診療、教育、研究だけでなく、患者家族への説明や会議、事務作業など、医師の業務は多岐にわたる。COVID-19の流行による影響で、さらに多忙になった医師もいるかもしれない。一方で、医師の働き方改革によって時間外労働は規制される見通しだ。限りある時間で、どのようにして満足度の高い仕事をするか。読者医師へのアンケートから、医師の時間管理の実態と工夫点を分析、レポートする。
ICTを用いた勤怠管理は3割。
依然、アナログのタイムカードや自己申告も多い
自身の時間管理に満足と
言えない医師は4割近く
限られた時間で医師が満足して働くには、医療機関側が医師の労働時間を正しく把握する必要がある。読者医師へのアンケートで勤務先の時間管理を訊ねると(Q1)、「ICTを用いた勤怠管理システム」が30%で最多だった。具体的には、パソコンのログイン、IDカードによる管理などが挙げられた。次に多い回答は「アナログのタイムカードで管理」(26・7%)、「自己申告で管理」(18%)の順だった。「管理されていない」という回答は13・3%で、決して少なくなかった。
Q2「自身の時間管理はうまくいっていると思いますか?」では、64・7%が「はい」と回答した一方、そう言えない医師は4割近くだった。理由は様々だが、時間管理の満足・不満足は、勤務先の管理手法にあまり関係ないようだ。ICTを用いた時間管理でも「仕事が勤務時間内に終わらない」医師がいる他、アナログのタイムカード管理で「労務担当者が計算してくれる」と満足の医師もいた。
- Q1 勤務先では、どのような方法で医師の時間管理をしていますか?
- Q2 自身の時間管理はうまくいっていると思いますか?
「患者や家族への説明は勤務時間内」が最多。
会議の削減や、退勤時間・休日日数の遵守も多数
タスクシフトの実施率は、
相手の職種によって異なる
医師の働き方改革推進の折柄、部署単位で時間管理の工夫をすることも増えてきているようだ。Q3「部署内で、時間管理の工夫をしていること」を訊ねると、「患者や家族への説明は勤務時間内に行う」(28・7%)がもっとも多かった。医療機関のウェブサイトや院内の張り紙で「医師による病状説明は、勤務時間内に行います」などと記載しているケースはよく見られるが、部署単位でも徹底を図っているものと思われる。
次に「会議を減らしている」(21・3%)、「退勤時間や休日日数の遵守」(19・3%)が上位だった。必要性の低い業務を削減し、時間管理の意識を部署内で共有している様子がうかがえる。
タスクシフト・タスクシェアは、相手側の職種によって実施率が異なるようだ。アンケートによると「クラーク・事務などのスタッフ」(16%)、「看護師などの医療スタッフ」(12・7%)、「他の医師」(8・7%)の順に実施率が高かった。医師の超過勤務防止策に医療クラークが必要だとよく言われるが、今回の自由回答でもその効果を語る声が多かった。
他の自由回答として、「時間差勤務」「医師間で患者を共有して診察」「麻酔科医同士で予定の共有を図る」などがあった。医師が業務を抱え込み過ぎないよう、部署内で協力しあっているようだ。
- Q3 部署内で、時間管理の工夫をされていることはありますか? (複数回答)
部署内の工夫の具体例
- 退勤時刻は厳守であることを共有(放射線科・30代後半・女性)
- 医局会の効率化、医療事務の導入(泌尿器科・50代前半・男性)
- 書類のパターン化を目指している(精神科・40代後半・男性)
- 入院証明書などの保険関連の書類は、専門事務が代筆(小児科・40代前半・男性)
- 夕方に行っていた会議を昼にする工夫をしている。コロナの関係でWeb会議のシステムができたので、多くをWebに移行してきた(その他外科系・50代前半・男性)
- 漫然と業務を繰り返さない。業務量が増える時には、慎重に考える。終わっていなくても時間でやめる。先延ばしできるものは延ばす。できない仕事は引き受けない(精神科・50代後半・男性)
