法務省矯正局

国家公務員として刑務所でのプライマリケアに従事
兼業や研究を活用したキャリア形成も可能に

武田 智博
高松刑務所 医務部
医療第三課長
1984年大阪医科大学医学部卒業後、自らの出身地である香川県に戻り、香川医科大学(現 香川大学)消化器外科に入局。同医学部附属病院での研修後、同病院のほか、香川県内はもとより隣接する他県の市中病院などでも経験を積み、矯正施設や国立ハンセン病療養所での診療にも従事。2018年4月より現職。

武田 智博氏

施設での矯正医療に従事し
必要な医療を適切に提供する

多様なしがらみに満ちた現場を離れ、自らの判断で患者に必要な医療を適切に提供する。長く現場を経験した医師が感じる「医療本来の姿を実現したい」という思いをかなえる選択肢の一つが、国家公務員として矯正医療に従事する道だ。

矯正医療とは全国各地の矯正施設(刑務所、拘置所、少年院、少年鑑別所など)で、被収容者に対する健康管理や診療を行うもの。被収容者の有病率は高く、更生や社会復帰に矯正医官の力は欠かせない。多くの施設はプライマリケアが中心となり、必要に応じて近隣の病院での診療や、より充実した医療が提供できる矯正施設への移送を行う。1951年には日本矯正医学会が設立されるなど、矯正医療の研究や症例報告も盛んに行われている。

こうした矯正医療に従事する医師は、矯正医官と呼ばれる法務省の国家公務員(官名は法務技官)で、安定した収入や保障が得られる点も魅力。報酬を得る兼業が原則禁止とされる公務員ながら、兼業等の特例(後述)が認められるなど柔軟な働き方ができるのも特徴だ。

無医村よりも近くにある
医師不足が続く施設に転職

大阪医科大学を卒業後、香川医科大学の大学病院や各地の市中病院で経験を積んだ武田智博氏が、高松刑務所(香川県)の矯正医官に転職したのは2018年4月。兼業等の特例を生かし、同所での診療や徳島刑務所への応援診療といった矯正医官の業務に加え、外部施設で平日3コマ・土曜日終日の診療を行っている。

「私も60歳を過ぎたので、勤めていた病院を退職し、当所で落ち着いて診療する予定だったのですが……。あちらこちらから声をかけていただき、かえって以前より忙しいような状況です(笑)」

やりがいに満ちた顔でそう語る武田氏。専門は消化器外科で、大阪医科大学卒業後、まだ卒業生が出ていなかった香川医科大学の医局に入局。小規模でアットホームな環境で貴重な経験ができたと振り返る。

医局から派遣される医療施設の地域・規模はさまざまで、病院の立ち上げも何度か経験するなど忙しい日々を送ったと武田氏は言う。その後、40代になってワークライフバランスを見直したいと考え、医局を退局。派遣先で培った人の縁で転職先を紹介され、最終的に香川県中部の病院で10数年勤めることになった。

そんな武田氏に矯正施設への転職を勧めたのは、勤務先の近くにあった基幹病院の外科部長だったと言う。

「私が退職後の進路として無医村での診療も考えていると聞いて、もっと身近に医師を切実に求めているところがあると助言をいただいたのです」

調べてみると矯正医官は欠員が続いており、2017年にようやく減少に歯止めがかかって増加に転じたものの、依然として一部の施設は医師不足。武田氏は通勤にも便利な高松刑務所でも常勤医の募集があると知り、転職を決めた。

外部の医療施設と変わらない
設備と心構えで診療に臨む

高松刑務所は所内の被収容者を診療するだけでなく、「医療重点施設」の一つとして、四国内の矯正施設では検査・治療が難しい被収容者を受け入れており、患者の症状は生活習慣病をはじめ多岐にわたる。なお専門的な治療や長期入院が必要な治療の場合は、全国に4カ所ある「医療専門施設」で対応している。

高松刑務所の常勤医は武田氏を含め6人で、一般の矯正施設より多めに配置される。設備も豊富でX線検査、上部内視鏡検査、エコーなども実施でき、医療機器が充実している。さらに腎疾患の被収容者のため透析治療の設備も整えている。このように外部の医療施設とさほど変わらない設備のもと、これまでと同じ気持ちで被収容者を診ているという武田氏。

「もともと患者さんと同じ目線での診療を大切にしており、当所での診療もその姿勢は変わりません。詐病についても、万一を考えて重大な病気ではないかを確認する鑑別診断は丁寧に行います」

こうした矯正医官について、「ある程度経験を積んだ医師が落ち着いて仕事をするにはいい職場」と武田氏は評価する。

診療内容はプライマリケア主体のため、自分の専門以外も最低限の診療ができることが条件だが、施設間のクローズドなネットワークを通じて他施設の矯正医官に助言を求めることもできる。

