Medical English キャリアアップのための英語術

  • 記事公開日:
    2023年06月09日

自動翻訳が発達する AI 時代は「英語ができなくても困らない時代」と言えます。このように英語学修の外的動機が弱くなる一方、「やっぱり自分で英語を使えるようになりたい」という内的動機がこれからの時代の英語学修の動機となります。ここではそんな「やっぱり自分で英語を使えるようになりたい」と感じる医師に向けて、キャリアアップに繋がる英語のヒントをご紹介します。


英語での質疑応答を乗り越えよう!

コロナ禍で学術集会のあり方は大きく変わりました。オンラインでの学術集会は職場や自宅からの参加を可能とし、これまではかなり高かった国際学会の敷居も低くなってきました。また画面越しでの発表では原稿を読み上げてもそれほど不自然ではないので、「オンラインであれば英語での発表もそれほど難しくはない」と感じている方も多いことでしょう。

このように敷居が低くなった英語での学会発表ですが、それでも多くの日本人医師は「質疑応答の際に英語の質問を正しく聴き取れる自信がない!」ということを心配していると思います。

このような方にまずお勧めしたいのが「座長を通訳として使う」ということです。

学術集会では全ての口頭発表に「座長」 chairperson/chair がいます。その役目は主に「指定された時間内に担当するセッションを終えること」「質疑応答の論点整理をすること」「会場から質問がない場合には自ら質問すること」の3つです。ですから発表者が会場からの質問を理解できずに困惑するのは、座長にとっても望ましい状況ではないのです。

もし皆さんが英語の質問を正しく聴き取れる自信がない場合は、あらかじめ座長を務める先生に下記のように伝え、「通訳」として助け舟を出してくれるように依頼することをお勧めします。

“I’m concerned that I may not be able to understand questions from the floor correctly. Would you mind paraphrasing the questions into easier phrases so that I can understand them correctly if I have trouble understanding?”
「会場からの英語の質問を正しく理解できる自信がないので、私でもわかるようなわかりやすい英語に言い換えてもらえませんでしょうか?」

もしある程度「このような質問が来ると思う」と想定できる場合、想定した質問とそれらへの回答を用意しておいて座長に事前に渡すことも可能です。多くの口頭発表では質問する時間が限られているので、質疑応答の場面で座長がそれらの質問を会場での質問と関連付けるのも議論を進める上で有効と言えます。また先述したように座長には「会場から質問がない場合には自ら質問すること」が求められていますので、聴衆から質問がない場合には皆さんが用意した質問をすれば良いのです。このような提案をされて喜ばない座長はいませんので、もしも皆さんの方でどのような質問があるかを想定できる場合には、下記のように座長に伝えて質問と回答を書いた紙を渡しましょう。

“I have prepared these answers for several possible questions, so if you could relate the questions from the floor to these prepared answers, I’d really appreciate it.”
「いくつかの質問を想定してそれらへの回答を用意してきましたので、聴衆から質問があった場合、これらの質問に関連付けて頂けますと助かります。」

学会発表の真の価値は質疑応答での議論にあります。そして質の高い議論をするためには「質の高い質疑応答」を見ておく必要があります。そのための資料として重要なのが Correspondence「通信欄」と呼ばれる論文です。これはその学術誌に過去に掲載された原著論文に関する Letters to the Editor「読者から編集者に寄せられた手紙」Author’s Reply「著者からの回答」からなる論文であり、言い換えれば「発表された原著論文に関する厳選された質疑応答」なのです。自分の研究分野の原著論文の Correspondenceを数多く読むことで、どのような内容が、どのような英語表現を使って質問されているかを事前に学ぶことができるのです。

原著論文の Discussion「考察」では、一般的に Interpretation「研究結果の解釈」Generalizability「研究の限界」を記述します。数多くの Correspondence を読んでいれば気がつくのですが、Correspondence で掲載される Letters to the Editor ではこの Generalizability に関するものが多いのです。したがって「自分の研究にはどのような質問がされるのか、皆目見当もつかない!」という方は、自分の研究の Generalizability に注目して質疑応答の準備をすると良いでしょう。

そして学術集会は他の発表者が質疑応答でどのように振る舞っているかを観察できる良い機会です。優秀な研究者が質疑応答でどのように振る舞っているかをしっかりと観察することで数多くのことを学ぶことができます。また学術集会では自分の発表でどのように質問に応答するかだけではなく、「他人の発表でどのような質問をするか」ということも重要になります。他の聴衆がどのような質問をしているか、どのような質問が良い質問か、という視点を持って他人の質問を聴くことも有意義です。また自分が質問をする際には「他の聴衆の時間を奪って質問をしている」という自覚を持ち、「他の聴衆にとっても有用な質問であるかどうか」という視点を持って質問しましょう。

初めて国際学会に参加する場合、英語が流暢な(少なくともそう見える)他の参加者とどのように会話を始めれば良いのかわからないという方も多いと思います。そこで最初に声をかける相手としてお勧めするのが「自分の発表と同じセッションとなった発表者」です。自分の発表と同じセッションとなったということは、彼らの研究領域は自分のそれと近いものであるわけですし、何より彼らは自分の発表を聴いているという「身近な」参加者です。そういう意味では学術集会後に「人脈」となる可能性が高い参加者と言えます。具体的には発表前後に座長を通して挨拶をし、懇親会でも声をかけ、学術集会後にメールを送るなどすると良いでしょう。また「他人の発表に良い質問をした参加者」も、声をかけるには良い相手です。良い質問をしたという事実だけでその人物は優秀な参加者とも言えますし、自信を持って質問ができるということは、その学会内である程度の地位を築いている可能性も高いので、その質問にコメントをするという形で声をかけると交流の良いきっかけとなるでしょう。

上記のような形で準備をすれば、初心者であっても英語での質疑応答を楽しく乗り切ることが可能です。是非次回参加する国際学会で試してみてくださいね。

監修押味貫之
  • 国際医療福祉大学医学部 医学教育統括センター 教授
  • 国際医療福祉大学 国際交流センター 成田キャンパス センター長
  • 国際医療福祉大学大学院 医療福祉経営専攻 医療通訳・国際医療マネジメント分野責任者
  • 国際医療福祉大学 総合教育センター 成田キャンパス 語学教育部 医学科英語主任
  • 日本医学英語教育学会理事
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