法務省 静岡刑務所

兼業可の勤務で専門医更新も視野に
矯正医療で新たなキャリアをプラス

通勤に便利な静岡駅が最寄りの静岡刑務所。ここには国家公務員の安定性に加え、兼業可能な勤務で専門医を維持し、新たな経験も積める矯正医官という道がある。
同所の医務部長と所長の話から、その魅力を探った。

森末 晃弘
静岡刑務所 所長
鳥取刑務所長、加古川刑務所長などを歴任し、2017年から現職。

森末 晃弘氏

密かに病気に耐えてきた相手を
治療することもやりがいに

東京駅から静岡駅まで東海道新幹線で約1時間。東京都内や神奈川県内からは通勤圏といえる静岡市の中心部に、静岡刑務所はある。法務省矯正局が管轄する全国の矯正施設と同様、同所にも医療施設が併設され、被収容者が社会復帰を目的とした教育や職業訓練を十分に受けられるよう、健康管理に努めている。

2016年から同所の医務部長として診療を行っているのが秋山博氏だ。

「矯正施設での医療の認知度は低いのが現状です。私も静岡市の生まれで、数年前まで市内で診療していましたが、近くに刑務所があり、そこで医師が必要とされているとは知りませんでした」

そう語る秋山氏は獨協医科大学医学部を卒業し、首都圏の病院で消化器外科医として経験を積んだ後、静岡市内で父親が営む診療所を継承。その頃、常勤医不在だった静岡刑務所の要望に応え、自分の診療所で被収容者を診ていたという。

「最初は自分の専門性を生かし、内視鏡を使って食道静脈瘤を除去する治療を行っていましたが、次第に『こうした症状も診てもらえますか?』と診療の幅が広がり、やがて定期的に刑務所を訪ねて診療する非常勤医に……と、矯正医療に携わる機会が増えていったのです」

所内での診療も月数回から週2、3回に。慢性疾患や生活習慣病に混じって、消化器がんのような重篤な疾患が見つかる場合もあることから、自分が役立つならと秋山氏は常勤医になった。

「中には自分を取り巻く環境に失望し、医療を受けず病気に耐え続けている被収容者もいます。そうした者をすくい上げるような形で治療を行うことも、医師のやりがいの一つと感じています」

外部医療機関や全国の矯正施設と
連携して被収容者の診療を行う

刑務所や拘置所、少年院などの矯正施設で働く医師は法務省の矯正医官という国家公務員で、安定した収入や各種手当、福利厚生などの待遇が特色だ。さらに静岡刑務所は基本的に残業や当直もない。

「私は医局時代に離島医療を経験しましたが、島や施設全体の医療を一つの診療所で引き受ける責任など、両者の診療は近い部分があると感じます。その診療所に医師が常駐していることは、住民や被収容者の安心につながるでしょう」

逆に離島医療と大きく違う点は、同所で対応が難しい症例は連携する外部医療機関に診てもらえることだろう。

また矯正施設の間でも医療共助と呼ばれる協力体制を敷いている。医療設備が充実した「医療重点施設」が全国に9カ所、矯正医療を専門に行う「医療専門施設」が全国に4カ所あり、これらの施設は静岡刑務所のような一般施設から重篤な被収容者を受け入れて治療し、回復後は元の施設に戻す役割を担っている。

このほか全国の矯正施設に勤務している常勤医の専門分野と連絡先をまとめた一覧表が全員に配布されているため、自分では判断が難しい症例であっても、その分野に詳しい医師に連絡をとってアドバイスを受けることが可能だ。

ファーストタッチは准看護師
診療時は立ち会いがいて安心

所長の森末晃弘氏は所内での矯正処遇だけでなく、社会復帰のときに健康であることは、その後に安定した生活が送れるかどうかに大きく関わるという。

「当所では出所する者に自由回答形式でアンケートをとっているのですが、秋山先生が常勤医になられてから医療に対する不満はほとんどありませんね」

やはり常勤医がいる安心感は大きいと森末氏も賛同する。ただ所内の常勤医といっても、被収容者が秋山氏のいる診療所を直接訪ねてくることはない。

「まず准看護師の資格を持つ刑務官が対応します。本人のほか担当の刑務官にも話を聞き、十分な情報収集を行ってから診療所に戻って秋山先生と相談。その結果、投薬だけで済む場合、医師の診察が必要な場合などに分かれます」

