VOL.109

診療のゴールが明確な消化器内科で
内視鏡検査を多数経験して
達成感と自分の成長を実感

総合大雄会病院
消化器内科 深見 正高氏(33歳)

愛知県出身

2015年
関西医科大学医学部卒業
大阪府済生会泉尾病院 初期臨床研修医
2017年
大阪府済生会泉尾病院 後期臨床研修医
2019年
総合大雄会病院 消化器内科 入職

当初は開業医になることをイメージし、初期研修や後期研修で総合診療的な内科で経験を積んだ深見正高氏。しかし多様な症状を総合的に診るだけでなく、自分なりの強みも身につけたいと考え、内視鏡の検査・治療に力を入れる病院に転職。転職して1年足らずで内視鏡検査の時間が大幅に短縮できたなど、著しい成長を見せる深見氏の軌跡を追った。

リクルートドクターズキャリア5月号掲載

BEFORE 転職前

総合診療を経験するだけでは
自分の強みが育ちにくいと感じ
内視鏡を専門にするため転職

初期研修医の定員が少なく
忙しく働ける病院を選択

後期臨床研修の時期に消化器内科に興味を持ち、その専門性を高めたいと考えて2019年に総合大雄会病院(愛知県)に転職した深見正高氏。現在は上部・下部の消化管内視鏡検査、ポリペクトミーやEMRによる治療などを中心に診療を行っている。

深見氏が医師を目指したきっかけは、地元で長く開業医を続ける父親をはじめ父方の親戚に医師が多く、自分にとって最も身近な世界だったからだという。

「ところが最初のうちは『何としても医師になる』という強い決意を持っていなくて、一時は目的を見失って学業に身が入らず、成績にも悪影響が出てしまいました」

その後、父親に諭されたことなどもあって一念発起し、大阪の大学に入学。卒業後の初期臨床研修は大阪市内の病床数400床超のケアミックス型病院で行った。

「この病院はとてもアットホームな雰囲気で、初期研修医の募集定員が4人と少ないことも選んだポイントでした。大学での経験から、私は大人数の中で自主性に任されるより、少人数で次から次にやることがあった方が身につくタイプだと実感していましたから」

実家の医院を継ぐことも
視野に総合診療を学ぶ

深見氏は1年目に内科、循環器内科、消化器内科、外科など多様な診療科を経験。循環器内科はカテーテルの扱いが苦手に感じられ、循環器という生死に直結する臓器を診る覚悟が決まらなかったと深見氏。一方、消化器内科では内視鏡で検査や治療を行う手技に興味をひかれたという。

「しかし、初期研修2年目は内科を中心としたプログラムを選びました。同院の内科は生活習慣病、脳神経疾患、呼吸器疾患、血液疾患、血液透析が必要な慢性腎不全など診療分野が多岐にわたり、プライマリ・ケア医の養成も視野に入れた教育が特色。いずれは実家の医院を継ぐことも考えて、今のうちに総合診療的な見方も経験しておきたいと考えたからです」

指導医のバックアップを受けながら、自ら患者を問診し、診断を伝え、治療計画のインフォームドコンセントを得て、治療を行うなど、主治医となって経験を積み、初期臨床研修を終えた深見氏。そのまま医局には属さず、後期臨床研修も引き続き同じ病院、同じ診療科で行うことにした。

「私の出身は愛知県で、初期研修後は実家近くの病院で働くことも考えました。ただ、母校の医局の関連病院は関西方面や静岡県などで希望に合わず、かといって大学病院では規模が大きすぎて埋没しそうでした。それなら無理に医局に入ることもないと思い、今の病院に残ることにしたのです」

内視鏡での検査・治療に
力を入れる病院に転職

後期研修でも内科でさまざまな症状の患者を診ていたが、残念ながらそれが自分の知識や技能として積み上がっていく実感があまり持てなかったと深見氏はいう。

「幅広く診ているものの、ある症例と別の症例を比較して深掘りするなどの視点が持てず、1年ほど続けると診療のスキルが伸び悩んでいるように感じました。しかも院内には同世代の後期研修医がおらず、自分がどの程度成長したかの判断も難しかったのです」

また、同院はアットホームで働くにはいい環境だったが、内科で取得可能な資格は日本内科学会内科認定医のみ。複数の専門医の取得を考えていた深見氏は、専門性を身につけ、それを高めたいと考えて転職を検討したという。

