Medical English キャリアアップのための英語術

  • 記事公開日:
    2023年10月10日

自動翻訳が発達する AI 時代は「英語ができなくても困らない時代」と言えます。このように英語学修の外的動機が弱くなる一方、「やっぱり自分で英語を使えるようになりたい」という内的動機がこれからの時代の英語学修の動機となります。ここではそんな「やっぱり自分で英語を使えるようになりたい」と感じる医師に向けて、キャリアアップに繋がる英語のヒントをご紹介します。


英語論文抄読会を魅力的にするコツ

皆さんが勤務する医局や研究室でも定期的に「英語論文抄読会」Journal Club が開催されていることと思います。しかし日本では英語が苦手な故に「抄録を和訳した後、図や表を解説して終了」という様式でこの Journal Club を行っている方が多いように感じています。それも原因なのか、一般的に日本の医師の間で Journal Club は不人気であり、発表する方もそれを聴いている方もあまり楽しんで参加しているという印象がありません。

しかしそんな Journal Club も少しの工夫で、参加者全員が楽しめる時間にすることが可能です。ここではそんなコツをいくつかご紹介しましょう。

一般的に Journal Club では Original Article「原著論文」を扱いますが、Title「題名」を述べた後、まずはその論文の Authors「著者」Study Group「研究グループ」に言及しましょう。あるテーマに関して継続的に Journal Club を行っていれば、海外の研究者たちに関しても一定の知識がついてきます。発表の際には著者のプロフィール写真などをスライドに載せることで一気に親近感が高まりますし、それまでにその研究者たちがどのような研究を行ってきたのかを調べて言及することで、自分たちの研究の参考にもなります。

次に王道でもある Abstract「抄録」の解説に進みましょう。Abstract は Background, Methods, Results, and Conclusion で構成されています。もちろんそれぞれの項目を解説していくのですが、ここでは特に Background「背景」に注目します。

Background は通常 3つの英文で構成されます。最初の文で「先行研究でわかっていること」を描き、2つ目の文で「まだわかっていないこと = 問題点」を描きます。そして3つ目の文で「この研究の目的」を描きます。もちろんそれぞれの論文で表現方法は変わるのですが、この Background を読むことで「研究の新奇性・独自性」がわかります。ですから発表する際には「先行研究にはないこの研究の新奇性」がわかるように提示することが重要になります。

Abstract を一通り解説した後、論文の本文に進みますが、個人的には多くの日本人が Figures「図」Tables「表」を解説する傾向にあると感じています。その理由は明白で、Figures や Tables には英語が少ないからです。確かに Figures や Tables は英文で説明するよりも視覚的にわかりやすいという理由で使われているのですから、英語が苦手な人でもわかりやすくて当然なのです。もちろんこれらを解説すること自体は悪いことではないのですが、時間が限られている Journal Club では、こういった Figures & Tables よりも Discussion「考察」を解説することをお勧めします。

Discussion は Original Article を構成する Introduction, Methods, Results, and Discussion (IMRaD) の最後の項目であり、いくつかの paragraphs で構成されています。最初の paragraph は Results の総括であり、その研究の結果のまとめが記されています。その後はその研究結果の中でも特記すべき項目に対する Interpretation「解釈」が記されています。ここでは先行研究で示された解釈を応用しながら、その研究の結果をどのように解釈しているかを示すことが求められるので、研究論文において最も重要な構成要素と言えます。こういった Interpretation の paragraphs が続いた後、Limitations/Generalizability「研究の限界・普遍化可能性」が述べられます。この項目は同じような研究をしている研究者にとっては極めて重要な内容であり、Journal Club においてもしっかりと言及していく必要があります。また誌面の文字数の関係で述べられない場合もありますが、Recommendations for Further Research のような paragraph が用意される場合もあります。これも同じ研究領域の場合、極めて重要な項目になります。そして最後に Abstract の Conclusion と同じ内容の paragraph が用意されています。

これで発表する Original Article の概要を押さえることができますが、Journal Club ではこれに加えて EditorialCorrespondence という2つの論文にも言及することをお勧めします。

Editorial とは「編集後記」と呼ばれる論説で、一般的にはその学術誌の Editor-in-Chief「編集長」がその号に掲載された全ての論文の掲載理由を述べています。ただ世界的に著名な医学学術誌では、Original Article 一つ一つにそれぞれの Editorial を掲載することが一般的です。そしてその Editorial の著者はその研究分野の専門家であり、Editorial の中でその研究の背景をわかりやすく解説してくれた後、その Original Article を専門家の視点でわかりやすく要約し、さらにその研究の意義まで解説してくれるのです。つまり我々が Journal Club で理解したいと考えている項目を全て含んでくれているのがこの Editorial という論文なのです。Editorial の形式は実に多彩で、著者によって様々ですが、対象となる Original Article の意義に関しては、最後か最後から2番目の paragraph で述べられることが一般的です。この Editorial の存在や重要性を理解されていない方が実に多いので、次回の Journal Club では是非この Editorial を発表に組み入れてください。

もう一つ Original Article 以外で役に立つのが Correspondence「通信欄」という論文です。これはその学術誌に掲載された Original Article に対して読者から編集者に寄せられた Letters to the Editor と、それに対する Author’s Reply で構成される論文です。これを読むことによって掲載された Original Article に対して世界中の研究者がどのような意見や疑問を持ち、それに対して著者がどのように回答をしているのかを知ることができます。つまりこの Correspondence を読むことで、対象となる Original Article に関する「極めて質の高い質疑応答」を目にすることができるのです。研究とは論文を発表して終わりというわけではなく、他の研究者との双方向のコミュニケーションが重要になります。その意味でもこの Correspondence はとても重要な論文ですので、皆さんの Journal Club での発表でも是非取り入れてみてください。

以上のように Editorial と Correspondence を取り入れることで、対象となる Original Article をより広い視点で語ることが可能となります。この他にも著者の様々な SNS をチェックして、著者がその研究においてどのような主観的なメッセージを発信しているのかを確認したり、実際に著者にメールなどで連絡をして、「今度私たちのJournal Club であなたのこの原著論文について議論します。個人的にこの部分に質問があるのですが、その点に関してあなたのご意見を頂けると幸いです。」のように質問してみてもいいでしょう。著者からの回答を紹介することで、皆さんの Journal Club もより一層盛り上がることになると思います。

以上が私のお勧めする「英語論文抄読会を魅力的にするコツ」です。是非皆さんの次回の Journal Club で試してみてください。

監修押味貫之
  • 国際医療福祉大学医学部 医学教育統括センター 教授
  • 国際医療福祉大学 国際交流センター 成田キャンパス センター長
  • 国際医療福祉大学大学院 医療福祉経営専攻 医療通訳・国際医療マネジメント分野責任者
  • 国際医療福祉大学 総合教育センター 成田キャンパス 語学教育部 医学科英語主任
  • 日本医学英語教育学会理事
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