診療の際には准看護師の資格を持った刑務官が必ず1人同席し、必要なら数人の刑務官が同時に立ち会うと森末氏は説明する。

なお夜間や休日など医師不在時に被収容者が不調を訴えた場合は、准看護師が症状を確認し、急を要する場合には秋山氏に連絡をとるという流れだ。多くは電話での指示で終わり、治療が必要なら救急車で外部医療機関に搬送するという。

「医師は必要な医療に集中できるため、働きやすい環境ではないでしょうか。私も秋山先生と週1回はミーティングを行い、要望などに対応しています」

内科出身の医師が加わることで
所内の医療体制はさらに充実

矯正施設の働きやすさは、「矯正医官の兼業の特例等に関する法律」により、兼業が可能になった点も大きい。左図のように週19時間以内なら国からの給与は減額されるが、他の医療施設での兼業が認められ、例えば静岡刑務所での診療を午前中までとする日を設けるなど、柔軟な勤務が可能になった。

自らも兼業先として静岡市静岡医師会健診センターで内視鏡検査を行う秋山氏は、知識やスキルの維持・向上に加え、専門医更新にも役立つ制度と評価する。

「苦労して得た専門医資格が、勤務先の状況で更新できないのはつらいでしょう。私が矯正医官になった理由の一つは、特例法で学会参加や症例数を増やすことができ、専門医が維持しすいからです」

秋山氏のバックグラウンドが消化器外科のため、今後は精神科出身の医師に加わってもらい、所内の医療体制をさらに充実させたいと両氏は口を揃える。

同所では総合診療が中心となるため、地域密着のプライマリケアを希望する医師にも役立つだろう。首都圏から近く、気候も温暖な静岡市内で、将来に向けた実践経験を積んではどうだろうか。

静岡刑務所での診療風景。被収容者1人に対し、最低でも刑務官1人(准看護師の有資格者)が立ち会う。

TOPICS

専門医の更新、スキル向上などを目的に他の医療施設で兼業が可能

静岡刑務所のような矯正施設での勤務は1日7時間45分・週38時間45分で、当直はなく、休日は週休2日が一般的だ。しかし、2015年に施行された特例法で柔軟な働き方ができるようになり、専門医の維持やスキル向上のため、必要な症例数が期待できる医療施設との兼業も可能になった。

■基本的な勤務形態
月曜日から金曜日まで、8:30から17:00の勤務。

■他の医療施設で兼業する場合の例
週19時間以内なら勤務時間内の兼業が可能。ただし兼業に充てた時間分は、国からの給与が減額される。このほか夜間、土日も兼業はできる。

また兼業ではなく、外部の医療機関や大学等で、調査研究や医療技術の向上を目的とした勤務も可能。週38時間45分のうち最大19時間まで充てることができ、この場合は勤務時間として扱われる。

DATA

  • 法務省 静岡刑務所
正式名称 法務省 静岡刑務所
募集科目 精神科
給与 年収1,000万円~(税込) 国家公務員として一般職の職員の給与に関する法律の規定に基づき、医療職俸給表(一)を適用 給与月額は医師免許取得からの経験年数等に応じて決定 ※固定残業代は給与に含まない。試用期間なし
業務内容 診察、治療、疾病の予防、健康管理等医療刑務所長、医療少年院長、大規模刑務所の医務部長等、医系幹部職員への登用の道あり
経験 応相談
勤務日数 週5日
当直 なし
勤務時間 8:30~17:00(休憩12:15~13:00)※1日当たり7時間45分勤務 残業はほとんどなし ※希望によりフレックスタイム制が利用可能 外部医療機関や大学等における調査、研究が一定の要件を満たす場合、公務と認められる。また兼業も認められる
休日 週休2日 年次休暇20日間、最大40日間 ほか病気休暇、特別休暇、介護休暇あり
待遇 扶養手当、住居手当、期末・勤勉手当等支給 希望により隣接する宿舎に無料で入居可能、または通勤手当支給
勤務地 静岡県静岡市葵区東千代田3-1-1
交通 JR静岡駅からバス約20分、タクシー約10分
TEL:
048-600-1500
HP:
http://www.moj.go.jp/KYOUSEI/SAIYO/