Medical English キャリアアップのための英語術

  • 記事公開日:
    2023年09月08日

自動翻訳が発達する AI 時代は「英語ができなくても困らない時代」と言えます。このように英語学修の外的動機が弱くなる一方、「やっぱり自分で英語を使えるようになりたい」という内的動機がこれからの時代の英語学修の動機となります。ここではそんな「やっぱり自分で英語を使えるようになりたい」と感じる医師に向けて、キャリアアップに繋がる英語のヒントをご紹介します。


英語での症例報告のコツ

最近では国内の学会でも「英語での症例報告」を求められる場面が増えています。しかしこの英語での症例報告は、「英語での医療面接」や「英語でのカルテ記載」など他の医学英語のスキルと比較しても難易度が高く、実際にやってみてその難しさを改めて感じる方も多いスキルと言えます。

この case presentationとして clinicopathological conference (CPC) を最初に経験される方も多いと思いますが、その場合でも基本となるのが History Taking & Physical Examination (H&P) です。ですからまずはこの H&P の情報をうまく伝える case presentation を身につけるようにしましょう。

そしてこの H&P を伝える case presentation は一般的に下記の構造を持ちます。

1.Patient Information
2.History Taking
3.Physical Examination
4.Summary
5.Differential Diagnosis
6.Plan (Workup & Management)

最初の Patient Information というのは、患者さんの age, sex, chief complaint, and duration of the chief complaint という4項目を含んだ one-liner「インパクトのある1行の文」のことです。またここには pertinent risk factors「鑑別疾患に関連のある危険因子」も含めることが一般的です。具体的には “The patient is a 76-year-old man with hypertension and diabetes mellitus, who presented with a one-hour history of intermittent chest pain.” のように表現します。

次に History Taking「医療面接」の情報を述べていきますが、ここでは下記の項目を順に述べていきます。

•History of Present Illness
•Past Medical History
•Medications
•Allergies
•Family History
•Social History
•Review of Systems

特に History of Present Illness (HPI)「現病歴」は英語での症例報告においては最も重要な項目であり、通常は History Taking 全体の半分か3分の1以上となるような情報量を含むことが求められます。そしてこの HPI をうまく伝えるコツとして、下記の3項目を述べるというものがあります。

1.Chronological description of the chief complaint
2.Detailed description of the chief complaint
3.Associated symptoms

最初の Chronological description of the chief complaint というのは「主訴を時系列に沿って描写する」というものです。具体的には「主訴が発症する前の状況から発症した際の状況、そして発症後受診するまでの状況」を時系列に沿って描写するのです。

2番目の Detailed description of the chief complaint とは「主訴を詳しく描写する」というものです。HPI の項目として有名な Pain’s OPQRSTSOCRATES などの各項目がこれに当たります。この部分を HPI の中心項目として述べようとする方もいますが、まずは先述した Chronological description を優先するようにしてください。

そして3番目に Associated symptoms「関連症状を述べる」というコツがあります。もし患者さんの chief complaint が chest pain であり、coronary artery disease が鑑別疾患として想起される場合、その associated symptoms である dyspnea「呼吸困難」や nausea「吐き気」などの有無を述べることが求められるのです。

この HPI を述べた後、History Taking での各項目を上記の順序で漏れなく述べていくことが大切です。特に Review of Systems (ROS) は日本での症例報告で軽視される傾向にありますが、英語での case presentation では ROS を省略するという選択肢は「あり得ない」と考えてください。

次に Physical Examination「身体診察」の情報を述べていきますが、ここでは下記の項目を順に述べていきます。

•General Appearance
•Vital Signs
•Head, Eyes, Ears, Nose, and Throat (HEENT)
•Neck
•Cardiovascular Exam (Heart Exam)
•Pulmonary Exam (Lung Exam)
•Abdominal Exam
•Neurological Exam
•Extremities
•Skin

患者さんの chief complaint やそこから導かれる differential diagnosis によって Physical Exam で述べる項目は変わりますが、どのような場合でも太字となっている General Appearance, Vital Signs, Heart Exam, and Lung Exam の項目は述べるようにしてください。また “Vital signs are within normal limits.” のように省略して述べる方もいますが、Vital Signs は正常であっても各項目を具体的に述べることを心がけてください。

この Physical Exam では定型表現が多用されます。こちらにそれらの定型表現をまとめてあるので、Physical Exam の正常所見を表現する際には是非参照してください。

英語での case presentationでは、指導医も含めて聴衆全員が診断を進めながら聴いています。ですから聴衆全員が診断に納得できるのが良い case presentationと言えます。そのためには H&P 全体においてpertinent positives 「陽性となる関連項目」pertinent negatives「陰性となる関連項目」の両方を述べる必要があります。

Summary では Patient Information で述べた one-liner に加え、HPI における重要項目と H&P における pertinent positives を入れた文章を作ります。英語での case presentation においてこの Summary は特に重要となりますので、この後に述べる Differential Diagnosis に関して聴衆の医師全員が納得できるように Semantic Qualifiers を使って表現することが求められます。

この Semantic Qualifiers というのは「臨床的な意義を与える医学英語表現」のことであり、わかりやすく言い換えるならば「鑑別疾患を示唆するキーワード」と言えます。

このように英語での case presentation では「定型となっている項目をその順に漏れなく述べる」「現病歴の情報を十分に述べる」「現病歴では3項目を述べる」「ROSを必ず述べる」「身体診察では主訴に関わらず4項目は省略せずに述べる」「Summaryでは Patient Information に現病歴の重要項目と関連する要請項目を入れる」「Summary では鑑別疾患を示唆するキーワードを使う」というコツがあります。もし英語での症例報告をする機会がある場合、是非これらを実践してみてください。

監修押味貫之
  • 国際医療福祉大学医学部 医学教育統括センター 教授
  • 国際医療福祉大学 国際交流センター 成田キャンパス センター長
  • 国際医療福祉大学大学院 医療福祉経営専攻 医療通訳・国際医療マネジメント分野責任者
  • 国際医療福祉大学 総合教育センター 成田キャンパス 語学教育部 医学科英語主任
  • 日本医学英語教育学会理事
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