「自分一人ですべてを抱え込む必要はありません。また外部の医療施設での兼業や大学等での研究も可能なため、医療レベルを落とさずに矯正医官を続けられるでしょう。新たなキャリアに向けた準備期間としても活用してほしいですね」

他施設での兼業も可能になり
目的に応じた働き方ができる

最後に前述した兼業等の特例について紹介する。2015年に施行された「矯正医官の兼業の特例等に関する法律」により、週38時間45分の勤務時間のうち、週19時間まで他の医療施設での兼業が認められている。また大学や研究機関等での調査研究など医療知識・技術の向上に期待できる場合は、週19時間までなら勤務時間扱いとなる(下図参照)。

定時で診療が終われば、それ以降をプライベートの充実や新たな学習機会に充てられ、兼業や調査研究を通じて専門的な経験も積めるだろう。ゆとりある勤務形態で、一人ひとりの目的に応じた働き方を選べるのが矯正医官の魅力だ。

もちろん安全には十分配慮され、診察時は基本的に複数の刑務官(矯正処遇や警備を担う職員)が同席する。診療中に医師と患者が一対一になることも多い外部の医療施設とは対照的だ。

法務省矯正局は北海道から九州・沖縄まで全国を8地区に分け、地区ごとの矯正医事課が採用等を担っている。担当者から個別説明を受けたり、施設を見学したりすることも可能なので、希望するエリアがあれば、募集の状況などを該当する矯正医事課に問い合わせてほしい。

高松刑務所/JR高松駅から車で約10分、高松琴平電鉄の松島二丁目駅も目の前と通勤に便利。全国に9カ所ある医療重点施設の一つで、同所内に加え、四国の各矯正施設では検査・治療が難しい被収容者も受け入れる。

高松刑務所内には透析や内視鏡検査などに必要な医療機器もそろう。

被収容者の診察時は、基本的に刑務官が複数名同席する。

定時勤務を基本として、
他の医療施設との兼業や大学等での研究も可能に

矯正施設の勤務は1日7時間45分・週38時間45分で、基本的に週5日8:30から17:00まで勤務し、週2日が休日となる(施設により一部異なる)。さらに2015年に施行された特例法により、週19時間以内なら「勤務時間内の兼業や調査研究」もでき、以下のような柔軟な働き方が可能になった。もちろん夜間・休日の兼業や調査研究は、週19時間以内の枠にとらわれず行うことができる。

  • ・専門医の更新やスキルアップのため、多数の症例を扱う医療施設で兼業する
  • ・調査研究や医療技術の向上などを目的に、大学や研究機関等で研究を行う

平日5日勤務で土日を休日にした例

平日の一部と休日を兼業に充てた例

※勤務時間中に兼業に充てた時間分は国からの給与が減額される。
大学や研究機関等での調査研究は勤務時間として扱われる。

DATA

正式名称 法務省矯正局
募集科目 内科、外科、精神科など応相談 ※採用施設によって異なる
給与 年収1,000万円〜(税込) 国家公務員として一般職の職員の給与に関する法律の規定に基づき、医療職俸給表(一)を適用 給与月額は医師免許取得からの経験年数等に応じて決定 ※固定残業代は給与に含まない。試用期間なし
業務内容 診察、治療、疾病の予防、健康管理医等 医療刑務所長、医療少年院長、大規模刑務所の医務部長等、医系幹部職員への登用の道あり
経験 応相談
勤務日数 週5日
当直 採用施設によってはあり
勤務時間 8:30〜17:00(休憩12:15〜13:00) 1日当たり7時間45分勤務 残業はほとんどなし ※希望によりフレックスタイム制が利用可能 外部医療施設や大学等における調査研究が一定の要件を満たす場合、公務と認められる。また兼業も認められる
休日 週休2日 年次休暇20日間、最大40日間 ほか病気休暇、特別休暇、介護休暇あり
待遇 扶養手当、住居手当、期末・勤勉手当等支給 希望により採用施設に隣接する宿舎に無料で入居可能、または通勤手当支給
勤務地 全国の刑務所、拘置所、少年院及び少年鑑別所 ※採用施設及び時期は応相談
交通 採用施設により異なる
TEL:
札幌矯正管区 矯正医事課 011-783-3911
仙台矯正管区 矯正医事課 022-286-0111
東京矯正管区 矯正医事課 048-600-1500
名古屋矯正管区 矯正医事課 052-971-5961
大阪矯正管区 矯正医事課 06-6941-5751
広島矯正管区 矯正医事課 082-223-8161
高松矯正管区 矯正医事課 087-822-4455
福岡矯正管区 矯正医事課 092-661-1137
HP:
http://www.moj.go.jp/KYOUSEI/SAIYO/