「やはり興味があったのは内視鏡でした。後期研修の頃は内科が中心で、たまに消化器内科を手伝う程度でしたが、内視鏡は検査や治療に直結する手技が面白く、自分の専門にしたいと考えたのです」

深見氏は2018年に内科認定医を取得後、紹介会社に「愛知県内で実家に近い地域」「内視鏡に力を入れている消化器内科」「医局のしがらみがあまりない」といった条件をもとに転職先を探してもらい、その中に総合大雄会病院があったと当時を振り返る。

「条件に合致したのはもちろん、消化器内科の松山恭士先生の診療に対する熱意、後進育成の思いにひかれて転職を決めました」

AFTER 転職後

転職後は忙しく充実した日々
内視鏡検査をほぼ毎日行い
必要なら救急患者にも対応する

ゴールが比較的明確で
達成感がある治療

総合大雄会病院消化器内科の常勤医は、消化器内科統括部長兼内視鏡センター長である松山氏を中心に、ベテラン医師と若手医師で構成される。なかでも自分と同じ世代の医師が2名いたことは幸運だったと深見氏は笑顔を見せる。

「以前の病院は同世代の医師が周囲におらず、自分の成長が分かりづらくて不安でした。しかし当院にはいい意味で競争相手がいて、自分に不足する部分が見えやすいのはメリットだと思います」

また、総合診療的な内科では患者の治療のゴールが定めにくいことがよくあり、例えば肺炎は治療できたが全身状態は回復せず、さらに治療を続けるか、介護老人保健施設でしばらく療養してもらうかを悩むこともあったと深見氏。

「しかし、消化器内科は診断にもとづいていくつかの治療法を選択し、患者さんと相談して治療計画を決めるため、ゴールが比較的明確で達成感があります。しかも難しい手術では消化器内科の医師が協力するなど、一体感が生まれやすい点も違いを実感します」

同院に来て、内視鏡検査に
かかる時間が大幅に短縮

同院を選んだ大きな理由として、松山氏をはじめ院内の教育体制がしっかりしていた点をあげる深見氏。転職して1年に満たないが、検査から治療までを一つの流れと捉え、基本の手技とその応用について段階を踏んで教わり、以前の伸び悩みが信じられないほど成長を実感しているという。

例えば入職直後に内視鏡検査を行ったときは、頑張っても12分ほどかかったのが、今は数分程度で検査が終わるようになっている。

「松山先生は私をはじめ若手医師の検査や手術に必ず同席され、必要な点をアドバイスしてくれたり、場合によっては実際に手技を見せてくれたりと、マンツーマンで教えてくれます。大腸内視鏡も手順を筋道立てて教えていただいたおかげで、途中で内視鏡が入らなくなっても、S状結腸まで届いたから、ひねってうまく通過させるなど、手順に沿って迷わず進めるので時間のロスがなくなりました」

次のステップは大腸ポリープの切除で、ポリペクトミーからEMR・ESDなどの高度な手技まで、理論と技術を身につけることだという深見氏。以前からポリープ切除は行っていたが、その場で考えて対応するため効率が悪く、精度も低かったのだという。

「また、松山先生も関東にある内視鏡治療のハイボリュームセンターに現在も月2回のペースで出張し、直接指導を受けるなど、自ら知識・技術を磨いて成長されている点も尊敬しています。当院にも同センターで内視鏡治療を得意とする先生方が定期的に教えに来られるなど、勉強の機会が豊富なのはとてもありがたいですね」

EMRやESDにも習熟して
内視鏡を自分の強みに

現在の深見氏は始業後に病棟回診に加わった後、午前中は週1回の外来診療を除き、ほぼ毎日内視鏡検査を行う。できる限り痛くないよう、必要なら鎮静剤を使うことも同院の特色。午後は入院患者を診療し、その合間に病棟からの問い合わせに答え、救急科の要請で救急患者を診ることもある。

「以前より忙しく、一日が短く感じるなど充実しています。救急対応は救急科が吐血の初期対応などを済ませ、消化器内科は内視鏡で止血処置をするだけなので、思った以上に負担は軽く感じます」