- 土日の回診業務も分担する。そのため心臓血管外科医師であるが、土日は出勤しないことも多い(心臓血管外科・30代後半・男性)
すき間時間の活用、ToDoリストの作成…
デジタル&アナログを駆使し、時間を有効活用
短期的な目標を設定し、
時間を管理する医師も
医師が個人的に実施している業務上の時間管理について訊ねた(Q4)。「すき間時間の活用」(38・7%)がもっとも多く、僅差で「無駄な業務の削減」(36・7%)、「ToDoリストの作成」(36%)が続いた。ToDoリストは医師によって手法が様々なようで、「Outlookのタスク(期限のあるものメールを使うもの)と、ノートのToDoリストを併用」「忘れては絶対にいけないことは、見えるところにリスト化している」などの実践例が寄せられた。
「目標設定をしている」(19・3%)、「1日を振り返り、改善点を検討」(13・3%)と、自分の内面にかかわる回答はあまり多くはなかったが、「今週までにこれは終わらせるといった短期間の簡単な目標を立てる」と、意識的に取り組む医師もいるようだ。
また、「その他」と回答した医師から「なるべく早く治して、再診も少なくしている。結果、評判は良くなってリピーターは定着し、総仕事量はそう多くならない」と、診療そのものを時間管理に結びつけている声があった。この他、「自分宛に患者情報添付の院内メールを送って、後で検査結果の確認や症例の記録に用いている」という例もあった。
なお、回答者の中でもひときわ熱心に時間管理をしている医師に取材した。下囲みに紹介する。
- Q4 個人的に、時間管理の工夫をされていることはありますか? (複数回答)
個人的な工夫の具体例
- 同僚との連係、役割分担の明確化、カバーする体制と情報共有(循環器内科・60代前半・男性)
- 返書は定型文にしている(精神科・40代前半・男性)
- 残業せず、昼休みにできるだけ仕事をこなす(眼科・40代後半・男性)
- 3分以内に終わるタスク(書面の確認、メールの返信など)は依頼されたその時点で終了させる(一般内科・30代前半・男性)
- Outlookのスケジュール内にToDoリストを作って見える化(産業医・40代後半・女性)
- 読影などは優先順位をつけて、急ぎでないものは翌日以降に回すなど、事務系の担当部署とスケジュールを相談しながら、仕事のプランを立てている(一般内科・30代後半・女性)
- 毎日夕方にやり残したことをメモする(一般内科・50代後半・男性)
- まず机の整理を徹底(小児科・50代前半・男性)
- サマリーの書きやすいカルテ記載(糖尿病内科・40代後半・男性)
- 研修医の時にもらったTodoリストを工夫(一般内科・60代前半・女性)
達人医師の成功事例
40代後半・男性・大学病院・脳神経外科
1分以上のタスク全てを視覚管理。
「先延ばし防止効果」を実感
もともと整理整頓を好む性格で、野口悠紀雄氏の「『超』整理法」や、David Allen 氏の「GTD」 (Getting Things Done)などのタスク/プロジェクト管理法を試行錯誤してきました。ここ数年は、GTDから派生した「タスクシュート時間管理法」を愛用しています。
この時間管理法では、1分以上かかるタスク全てを事前にExcelに書き出し、その日に必要なタスク時間を見積ります。タスクシュートが示すタスク (=自動生成される繰り返しタスク+別途自身でスケジュールしたタスク) を逐次実施するだけでよく、行動選択にエネルギーを使いません。実施時には開始時刻と終了時刻を入力するため、見積り修正も容易です。
脳外科医の業務には、外来や手術など比較的受動的にタスクが決まるものと、自主学習や研究など能動的に計画せねば進まないものとがあります。後者は往々にして先延ばしされがちで、タスクシュートは重要タスクの場当たり的先延ばし防止に有効と感じています。
過半数が「先に予定を入れる」で時間を捻出。
息抜きの時間を音楽やスポーツにあてる医師も
家族とのスケジュール共有は
ICTツールの活用が定番?
