となるので注意してください。

3つ目が gender identity であり、LGBTQ+ のうち T がこれに該当します。自分の gender identity「性自認」が assigned sex at birth と「同じ」場合は、「同側」を表す cis- を使って cisgender と表現され、それが「異なる」場合は「反対側」を表す trans- を使ってtransgender と表現されます。以前はこの transgender のうち「assigned sex at birth が男性だが gender identity は女性」という方は male to female (MTF) と、そして「assigned sex at birth が女性だが gender identity は男性」という方は female to male (FTM) と表現され、日本語でも「エム・ティー・エフ」や「エフ・ティー・エム」という表現で普及しましたが、現在では「性自認がある特定の時期を境に変わる訳ではない」という理由から、英語圏ではこれらはもう使われなくなっています。現在では MTF には transgender woman が、そして FTM には transgender man という表現が使われています。また自分のgender identity に基づいて行動していくことを gender affirmation と総称し、それに伴う手術を gender affirming surgery (GAS) と呼びます。 現在でもこの gender affirming surgery を the op のように呼称したり、術前や術後の方に pre-op や post-op のような形容詞を使う方がいらっしゃいますが、「性自認が手術を境に変わる訳ではない」という理由から、このような表現は極めて配慮を欠く表現と考えられていますので十分に注意してください。またgender identity として「自分の性自認は男性か女性かの2択には当てはまらない」という場合、日本語では「X(エックス)ジェンダー」と表現されますが、英語ではnon-binary と表現されます。この binary とは「排他的な2択」という意味で、gender identity ではfemale か male かの2択という意味になります。この他にも gender fluid という表現もありますが、これは gender identityが状況や心理状態などで流動的に変化するという意味となります。

4つ目の性の要素が gender expression です。いわゆる「女性的」な服装や言動は feminine と、そして「男性的」な服装や言動は masculine と表現されますが、この2つ以外にも実に多様な表現があります。

冒頭に紹介した SOGIE(「ジィ」のように発音)という表現は、この Sexual Orientation, Gender Identity, and Gender Expression の略語で、上記の性の要素をまとめて表現するものとして使われているのです。

ただLGBTQ+ の中で、日本語の文脈で正しく理解されていないのが Q + (plus) です。

この Q には queerquestioning という2つの意味があります。queer には元々「奇妙な」という意味があり、以前は性的少数者の方への差別用語として使われていました。しかし現在では性的少数者の方がこの queer という表現を肯定的に捉え、「たとえ自分の sexual orientation や gender identity が所属する社会の多数派には肯定されていなくても、自分の性のあり方を誇りを持って肯定的に表現する人」のようなニュアンスでこの queer が使われているのです。そしてquestioning は自分の sexual orientation や gender identity が定まっていない、もしくは決めたくないという場合に使われる表現です。

+ plus と発音し、前述した LGBTQ のいずれにも当てはまらない sexual orientation や gender identity などを意味します。ですから Q と + (plus) は LGBTQ+ の中では SOGIE 全般に関わる言葉とも言えます。

令和4年度版の新医学教育モデル・コア・カリキュラムにおいても「女性やLGBTQに対する差別等のジェンダー不平等をなくすために積極的な行動をとることができる。」ということが学修目標として明示されています。

これまでにも医療現場では「女性を診察したら妊娠を疑え」のような発言が当たり前のように行われてきました。しかしこういった発言は microaggression無意識の差別 =特定の属性の人に対する無意識のステレオタイプや偏見から生じる差別的な日常的言動」と言えます。このようなmicroaggression を自覚するためには intention, assumptions, and impact の3つを考えるようにしましょう。

Intention とは「自分の言動の意図を自覚する」ということです。先ほどの「女性を診察したら妊娠を疑え」という言動の背景には「経験の浅い医師に知見を与えるべき」というとても良い意図があります。

Assumptions では「自分の思い込みを言語化する」ことをやってみましょう。そうすることで「女性ならば全て妊娠の可能性が高い」と考えていたことが自覚できるはずです。

最後に Impact として「自分の言動が与える影響を予測する」ことをやってみましょう。そうすることで指導している学生の中には「自分は女性として不完全だと言われている気がする」と感じてしまう人がいると配慮できるはずです。

人間誰しも固定観念である stereotype は持つものです。しかしそれが負の感情を伴う prejudice となり、さらにそれに言動が加わった discrimination とならないように、この intention, assumptions, and impact を意識するようにしてみてください。

監修押味貫之
  • 国際医療福祉大学医学部 医学教育統括センター 教授
  • 国際医療福祉大学 国際交流センター 成田キャンパス センター長
  • 国際医療福祉大学大学院 医療福祉経営専攻 医療通訳・国際医療マネジメント分野責任者
  • 国際医療福祉大学 総合教育センター 成田キャンパス 語学教育部 医学科英語主任
  • 日本医学英語教育学会理事
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