ここ数年でEMRやESDに習熟し、どこでも通用するレベルにまでなりたいと深見氏はいう。

「将来的に実家の医院を継ぐとしても、それまでに内視鏡という自分の強みを磨き、それを地域医療に生かしたいと考えています」

内視鏡治療を行う深見氏 画像

内視鏡治療を行う深見氏

WELCOME

転職先の病院からのメッセージ
三次救急も含む急性期医療に幅広く対応

鎮静剤を使う内視鏡検査で
がんの早期発見に注力

同院は愛知県北西部、岐阜県に隣接する尾張西部医療圏にあり、がん治療、脳卒中・心筋梗塞をはじめとする重篤な疾患の治療、三次救急などに対応する急性期病院として地域医療の中核を担う。

消化器内科は救急科専任の医師と協力して救急医療に寄与するとともに、内視鏡センターでがんの内視鏡検査、EMRやESDなどによる治療にも力を入れている。

松山恭士氏は2017年に同院消化器内科統括部長に就任。ESDによる治療も行い、就任当初は年数件だった実施件数を2019年には年40件近くに引き上げた。また、がんで亡くなる人を減らしたいとの思いから、早期発見に役立つ内視鏡検査に積極的だ。

「愛知県では鎮静剤を使った内視鏡検査はさほど普及しておらず、大腸内視鏡は痛いから避けるという方も多いのです。そこで当院は楽に受けられる検査を提供して、地域住民のがんを早期発見する機会をもっと増やしたいのです」

同院は多様な診療科を持つ総合病院で、がん以外に脳や心臓、腎臓などに疾患があっても対応できる点が強みだと松山氏。

「同じ病棟にある消化器内科と外科はもちろん、各診療科とも垣根はほとんどなく、連携した治療も得意。当科では外科との合同手術も増やしたいと考えています」

加えて同科は後進の育成にも熱心で、深見氏はその環境を大いに生かし、入職して1年ほどで診断の精度や内視鏡のスキルが大いに向上したと松山氏は評価する。

「実際に検査している時間は数分と大いに短縮され、当科で行う内視鏡検査の件数も増えました」

松山氏を含む同科の医師は、関東のハイボリュームセンターに在籍する内視鏡エキスパートに定期的に直接学び、高度な治療技術を習得できる機会もあるという。

「私が尊敬する先生の『自分一人で診られる患者数は限られるが、自分が教えた医師が活躍すれば、より多くの患者さんが救われる』の言葉通り後輩を育て、自分もそれによって成長し、患者さんのための医療を実践していきます」

松山 恭士氏

松山 恭士
総合大雄会病院 消化器内科統括部長
兼 内視鏡センター長
2000年金沢大学医学部卒業。公立陶生病院で研修後、名古屋大学医学部消化器内科に入局し、複数の基幹病院で経験を積む。国立がんセンター中央病院研修生、NTT東日本関東病院消化器内科特別研修生・スタッフを経て、2017年から現職。日本内科学会認定内科医、日本消化器病学会消化器病専門医・指導医、日本消化器内視鏡学会消化器内視鏡専門医・指導医、日本消化管学会暫定胃腸科専門医・指導医、日本がん治療認定医機構がん治療認定医など

総合大雄会病院

同院の母体となる大雄会は1924年開設の岩田医院に始まり、国産初の医療用X線装置を全国に先駆けて導入するなど、進取の精神のもと地域医療と先進的医療に取り組んできた。現在は4つの医療施設、5つの介護施設などを持つ社会医療法人に成長。同院は尾張西部医療圏の中で三次救急に対応する病院の一つで、地域医療支援病院として近隣の医療機関と連携し、地域医療で重要な役割を果たしている。

総合大雄会病院

正式名称 社会医療法人 大雄会
総合大雄会病院
所在地 愛知県一宮市桜1-9-9
開設年 1924年
診療科目 内科、循環器内科、消化器内科、呼吸器内科、
内分泌・糖尿病内科、血液内科、神経内科、
腎臓内科、外科、消化器外科、呼吸器外科、
乳腺外科、心臓血管外科、脳神経外科、整形外科、
泌尿器科、産婦人科、小児科、耳鼻いんこう科、
眼科、皮膚科、形成外科、リハビリテーション科、
精神科、心療内科、救急科(救急救命科)、
麻酔科、放射線科、歯科、歯科口腔外科、病理診断科
病床数 379床(一般379床うちICU8床)
常勤医師数 113人
非常勤医師数 60人
延べ外来患者数 686人/日
延べ入院患者数 312人/日
(2020年2月時点)