Q5「プライベートの時間管理で工夫していること」を聞いたところ、過半数の医師が「予定を前もってスケジュールする」と回答した。自由回答には、「外食スケジュールを組んでいる」「土日に仕事を持ち込まないように心がける」などという声があり、意識的にON・OFFの区別をつけているように見受けられる。
次に回答が多かった項目は「ストレス発散・息抜きの時間を作る」(36・7%)。一般に、時間管理は単に時間を捻出するだけでなく、その時間を有効活用できてこそ成功とする向きがある。読者からは、息抜きの時間を音楽や運動などにあてているという声が寄せられた。「アフター5は全力で趣味に打ち込んだり、愚痴を言い合ったりして、ストレスはその日のうちに全て解消」という回答もあった。
3番目に回答が多い「家族とスケジュールを共有」(31・3%)については、PCやスマートフォンのカレンダーを用いている医師が多いようだ。一方で、「家族全員が集まる食卓の近くのカレンダーに、予定一覧を全員が記載する」という回答もあった。
最後に、時間管理における重要事項を訊ねた(下囲み)。すき間時間活用などのテクニックだけでなく、時間の有限性や自分の限界を意識することなどが効果的な時間管理の要として挙げられた。
- Q5 「プライベート」面で、時間管理の工夫をされていることはありますか? (複数回答)
プライベート面の工夫の具体例
- 楽器演奏で息抜きをしているが、息抜きが過ぎて時間が足りなくなる(小児科・50代後半・男性)
- なるべく仕事と区分して考えなく過ごせる時間を確保している(一般内科・50代前半・男性)
- 子どもと一緒に寝るのが安らぐので、一度子どもと寝てから深夜に起きて作業をしている(精神科・40代前半・男性)
- Googleカレンダーで家族と学校と仕事のイベントは全て共有。夜に夫婦それぞれ自分だけの時間を確保しつつも、会話をする時間も作っている(一般内科・30代前半・男性)
- 乾燥機付き洗濯機、食器洗い機、お掃除ロボット(小児科・40代前半・男性)
- 往復1時間の通勤時間に語学学習(一般内科・50代前半・女性)
- 運動する時間を意図的に作って、友人との交流を深めるようにしている。運動している医師は、皆共通して充実している印象がある(心臓血管外科・30代後半・男性)
- コロナで在宅が多くなった子どもたちとの時間を、料理などを通して作っている(その他外科系・50代前半・男性)
- 何もしない一人の時間を作る(その他内科系・50代後半・男性)
まとめ
心構えや、一番役立つと思われる
時間管理術についてのアドバイス
- だらだらせず、時間を区切って作業を行う(泌尿器科・40代後半・男性)
- 定時退社できる予定を立てる。翌日に回せる業務は無理せず残す(産業医・40代後半・女性)
- 人生は有限であり、死の時間まであと数十年あるように思えるが、実際に活動できる時間はほんの僅かであることを認識する(一般内科・30代前半・男性)
- 睡眠時間を削らない。仕事中の集中力低下がもっとも非効率と思うため(麻酔科・30代前半・女性)
- 朝早く出勤して夕方早く帰る(小児科・50代前半・男性)
- 仕事を選ぶか、専門を選ぶか、家庭を選ぶか、自分の趣味を選ぶか、はっきり決心する。妥協も大切です(整形外科・50代後半・男性)
- 「自分にはここまでしかできない」ということをはっきり告げる勇気を持つ。他人に失望されたくないとか、良い格好をしたいとか、そういう考えは捨てること(一般内科・30代後半・女性)
- 休日は徹底的に休む(一般内科・60代前半・女性)
- 計画段階で無理しない。できそうでも仕事量は余裕を持つ(精神科・50代後半・男性)
- 【アンケート概要】
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◆調査方法:リクルートドクターズキャリア会員登録者へのインターネット調査
◆調査時期:2020年12月
◆有効回答数:105人
◆男女比:男性86.7% 女性13.3%
うまくいっている or いっていない理由は?